第2話:「見てくれ!ワイが何になったと思う!? 超絶お金持ちやで!!」 ──豪邸!美女!贅沢な生活!……って、ちょ、なんでワイが!?
無事に転生した道盛くん、果たして誰に生まれ変わったのか!?
そして、彼が出会うのは一体誰なのか――?
ぜひ最後まで見届けてくださいね〜!
「……お父様……目を……覚まして……関白殿が……お見えに……」
柔らかい何かが、俺の肌にぴったりくっついとる。
これは……美女のどこかのパーツに違いないやろ!?
でも、今の声……俺のこと「お父様」って呼んでたよな……?
……ん? もしかして、これ……俺の娘……?
なんかちょっと惜しいな……転生したなら開幕で美人妻がついてくるって相場が決まっとるのに。
でもまぁ、娘がいるだけマシやろ。
転生後に娘持ちってのも……案外悪くないかもしれへん。
こんな転生モノみたいな展開、そらもう目ェ開けずにはおれんやろ!
よっしゃ、新世界とやら、来いや!!
新しい人生、迎え撃ったるでぇ!!
可愛い娘よ、ちょっと顔見せてくれへんか〜!!
──俺が見たのは、腕にぴったりくっついた巨大な果実やった。
な、なんやこれ……最高やないか!?
よく見たら娘の顔もなかなか整っとるやん……!
俺、声出してリアクション取りたかったんやけど、なんか様子がおかしい。
声が……出ぇへん……?
「あっ……う、うあぁ……うああ……」
喉になんか詰まっとる感覚……なんで声出そうとするだけで痛むんや!?
なんで息しか出ぇへんのや……!?
手足を動かそうとしてみた。──でも……動かへん。
なんやこれ……どうなっとんねん……?
そのうえ、鼻の中になんか管が刺さってて、めっちゃ不快や……
「……ああっ……! 親愛なる父上様っ……ついにお目覚めに……っ」
「……父上……やっと……」
【(……このクソジジイ、ようやく息吹き返しやがったか……!
頼むからまだ死ぬなよ!?
遺産どう分けんねん?
会社の株式はどうすんねん!?)】
【(あーもう、いっそもう一回電気ショック入れたろか……
呼吸止まったらマズいしな……
とっとと意識戻して遺言だけ書かせてくれや……
ったく、妹が親父に色仕掛けするとかキッショ……
会社は私のもんや、諦めろ)】
二人の男の声が、娘のすぐそばから聞こえてきた。
誇張した抑揚と、空気感のズレ……なんや、これ……めっちゃ違和感あるんやけど……。
俺……もしかして、人の心の声が聞こえるようになっとる?
これって、もしかして転生モノでよくある“特典能力”ってやつちゃう!?
ちょ、待てやコラ!!
お前、俺が生き返ったんは、お前が会社の株をどうにかしたいからやて!?
なにが御曹司や、どこからどう見てもただの放蕩息子やないかい!!
はぁ……頼りになりそうなん、もう娘だけちゃうか……?
娘……見た感じ、アンタは一番マシな子やと思いたいんやけど……ちゃうかな……?
【(あの二人のアホ兄貴ら……普段は介護どころか、見舞いすら来えへんくせに、
面倒なことは全部うちに押しつけて……いざって時だけ遺産かすめ取りに来るとか、ようやるわ……。
けどな、あたしはちゃんと介護人雇っといたし、会社の取締役たちにも全部根回し済みや。
うちらの“お父様”を利用して、会社ごと奪おうなんて、そうはいかへんからな)】
──現実ってやつ、転生直後の俺にいきなりビンタぶちかましてきよった。
息子だけやと思てたら……娘までや。
……あの子まで、結局ただの自己中クズやったんか……
なんやこれ、ワイの人生、ほんま終わっとるやん……!
なんやコイツら!?
うっそやろ!?
俺、転生した先がこんなイカれた家族とか……冗談きつすぎやろ、マジで……!
【(でも……なんで豊臣家がこんなに早く動いたんや……!?
まさか……関白・豊臣秀光本人が来るって……?
親父の病状、外に漏れるはずないのに……ありえへんやろ……)】
──複数人の心の声が俺の脳内にガンガン響いてくる。
豊臣家? 関白殿?
つまり……あの有名な豊臣家の当主が、わざわざ俺に会いに来たってことか……!?
俺……なんか思い出してきたぞ……転生前に記入した転生サービスの要望書……
ちょ、待て待て待て待てぇい!!
俺が望んどったの、こんなんちゃうで!?
なんで病床で寝たきり、喋ることすらできへん状態で転生しとるんや!?
絶対おかしいやろこれ!!
サービス側、なんかミスったんちゃうんかコレぇぇぇぇ!?
俺は四方を見渡した。部屋中がやたら豪華で、いろんな高級装飾品が壁に飾られている……
……ちょ、待てや、なんで鹿の角が壁に掛かっとるんや……?
どう考えても全然アンバランスやん……。
左側を見ると、ベッド脇に鏡がある。
俺、全身の力を振り絞って首を左に向けた……。
すると、鏡に映ったのは――病的すぎる顔、鼻からチューブが突っ込まれてて、管が喉の奥までズボッと挿入されとる……。
しかもよく見たら、首の正中に穴が開いてて、管が喉の奥にズボッと挿入されとる。
喉が痛くて、異物感で……マジで気持ち悪いんやけど。
これは絶対、何かの間違いやろ……?
転生したばっかりやのに、もう死ぬ準備完了人間とか!?
なんでそないな状態で始まってんねん……!
おかしいやろ、これ絶対!!
……んん? ベッドの足元、何あのキラキラしたもん……?
触るとちょっと柔らかい……て、これ黄金なんか!?
じーっと見てみたら、なんと病床の足元が宝飾で埋め尽くされとった。
エメラルドや翡翠、ようわからん宝石がぎっしり……日本の病室じゃ絶対ないっちゅうに!
俺、結局なんになっとんねん……?
ちょ、なにこれ……!? こんな豪華すぎる生活、ありえへんやろ!?
俺、絶対なんかの間違いやって!!
俺は黄金のベッドに寝かされてて、目の前にはずらっと人の列。
一番前には、200センチ超えの巨漢が――
ま、まさか……あいつって、豊臣秀光!?
うそやろ!? なんやねんこの身長! この野郎、デカすぎやろ!!
間近で見ると……うん、まあ……けっこうイケメンやな。
卵型の顔に、黒い瞳の二重ぱっちりおめめ、
シュッとした鼻筋に、薄めのくちびるやねん……
あんま言いたないけど、テレビやとブサく映ってたやん……
何このイケメン!?詐欺ちゃうん?
ちょ、待てや、なんでワイがこのクソ猿のこと褒めなあかんねん!? アホちゃうか!?
「秀昭……ご苦労だったな。天皇陛下より、われに見舞いの言葉を託されている」
(天皇陛下はただ軽く触れてくれただけやろうけど、礼儀として言うてくるんやろな……
状況、私が想像してたよりマシやし……
関東分社の役員とは連絡取れるし……
足利家、信用でけへんやつばっかやから、一発甘い汁吸わせたら暴れ出すし……
本社と関東分社が長年対立しとったし、今回は経営権奪回、ガッチリ取りに行かんと……)
……ん? 秀昭……?
……つまり、俺はあのニュースで映っとった重病の関東分社社長、
足利秀昭やったんか……?
天皇陛下が見舞いに来るなんて……これは権威あるってことなんか?
こんなん、俺の想像とはだいぶ違うやんけ……!!!
しかもあの豊臣秀光のクソ猿、最初っから俺の会社を乗っ取る気マンマンやんけ!!
おいコラッ!! 俺まだ何も楽しめとらんのやけどッ!?
息子ら、娘ら、頼むで! 絶対あいつのクソみたいな陰謀、止めたってや!!
「このたびは関白殿下がご足労くださり、親父をご覧いただき…
天皇陛下まで動かしてしまい、ほんとに申し訳ございません」
「大坂殿下、どうか天皇陛下へもお詫びを…」
(関白殿下が直々に来るって……絶対、ええ話ちゃうやろ……)
(もう帰ってくれや……会社取り戻したいんやろけど諦められるか、ボケ
俺、取締役ともつながり済みやし……
今はあのジジイが株式握っとるから再選できへんけど……
あいつももう長くないしな。結果は絶対お前の望む形にはならへん……。)
どうやら、会社は守れそうやな……。
息子ら娘ら、最初は「もしかして使えるんちゃう?」って思たけど、あかん、やっぱりゴミやったわ。
せやけど、会社さえ守れたらそれでええ。
俺が元気になったら、あの豪華な生活、全部俺のもんや!
その時、子どもらの言い分を受け止め、関白・秀光はじっと黙ったまま。
その隣には、長い黒髪の女性が静かに口を開いた――かずさ。
「皆さま、本当におつかれさまです。
秀昭様は、私たちにとって極めて大切なお方でして……
兄上……このような状況下での分社社長の選抜、いま少しお考え直しいただけませんか……?」
「かずさ……我が妹よ。
どうして、そのようなことを考えたんや?」
私は、豊臣秀光が冷静な声で妹を問いただすのを見ていた。
その目は鋭く、かずさをまっすぐに見据えていた。
俺はその女……いや、美人を見て、思わず呟いた。
なんやこの人……俺の娘よりも綺麗やないか?
目がでかい、眉毛も綺麗、口元もええし、肌めっちゃ白くてキメ細かいし……
しかも、乳まで娘よりデカそうやし…!?
よく見たら、あのクソ猿と全然ちゃうやんけ……!
あのクソ猿を見とる時の目……なんや、妙に優しいっていうか……
まさか……!? 名門・豊臣家で、禁断の兄妹ラブ!?
経営権争奪戦に、まさかの近親恋愛ミックスとか……なんやねんこの地獄構図……!
でも……彼女の心の声、聞こえへんかった。
……てことは、今のあれ、本気の気持ちやったんか……?
(……なんや? 姫様が、そんなこと言うんか……?
……これ、豊臣家を引かせるチャンス……あるんちゃう?)
「うーん……関白殿。
私もそう思とるんすけどなぁ?
今、秀昭は病気で寝とって、株ぁ全部あの人の手ん中べ……。
うちら、どうにもできねぇべさ。
せやしよ……このまま様子見しとくのが一番ええんちゃうすか?
……なぁ、そんでええっちゃ?」
(はは……
姬様も、なかなかやるっちゃな……
うちも、ちょいと芝居に付き合ってやるべ。こりゃ、面白ぇもんが始まりそうや)
え!?
なんやて……!?
あのメスザル、芝居やったんかい!?
もしかしてあのクソ猿も気ぃ回して合わせとったってことか……!?
俺の転生特典、能力ショボすぎやろ……?
こんな演技見抜かれへんとか……俺、ほんまアホやな……!
さっき発言した人物は、舌をぺろりと出しながら、Vサインを目元に横向きでかざしてみせた。
「……秀元、今はふざけとる場合やないやろ。
関東支社の経営が問題になっとるんやで?
悠長に構えとる暇なんか、あるわけないやないか。
関白殿に迷惑かけるなんて……そんなアホな話、通るわけあらへんがな。」
(……いやもう、秀元って普段のままで芝居になるんやな。
たまにホンマに芝居か本気か分からんくなるわ……)
「まぁまぁ、秀景、そんなガチにならんでええやん〜?
その真面目っぷり、まるで景勝公が現代に転生してきたんか思たわ〜。
でもまぁ、しゃあないやん。今できることっちゅうたら、これくらいやしな〜」
上杉秀景は、きっちりとした調子で返してきた。
胸の前で腕を組むその仕草からは、なんとなく不満げな空気が伝わってくる。
……もし彼の心の声が聞こえなかったら、俺には気づけなかったかもしれない。
「秀景殿の仰ることもごもっともにございますなぁ……
されど、わたくしといたしましては、
今回に限り、秀元殿の見解に同意いたす所存でございますわいなぁ……」
(演技ちゃなかったら、死んでもあんな意見には賛成せんがいや……
なんやねん、伊達家の当主があんなアホとか……
しかも親戚とか……最悪すぎて笑わせよるわ……)
「うわぁ〜〜ん……AV博……あ、ちゃうちゃうっ!
秀喜がうちに同意してくれるなんて……感動で涙止まらんでねぇか……♡
なぁなぁ、秀信は何か言わねぇのっちゃ〜?
前田、上杉、私で意見出したべ〜?
宇喜多家の代表さんも、なんか言ってけろっちゃ〜〜!」
「……まあ、現状維持でええやろ。
ほな、秀隆に電話するわ……」
(なんやねん……名前呼ばれたみたいに急に話振ってきて……
芝居なんやし、ちゃちゃっと終わらせたらええのに……)
「……もしもし、秀隆? ああ、うん。
ちょっとな、秀元が“毛利家の当主さんのご意見も聞いときたい”って言うとってな……。
まぁ、私はただの伝言役やけどな」
「私、忙しゅうてかまっとれんけぇの……
勝手に決めときゃええんよ。
どーせ呼び出そうとしとるんじゃろ? そがぁな手ぇには乗らんけぇな」
電話が切れる音が部屋に響く。
宇喜多家の当主は投げやりに見えるけど、実際にはずっと俺の子らを観察してる。
頼むから、息子よ娘よ、気づいてくれへんかな!?
この五人のやりとり、芝居として通用すると思うか?
うちの子らなら見抜いてるやろ?……やろ!?
(五大老と豊臣家で意見が食い違ってる……?
豊臣家の内部も一枚岩やないんか?
もし秀光殿を押し退けられたら、それが勝利や!)
(もし、豊臣の姫君がそう考えとるんなら……
あるいは……取り込める可能性もある、か)
ちょ、ちょっと待てやうちの子ら!!
なに夢みたいなこと考えてんのや!! あれは芝居やぞ!?
うちの長男と末娘の心の声に、俺は絶句した。
あんなヘッタクソな演技を見抜けんとは……
(五大老の中で……伊達秀元はチャラいけど、
もしかしたら、一番味方に引き込みやすいかもしれへん……
彼の支持が得られたら、
あのアホな兄貴と妹には負けへん……!)
って、おい、次男までそんなアホなこと考えてるんか……?
アホちゃうんか、お前……
神様……なんで俺、転生してまでこんな目に遭わなあかんねん……
なんもできへんやんけ、これ……!
「やったやった〜! 五対一だっちゃ〜! 一票は棄権すたんだべ〜!
うちらの総意、ちゃんと聞いといてけろな〜関白殿ぉ〜〜!!」
伊達秀元は相変わらずのニヤニヤ顔で勝ち誇っていた。
それに対し、あのサル顔の男がじろりと睨みつけるが……。
「そない怒らんといてけろな〜
ちょっとはうちらの意志も、尊重してくれてもええんちゃう〜?
それに、関白殿〜、まだ他の会議すっぺやろ?
ここは〜うちらとお姫様に、任せてくれへんかな〜? なぁ〜?」
「……皆がそう言うんやったら、うちとしても、
グループの経営の安定を優先せなあかんやろ。──今回は、秀元、あんたの意見、呑ませてもらうわ。
……せやけど、今回だけや。勘違いせんといてや。」
(後は任せる……秀元、私はこれで失礼する)
「やった〜! ばんざ〜い、ばんざ〜い! 天下はうちらのもんや〜!」
(あっ、光ちゃん、めっちゃキレてるぅ〜!
なにその中二病な台詞、草生えるっちゅうねんww)
(どうやら五大老と豊臣秀光殿の間で温度差があるみたいやな……
これはチャンスや!!!)
俺があのサル面を見てると、秀元を睨みつけて、そいつはそのまま踵を返して部屋を出ていった。
追い出されたっちゅうより、最初っからグルやったとしか思えへんわ!!!
おいおい、うちの子ら、あんなヘボ芝居に騙されるとか……
もうちょい頑張ってくれや! パパの財産、守るためにもな!
「……これで残っとるんは、うちらだけっちゅうことかいな」
宇喜多秀信が眼鏡をクイッと押し上げ、部屋を見渡した。
……なにカッコつけてんねん、この男。
「きゃ〜ん、秀信かっこええや〜ん!
強引にリードしちゃうタイプやったんだっちゃ〜!
ほな次は、バックアップ案でも話し合うてみるすぺか〜?
だって秀昭の様子、あんま良うないべ〜?」
伊達秀元は腰をくねらせながらニヤニヤと話す。
「せやなぁ……
けど、こっからは分けて話さなならんやろ。
秀德殿、ちぃと外で一緒に話そか。
……それと秀景殿、悪いけど、あんたも来てくれんかのぅ。」
(ん? もしかしてこれは、後継者の話……?
もしこの二人の支持が得られれば……
アホな弟にも勝てるかもしれん……!)
三人が部屋を出ていくのを睨みながら、
……うちの長男、なんであんな話にホイホイついてくんねん……
世の中そんな都合ええ話転がっとるわけないやろ……アホか、ほんま。
「うーん……
秀信に先越されてもーたな〜?
なあなあ、うちらもそろそろ動いたほうがええんちゃう?
秀宗はんも、なんか一言ゆうてみたらどや〜?」
「……まさか、貴方が……?」
「いや〜ん♡ そだなコト言わねぇでけろや〜!
言われだら、うぢ、照れてまうべさ〜♡
なぁなぁ、ちょっと外で話そかい〜?
行ぐべ〜、秀喜〜〜っ」
(……マジかよ。
五大老の中で、味方してくれる人、一人もおらんのかい?
もし奴らが継承の話をしとるなら……
あのジジイが持ってる6割近い株、取られたら……
私、詰むで!?
取締役会でどんだけ支持取りつけても、
あのアホ兄妹に会社握られたらどないもできへん……
あの6割、絶対に押さえなあかん!)
娘の焦った心の声が耳に響くなか、三人は部屋を出ていった。
前田秀喜は、あからさまにムッとした顔で、伊達秀元をギロッと睨みつけとる。
ほんで出ていく直前にな……うちの娘を――ちゃうわ、あのアホのメスザルをチラッと見よったんや……!
「……どうかなさいましたか?
ちょっと緊張してはるみたいやけど、
何かご心配なことでも?」
そのメスザルは、柔らかい声で娘に問いかける。
「……姬樣は、関東支社の経営方針を、
誰に任せるべきだと思いますか?」
娘がそう問いかけた瞬間――舞台の幕が上がった。
この問いが何を意味してるのか、俺は考えたくなかったが、
はっきりしてることがある――
少なくとも、俺にとっては、これは……
絶対にええ展開やない。
息子ふたりと娘たちは、それぞれ一体どんな話をされたのか?
関東分社の経営権争いの行方は――?
次回もぜひお楽しみに〜!
(今週中に書き上がるといいな、ははは……)