第1話: 実践!階級ジャンプや!ワイ、転生するで!!
これは転生モノの作品です。
――「とっても普通」なやつです。
きっと皆さんがよく知ってる“あの感じ”が、ここにはあります。
現実逃避したいそこのあなたにも、ピッタリですよ〜!
脳みそは横に置いといてOK!
リラックスして読んでくださいね〜♪
……でも、読み終わったら脳みそちゃんと拾ってくださいね?
だって、会社の上司に「脳みそどこやった?」って聞かれて――
「転生系作品の隣に置いてきました!」なんて……
そんなこと言えませんよね?(́◉◞౪◟◉‵)
【良治三年(2033年)、大日本國、首都・大坂。とある会社のオフィスにて——】
「藤原ァ、なんやこの成績……わし、ホンマにもう限界やぞ!
お前、ワイを潰す気かいな!?」
「組長、ウチかて全力でやってたんですって!
相手が最初っから、ぜんっぜん話聞いてくれへんのやもん!
あれ、どう見てもウチのせいやなくて、向こうの問題でしょ!?」
「藤原……何回、同じこと言わせる気や?
ワシな、お前にはもう我慢の限界なんや。
入社して何年目や思とんねん? 5年やぞ5年!
この5年間、ワシは上からの圧ぜんぶかぶって、ずっと庇ってきたんやぞ!?
それやのに、最終的に『ワシ、仕事できまへん』て態度で証明したいんか、お前はぁ!!」
「組長……でも給料これですし、ウチなりに頑張ってるつもりなんですけど……」
「このアホンダラァァ!!! 甘ったれたこと言うとったら、明日から来んでええぞコラァ!!」
——組長のそのキッつい目ぇ見てるだけで、イライラしてくるわ。なんやねんホンマ。
たかがこの給料で、死ぬほど働けとかアホちゃうか? この会社、どんだけ図々しいねん。
本社が大阪やからって、ちょっとはマシな給料出る思たけど……全然アカンやんけ。
ワイ、もはや悲劇の主人公やで。ブラック企業の生け贄や。
組長も組長や。毎回毎回、文句言うだけのポジションでええよなぁ?
現場で火ぃ吹いてんのウチやっちゅうねん!
「組長、今日はもう帰らせてもらいますわ……遅いですし、また明日……」
「明日やて……?
……なに言うとんねんアホ!明日なんかもう無いんや!!
ええか、お前な、明日……来んでえぇっっっ!!」
「クソ食らえや!!
ワイ、もう辞めたるわ!!! ほなな!」
中指立てて組長にブチかましたった。
他の社員らは目ぇまんまるにしてポカーンやったけど、
ドアをバーン!って閉めて、そんな連中を背にしたった。
イライラとモヤモヤ引きずったまま、難波の人混みをズカズカ歩く。
なんやこの街、人多すぎやろ……気晴らしに散歩しよう思たのに、全然落ち着かへんやんけ。
帰宅ラッシュで中央区から人がワラワラ出てきて、みんなスーツばっちり決めとるし。
よぉ見たら、生地もえらい上等やん……
……あいつら見て、次に自分見た瞬間、なんか一気にムカついてきたわ。
ウチはれっきとした藤原家の血を引いとるのに、なんでこんな底辺やねん……人に雇われるような身分ちゃうはずや!
あのクソ親父がワイを認めてさえおったら、今ごろセレブ生活満喫してたはずやろがい!
藤原氏は没落したいうても、もともと貴族やぞ、貴族!!
——「速報や!
『関東の覇者』ゆうて知られとる、豊国グループ関東支社の社長さんで、足利家の当主でもある足利秀昭氏がな、一昨日入院しとったことが分かりましてん。
これによって、足利家の中での力関係に、なにか動きがあるんちゃうか、ちゅう声も出とります。
続報、入り次第お伝えしますわ。」
……って、なんやねん、また豊臣家関連のニュースかいな。ほんま、聞くだけでイライラするわ。
もうええわ……なんか買うて気晴らしでもしよ……って、なんか余計ムカついてきたわ……
本来なら、ウチはボンボン生活送ってるはずやのになんで庶民の店で買い物せなアカンねん……
うっそ、マジか!?今日ビール1ダース特価やんけ!そらもう買いや!
ラスト一箱の豊国ビールをかっさらって、クーポンも忘れず使ったった!
……神様、やっぱワイのこと見とるんやな。今日のビール代、たったの200円や!
よっしゃ、今日はついてるやん……って思た瞬間、またテレビにあの顔が映りやがった。
——「摂政、関白、正一位、太政大臣、それに豊臣家の当主で、豊国グループの社長兼会長でもある豊臣秀光氏が、足利社長の入院について「多くのご関心、ほんまにありがとうございます」とコメントしました。
ほんで今回は、関白はんへの独占インタビューも入ってまっせ〜!ぜひご覧ください!」
「関白はん、今日はお時間とっていただいて、おおきにです。
足利家の件、どない見てはります?」
「この度は、みなさんからのご関心、ほんまにありがたい思てます。
豊国グループが国に貢献できるんやったら、それこそわれにとっては“この国への奉公”や思てます。
秀昭はんは、たしかに遠い親戚やけど、われとしては家族や思てます。
今回の件で、社会のみなさんをお騒がせしてしもて、ほんまにすんませんでした。」
……なにがやねん。
今どきのニュースはサルのインタビューでも流すんか?
ほら見てみ、サルがまるで人間のフリして喋っとるで……!
ウチら藤原家が天皇陛下に仕えとったころ、
あんたら豊臣家なんか田んぼで泥まみれなってたんちゃうん?
おかげで大坂と大坂城はもうサルの観光名所や。
顔見ただけでムカつくわ……テレビに八つ当たりしたろか思たくらいや……
なにイケメン気取ってんねん……
くっそ、“美猴王”かいな。ほんまムカつく顔やわ……
中身は田んぼのサルやろがい……
ホンマ情けないわ……“美猴王”とか、華夏語の単語でしかツッコまれへんって、どうなっとんねん……
あの老害ザルの血ぇ引いとるんか?
……カッコ良すぎやろ、逆にムカつくわ。
なんであいつの家系が、今の日本で一番影響力あるねん……おかしいやろ。
一番影響力ある家族は、ウチんとこやろがい!!
今度、豊国神社行ったらな、絶対バナナ一本買うてお供えしたるわ!
……クッサいサルめ……。
……くっそ、今日の晩メシ、なにしよっかな……
あ、せやせや!
ビールも買うたし、今日は焼肉やろ!!
肉焼きながら転生モンでも読んで.....
最高やんけコレ!!!
——「関白はん、関東支社の経営権について世間の注目が集まってる中で、本社としての方針は何かおありですやろか?」
「本件につきましては、状況を見ながら、慎重に対応していきたい思てます。
今のところ、はっきり言えることはまだ無いんで、どうかご理解いただけたら思てます。
ほんまにすんませんけど、時間の都合もありまして、これで失礼させてもらいますわ。」
——「ほんま、おおきにでした、関白はん。」
横目でチラッと大型ビジョン見たけど、やっぱムカつく顔してるわ……
さて、次の仕事どないしよ……
日雇いでもえぇか……
まあええわ、どうせウチ、住むとこはあるし。
家賃の心配なんてまだ先や。とりあえず帰って焼肉や!!
夕陽の中、ビール片手に自分の家の前まで戻ってきた。
ウチん家は、難波にある2LDKのマンションや。狭めやけど、皇居も近いし場所はまぁ悪うない。
……せやけど、豊臣家と比べたらボロ屋もええとこや。
あのクソ親父が、“これで十分や”ゆうて押しつけてきたボロ家……
生活費も光熱費も、全部ウチ持ちやで? ほんま、放っとかれてんの丸わかりや。
どないなっとんねん、ほんま……
他の奴らは豪邸で執事付きの生活やっちゅうのに、ウチはこれやで……
不幸にもほどがあるやろ……
ああぁぁぁ! ワイも豪邸住みたい!! 偉そうな肩書き並べて贅沢したいぃぃぃ!!!
今のワイが胸張って言えるんは、「天皇陛下と同じ区に住んどるで~」くらいや。
それ以外は……藤原の名だけ残った、しょーもない私生児や。
名前も、あのクソ親父がやっつけで付けたもんやしな……ほんま、どないなっとんねん。
正直な話、この世界にウチの居場所なんか無い気ぃしてまうねん。
ホンマ、クソみたいな世界やで、こんなん。
…せやから今日はもう、考えるんやめた。
気分変えたろ思て、焼肉グリル引っぱり出して、
冷蔵庫で眠っとった上級牛肉と豚肉、ぜ〜んぶ並べたった。
せっかくやし、牛タンもいっとこか!
上級食材、総出動や! お祭りやお祭り!!
今日はもう、誰にも気ぃ遣わんと、腹パンパンになるまで食うたる!!
ジュ〜〜って肉の脂が焼ける音、ほんまえぇわ〜。
その音聞きながら、グビッとビール流し込んで——
あぁぁぁぁぁ……たまらんっ!!
これや、これこれ! 全部ぶっ飛ばしてくれる味や!!
ビール片手にスマホ片手、転生モン読んで……これが正解やろ!
脳みそ空っぽで読めるのって、ほんまえぇな。オチも展開も予測できて安心やし。
この「神様モード」な感じがえぇんやろなぁ。主人公が何するか、こっちの掌の上やもんな。
けど……なんか物足りへん。
……せやっ! アレや!
後ろの棚からキューバ産の葉巻を取り出す。
至福の時間には葉巻が欠かせへんっちゅうねん!
煙に包まれて、タバコの香りが脳みそをトロトロにしてくれる。
焼肉とビール、そして葉巻。時間なんてあっという間や。
ほろ酔いで目が霞んで、ふわ〜ってしてたら、
スマホ画面に突然、広告がピョコって出てきた。
——《今の暮らしに不満、あらへん? 変えてみたい思わへん?
チャンスは、ここにあるんやで!
異世界転生支援株式会社が、アンタの人生、まるごと再起動したる!
転生保証つき! 「特別条件」も大歓迎や!
まずはフォームに記入して、今すぐクリックしてや〜!》
……なにこれ、草生えるんやけどwww
ほんまにこんな広告あるんかいなwww
小説サイト、もう終わっとるやろこれ〜
ま、クソ暇やし、どーせなら試してみよか〜
酔った勢いでもう半缶ビールあおって、
ポチッとな。
フォームが出てきたから適当に名前とか住所とか入れて……
「転生希望条件」やて? なん書いたらえぇんやろ……
おっ、これでえぇわ!
「偉くなりたい! 贅沢したい! 地位も権力も欲しい!」
せやせや、ついでに……
「豊臣家の当主にワイの栄光の姿を見せつけたい!」
入力完了。
そしたら画面に「豊国生命」っていう保険の電子契約書が出てきて、
「受取人:妻夫木 影吉」って強制で入力させられた。
いやいや、誰やねんその名前! なんやねん影吉って!
……てか豊国生命って、まーた豊臣家の関連会社かい! 全国制覇でも狙っとるんか?
まぁ……言われるままに入れてもうたわ。どーせ酔っ払いのノリやしな。
頭では「ヤバいんちゃうん」って思ったけど……
飲みすぎて、もうどーでもえぇわ。
どーせ保険会社が連絡してきたら無視したらえぇしな。
送信完了!
——《本サービスのご利用、誠にありがとうございます♪
これより、転生の準備に入らせていただきます〜!(ゝ∀・) 》
なんやこれ、アホくさっwww
……せやけど、ちょっとおもろいやんけ……
「ドカァン!!!」
爆音が耳元で鳴り響いて、思考が一瞬で真っ白になった。
何が起きたか分からんまま、視界がぐるんと逆さまになって……
気づいたら地面に転がってて、自分の手が見えた。
……いや、ちょっと待て。
なんで地面から自分の体見下ろしとんねん……?
……体は、あそこにある。
……これ、まさか——
頭、吹っ飛ばされたんか……?
って、ワイ……今、首から上だけなん……? うっそやろ……
「……このたびは当社サービスをご利用いただき……
担当の妻夫木です。
転生を、どうぞお楽しみくださいませ〜」
横から聞こえた声は、まさしく人間のもんやった。
でも、もう返事なんてできへん。
ウチの意識はそのまま、深い闇に吸い込まれていった——
転生したい?
そんなあなたに朗報です!
妻夫木くんまでご連絡くださいませ〜
もしくは、湖の女神さまでもOKですよ〜!
さてさて、あなたはどのトラックに轢かれて転生しましたか?
この軽トラ? 中型トラック? それとも大型トラック?
はい〜正直な人には、もう一回チャンスをプレゼント〜!
この3台のトラックで、もう一度まとめてドーン!
それならきっと――チート勇者に転生できるよねっ☆
果たして我らが道盛くんの運命やいかに……!?
次回をお楽しみに、ふふふ♪