③ 最弱の始発点
俺がゾンビとなってから半日の時が経った
つまり、今は夜になったという事になる
それまでに分かった事をまとめようと思う
まず、あのミーニアと名乗るゾンビは最後の生き残りの覇王らしい
覇王というのは種族の中で一番地位の高い者を指す
そして、彼の王技の“絶対服従”が無効だったことで
俺はミーニアよりも強い事が証明され
なぜか俺が覇王の力を受け継いでしまった
そして、何故か俺の膝元にミーニアの頭がある
オール「……そろそろ頭を退けてくれないか?」
ミーニア「私より強い方にこの身を委ねると決めていたんですよ〜」
オール「いや、もう夜になったから。案内してくれるんだよな?ミーニアの居城へ」
ミーニア「勿論ですよ!と言っても、半年前の話なので……現在も存在するかはわかりませんが……」
オール「『考えるより即行動。』早く案内してくれ」
そうして案内された場所は……森の中……墓地のようだ
ファンタジー世界なのだからとワクワクしていたが
流石はゾンビ一族と言った所か
ミーニアが予想外の事態に驚いている顔をしている
なんとなく想像はつくが聞いてみよう
オール「もしかしてだが、居城はこの墓か?」
ミーニア「違います!いや、違いませんけども!」
オール「……取り壊されたのか」
ミーニア「……そう……なり……ますね。
忌々しき人間共め……ぐぬぬ……」
オール「今は悲観的になっている場合ではない
ゾンビ族の覇王として、これから何をすべきだ?」
ミーニア「そうですね……我々ゾンビ族は生殖能力がありません。なので、他種族をゾンビ化させる事で増やす必要がありますね……オール様のように!」
オール「キラキラした目でこっちを見るな、
ミーニアが俺を巻き込まなければ
今頃有名な剣士になっていた頃だと言うのに……」
ミーニア「今は悲観的になっている場合ではない……
オール様?私を縛りつけて何をしているのですか?」
オール「ゾンビは日光に弱いって言ってたよな?」
ミーニア「はい!そうですよ!燃え尽きます!」
オール「日の出までここに縛りつけてやろうかと……」
ミーニア「冗談ですよね……?」
オール「くだらない冗談を言う暇があると思うか?」
ミーニア「ごめんなさい!ごめんなさい!
私が悪かったですー!」
「おい、そこで何をしているんだ?」
急に声を掛けられたと思い、振り返ると
黒髪の小さな女の子と白髪の少女が立っていた
どうやら年下と侮ってはいけないようだ
剣士と魔法使いのコンビか、一体何のようだろうか
黒髪「もしかしてだが、
そこにいるのは覇王ミーニア殿ではないか?」
白髪「…………」
オール「どうやらミーニアに用があるようだな」
ミーニア「言い忘れていましたが、
覇王だった私は指名手配中ですよ」
オール「……え?」
ミーニア「今はゾンビ族全てが駆除対象ですので……
つまり、オール様の敵になりますね」
オール「……あ、もしかしてだが
彼らもゾンビ化させる事が出来るのか?」
ミーニア「勿論ですよ!
覇王オール様の初陣ですね!
私に華麗な戦いを見せてください!」
オール「……まぁ、お手並み拝見か……」
黒髪「そこのお前もゾンビの生き残りか?
こいつは運が良いな!覇王ミーニア殿諸共駆除してやらあ!」
白髪「…………」
黒髪が威勢良く剣を構えて突っ込んで来た
そして、白髪が援護として炎魔法と氷魔法を放った
ミーニアが期待の眼差しでこちらを見ている
ここで俺がずっと疑問に感じていた事を話そう
俺は前の世界で謎の女に刺されて死んだように
戦闘技術力は全く持って皆無だ
だが、覇王だったミーニアを越える力があるという
俺ならなんとかなるのかもしれない……
……世の中そう甘くはないようだ
俺は魔法を2連撃喰らってしまい
極めつけに剣の斬撃を5連撃喰らってしまった
謎の女に与えられた苦痛を越える痛みが来ると思い
身構えた。いや、また死んでしまうのか……
せっかく異世界転生を果たしたのに……
1日も経たずに終わってしまうのか……
俺は目を瞑って死を待つ事にした……
……
何も感じない、死んでしまったのか……
恐る恐る目を開いてみると、背中を剣が貫通している
だが、痛みを感じないし、熱さも寒さも感じない
黒髪「なっ!?効いていないだと!?
普通のゾンビならこれで……うわっ!?」
勢い良く押し倒してやった
なんだか良くわからないが、形勢逆転だ
ゾンビの強い所は噛むだけで基本的に勝利出来る事だ
例えどれほど強い生物であっても噛めば良い
俺は黒髪の肩辺りを噛んでやった
柔らかくて噛みごたえがある肌だ
それはともかく、黒髪の肌は緑色へと変化した
黒髪「な……なんじゃこりゃあ!?肌が緑色に……?」
白髪「…………!!」
オール「“絶対服従”」
黒髪「んなっ!?体が……言うことを聞かなっ」
オール「あの白髪を噛め」
黒髪「何を言って……ふざけ……」
セリフを言い切る前に黒髪は白髪の元へ飛び込んだ
しかし、この能力には驚いた
俺よりも確実に強いと思われる黒髪さえも従えた
…………絶対服従とは
同族で自分よりも強い者を従える筈だが……
覇王を受け継いだ事で黒髪を越えたのか……
いや……そもそも元から俺が強かったのか……?
…………考えても仕方がない、とりあえず
黒髪が捕まえたと白髪に話を聞くとしようか
オール「で。お前達は何者だ?」
白髪「……っ!!」
黒髪「答えるわけがないだろう!?」
オール「“絶対服従”」
黒髪「私の名前はラック、こっちはホワだ」
白髪「……!?」
オール「勘違いしているようだが、今の覇王は俺だ
お前達は今日から俺の配下となれ」
黒髪「じょ……冗談じゃないぞ!私達はエドナルド国の剣聖と魔聖の私達がゾンビ如きに……」
オール「“絶対服従”」
黒髪「ぐっ……うっ……」
黒髪に続くように白髪達は跪いた
なんとか2人をゾンビ化させる事に成功したようだ
夜はまだ始まったばかりだ
最弱種族のゾンビになった俺のセカンドライフは
思ったよりも楽しくなりそうだな
俺は静かに楽しく微笑んだ