表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/290

第98話 魔物化して街中を飛び回る雪華

 ……が、


「グ……ウウウウウウ……」

「ゆ、雪華……」


 襲い掛かる雪華の手は俺の身体へ触れる寸前で止まる。

 その手先は震え、攻撃するのを必死に耐えているように見えた。


「なにをしている化け物っ! 小太郎を殺せっ!」

「グガアアア……っ」

「なっ……」


 振り返った雪華が忠次を睨む。


「な、なんだっ? なぜこっちを向くっ?」

「ガアアアアアっ!」

「ひいいっ!」


 俺から離れた雪華が忠次へと迫っていく。


「く、来るなっ! 俺はお前の主人だぞっ! くそっ! なんで言うことを聞かないっ! こ、故障かっ!? ひ、ひいいっ!」

「兄さんっ!」


 あんなでも兄だ。

 殺されるのを黙って見ているわけにはいかない。


「雪華っ! やめるんだ雪華っ!」


 俺は雪華の身体を背後から抱き上げて止める。


「グゥアアアアア!!!」

「お前は魔物なんかじゃないっ! 正気に戻れっ! 雪華っ!」


 暴れる雪華へ必死に呼びかける。


「元へ戻ってくれっ! 頼むっ!」

「ガアアアアアアっ!!!」

「うあっ!?」


 咆哮を上げた雪華の背から体躯に見合わない巨大な翼が生える。

 そして飛び立ち……。


「なっ……」


 飛び上がった雪華はそのままダンジョンの天井へ向かう。


「まさか……」


 俺の予感は的中する。

 雪華はそのまま天井を突き破って階層を上がっていく。そのまま次々にダンジョンの天井を突き破り、やがて……


「グゥアアアアアアっ!!!」


 ダンジョンの外へと飛び出てしまう。


「なんてパワーだっ!」


 こんな乱暴にダンジョンを移動して外へ出てしまうなんて、いまだかつて聞いたことがない。これほどに強い力を持った雪華が街中で暴れればどうなってしまうのか? 考えるまでもないことだった。


「雪華っ!」


 俺は雪華の腰にしがみついたまま、大声で名を呼ぶ。


「ガアアアアっ!!!」


 しかし俺の言葉が届いている様子は無い。


 雪華は俺への攻撃を躊躇った。

 凶暴な様子は完全に魔物だが、中身にはまだ雪華がいるんだ。


 なんとか元に戻す方法は……。


「グガアアアアアっ!!!」


 咆哮を上げて雪華は飛び回る。そして……。


「な、なんだ? 雪華っ!」


 小さな身体が膨れ上がっていく。

 体色は紫へと変わり、やがて巨大な魔物と化した。


「これは……っ!?」


 異形種を取り込み過ぎて魔物化してしまったのか。

 そうとしか考えられない。


「うわあああっ!? な、なんだあれはっ!?」

「に、人間が魔物になったぞっ! どうなってるんだっ!」


 魔物に変化した雪華を見た人たちの大声が聞こえる。


 ダンジョンと違ってここには大勢の一般人がいるんだ。

 被害を出してしまう前になんとかして雪華を止めなければ。


 巨大な魔物と化してしまったことで、雪華の正気を奪った首輪は砕けて外れている。

 姿は変わってしまったが、もしかすれば中身は正気に……。


「グゥアアアアアアア!!!」

「ダメかっ!」


 雪華が正気に戻った様子は無い。

 むしろますますと魔物に近くなり、凶暴化したようだった。


「止まれっ! 止まるんだ雪華っ!」

「ガアアアアアっ!!!」


 ものすごい速さでビルのあいだを飛び、翼の羽ばたきが激しい突風を起こす。


 このままではいずれ大きな被害を出してしまう。死傷者も出てしまうかもしれない。早く……早くなんとかしなければ……。


 これだけ街中を飛び回っているのに、なにかに攻撃することは無い。

 もしかすればわずかに理性が残っているのか……。


「雪華っ! もしも聞こえているなら人の居ない場所へ行くんだっ!」

「グゥガアアアアっ!!!」


 俺の声が聞こえたのか、街中を飛び回っていた雪華は人の少ない郊外へと向かい、やがて人気の無い山の上空へやってくる。


「いいぞっ!」


 見た目は変わっても、やはり中身には雪華の心が残っている。


 これで大きな被害は防げる。

 しかし元へ戻すにはどうしたらいいか……。


「小太郎おにいちゃんっ!?」

「えっ? な、無未ちゃんっ!?」


 黒い手に乗った女王スタイルの無未ちゃんがうしろから追って来る。


「な、なんで小太郎おにいちゃんがそんなところにいるのっ?」

「詳しく話してる時間は無いけど、この魔物は雪華なんだっ!」

「ゆ、雪華って、あの子供?」

「ああっ。なんとかして元に戻してやりたいんだけど……」

「けど、元へ戻す方法なんてあるの?」

「元へ戻す方法は……」


 俺は考える。


 雪華は異形種を取り込み過ぎてこの姿になった。ならばそれを外へ出せば元へ戻るのかもしれないが……。


「なんで雪華ちゃんは魔物になっちゃったの?」

「異形種を大量に身体へ取り込んだんだ。それでこの姿に……」

「異形種を大量に……。ってことは、魔粒子が関係しているのかな? ほら、異形種は魔粒子をたくさん放出するし」

「魔粒子……」


 多くの探索者は魔粒子を取り込んで異形種になった。

 雪華も同じ条件で魔物化をしたならば、魔粒子を除去すればもしかしたら。


「……そうだっ!」


 雪華を元へ戻せるかもしれない方法。

 それが俺の頭へ浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ