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第87話 雪華と喫茶店へ行く

 それから少し雑談をした俺は、おじさんおばさんにあいさつをして帰ることに。


 次に来るときは結婚のあいさつかなとおばさんにからかわれ、俺は曖昧に返事をしつつ別れを言って外へ出た。


「うん?」


 さて帰ろうかと思った俺の前に小さな影が……。


「えっ? あ、君は……」

「うむ」


 見下ろした先には無表情で雪華が立っていた。


「うちから出たあと、隣家に入って行くのを見かけての。ここで待っておった」

「俺を? どうして?」

「少し話をしたくての。ここではなんじゃ。駅前の喫茶店でも行くかの」

「あ、ちょ……」


 雪華は俺に背を向けて歩いて行く。

 しかたなく俺はそれを追った。


 ……駅前の喫茶店へ入り、俺たちは席に着く。


 子供のころによく通った店だ。

 母さんと一緒に買い物へ行き、帰りに寄ってチョコレートパフェを食べた記憶が蘇ってきて少し感慨に浸った。


「なつかしいのう」

「なつかしい?」

「いや、なんでもない」

「?」


 やがて店員が注文を聞きにやってくる。


「コーヒーとチョコレートパフェを頼むのじゃ」

「かしこまりました」


 注文を聞いて店員が去る。


「もしかしてひとりでよく来たりするの?」

「うむ。平日はひとりここで本を読んでおる。土日や祝日は上一郎と忠次が家にいてうるさいからの。外出ができんのじゃ。今日はうまく抜け出して来たがの」


 そう言って雪華はフンと鼻を鳴らす。


「上一郎と忠次って……2人は君のおじいちゃんとお父さんじゃないの?」

「違う」

「え……」


 じゃあこの子は誰の子だ?


 俺の中の雪華に対する疑問がますますと膨れ上がる。


「さてそんなことよりもじゃ」


 と、雪華はじっと俺を見据えた。


「単刀直入に言おう。末松家には近づかんほうがよい」

「えっ?」


 唐突にそう言われた俺は言葉を失う。


「まあ、いきなりこんなことを言われても納得できないじゃろうな」

「それはまあ……」


 こんな小さな子に言われては殊更に納得できなかった。


「理由を言えば、末松は世間に言えないようなことをしておる。関わって余計なことを知れば命の危険もあるということじゃ」

「せ、世間に言えないようなことって……」

「知らんほうがよい。自分の今が大切ならば、言うことを聞くことじゃ」

「う、うーん……」


 世間に言えないようなこと。

 それを家族がしていると知って、放って置くなんてこと……。


「お待たせしました」


 店員がチョコレートパフェとコーヒーを持ってくる。


 当然の如く、パフェは雪華の前に置かれるが、


「パフェはそっちで、わしがコーヒーじゃ」

「えっ? あ、し、失礼いたしました」


 やや怪訝な表情をした店員は、雪華の言う通りパフェとコーヒーを置いて行った。


「パフェは君が食べるのかと……」

「そんなことは言っとらん」


 と、雪華は砂糖も入れずにコーヒーを口へ運ぶ。


 そういえば昔にこの喫茶店へ来たとき、母さんも必ずブラックコーヒーを飲んでいたっけか。


 奇妙なことに、ブラックコーヒーを飲む雪華を見てそれを思い出した。


「苦くないの?」

「苦くなければ飲まん」

「そ、そう」


 なんか、子供のころに母さんへも同じことを聞いて、同じ答えを聞いたような記憶がおぼろげに頭へ浮かんだ。


「なんじゃ食べんのか? 好きじゃろ? ここのチョコレートパフェ」

「えっ? あ、まあ……」


 と言うか、なんでこの子がそんなことを知っているんだろう?


 子供なのにやたらと大人っぽいし、本当に不思議な子だ。


「しかしまあ、家族が世間に知られてはいけないようなことをしているから関わるなと言われても、はいわかりましたというわけにもいかんじゃろうな」

「あ、まあそれは……」


 俺の考えを見透かしたように雪華は言う。


「ふむ。ではこれからダンジョンへ行くかの?」

「えっ? ダンジョン?」

「そうじゃ。口で言っても信用できんじゃろうしの」


 そう言って雪華はズズとコーヒーを飲む。


 ダンジョンへ行ってどうするつもりだろうか?

 この子の考えがさっぱりわからない。


「ほれ、早くパフェを食べてしまえ。アイスが溶けるぞ」

「あ、うん」


 言われた俺は長いスプーンを使ってパフェを食べる。

 懐かしい味を舌へ感じ、目頭が少し熱くなった気がした。

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