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第67話 異形種の大進撃

 俺たちがここにいるあいだ、何チームかが先へと通り過ぎた。


危険だからと止めるも、誰ひとりとして言うことは聞かない。当然だ。彼らは危険を承知で探索者をやっており、大会にも参加しているのだから、危険と聞いて止まるわけはない。戸塚我流真がいるなどと伝えても信じる者はいなかった。


彼らが魅了のスキルにやられると厄介だ。


戸塚我流真の目的からして、そんなことをする必要はないだろうが……。


「俺たちもそろそろ行こう」


 戸塚たちが先へ行ってからしばらく経ったと思い、俺たちも深層へ向かう。


 深層にはきっと強い魔物が多くいる。

 しかし怖いなどとは言っていられない。アカネちゃんを助けるためならば、自分の命など惜しくない。


「無未ちゃんごめん。大変なことに巻き込んじゃって」


 俺が誘わなければ無未ちゃんをこんな目に遭わせることもなかった。

 申し訳ないと思いつつも、しかしいてくれてよかったとも思っていた。


「構わん。むしろ誘ってもらえてよかったと思っている。白面の君が危機に陥っているのに助けられないのは辛いからな」

「無未ちゃん……」


 そう言ってもらえて嬉しい。

 無未ちゃんは心もおっぱいも大きい素晴らしい女性だと感謝した。


「ありがとう。そう言ってくれるのはすごく嬉しいよ」

「れ、礼などいらん。白面の君は我にとって、た、大切な殿方だからな、うん」

「しゃべりかた戻していいんじゃない? 今は配信が無いし」

「いや、中継用のドローンもたまに見かけるからな。終わるまではこのしゃべりかたでいようと思う」

「そ、そっか」


 アカネちゃんのアカツキよりもキャラに徹している。

 エンターテイナーなところもあるし、無未ちゃんもVTuberに向いてるかも。


 ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな。


 気を引き締めた俺は無未ちゃんと一緒に魔物を倒しつつ深層へ向かう。


「やばいっ!」

「逃げろ逃げろっ! 早くっ!」


 やがて深層へ入ると、進行方向から探索者の集団が逃げるように駆けて来た。


「どうしたんですか?」

「あ、は、白面と女王様かっ! 俺たちもグレートチームの参加者なんだが、この階層はやばいぜっ!」

「や、やばいって……」

「異形種が大量にいるんだっ! それも強力な奴ばかりがっ!」


 彼から話を聞いているあいだにも他の参加者らしき探索者が続々とこちらへ逃げてくる。


「仲間も……他の参加者もだいぶ殺された。もう大会どころじゃ……」

「うわあああっ! く、来るなーっ!」


 叫びながらこちらへ駆けて来る探索者。

 その背後には巨大で禍々しい大蛇の魔物……異形種が迫っていた。


「ひっ!? あ、あれはただでかいだけの異形種じゃないっ! な、何人も……あれに何人もやられたんだっ!」


 彼はそう言い残して逃げて行く。


 俺も逃げたいがそういうわけにはいかない。

 アカネちゃんを助けるまでは、なにが来ようとあとへは戻れないんだ。


 他の探索者は皆が逃げ去り、大蛇の魔物が俺たちへ迫る。


「怖がってはいられない、な」


 迫る大蛇に対して俺は右手へ魔法を溜める。


「大丈夫だ。こいつは我がやる」


 現れた無数の黒い手が大蛇を掴む。

 そして地面へと引きずり込んだ。


「な、無未ちゃん」

「白面の君が強いのはわかっている。しかし深層での戦いは我のほうが慣れているからな。ここからは我が先行して露払いをしよう」

「けど、女の子を先へ行かせるわけには……」

「レディファーストだ。気にしなくていい」

「こういうときに使う言葉じゃないと思うけど……」

「我はブラック級の11位だ。普通の女と同じに扱わなくていい」

「それはまあ……そうだろうけど」

「白面の君は背後を守ってくれ。では行くぞ」

「あ、うん」


 無未ちゃんが先へ行き、俺はそのあとをついて行く。


 ……その後も次から次へと異形種が現れ、無未ちゃんが倒す。


 さすがはブラック級の11位だ。

 女の子だからという気遣いが無用だったと思い知る。


「……異常だな」


 異形種を倒して無未ちゃんはポツリ呟く。


「異常って?」

「異形種の数だ。通常はこれほどいない。しかもまるで我らを狙って来ているようにあちこちの通路から出てきて襲い掛かってくる」

「それって……」

「誰かが操っているのかも」

「操っている……」


 もしそうならあの女の死体に憑依しているのはやはり戸塚我琉真なのか?


 そうとでも考えなければ、異形種の異様な多さ、動きに納得ができなかった。


 やがてボス部屋の手前まで来ると、


「やあ、来たね」


 そこには首の無い女の死体にエレメンタルナイツ、そして捕らえられたアカネちゃんがいた。


「白面さんっ!」

「アカツキちゃんっ! 今すぐに助けるからっ! 戸塚っ! お前の望み通り来てやったぞっ! アカツキちゃんを解放しろっ!」

「まだだよ。悪いけど地獄竜ゼルアブドがまだここへ来ていなくてね。奴が君らを殺す映像が全世界に向けて放送されてから彼女を解放してあげるよ」


 いくつもの中継用ドローンがこの場所へ集まってくる。


「ふはは、他の参加者はみんなこの階層で殺すか追い出してやったからね。この階層を飛んでる中継用ドローンはみんなここに集まってきたよ」

「それよりも地獄竜ゼルアブドはまだここへ来ていないとはどういうことだ?」


 まだいないのならばここへ来る前に奴を倒せば地獄竜ゼルアブドと戦わずに済む。


 地獄竜ゼルアブドがどれほどの強さを持った異形種なのかはわからない。もしかすれば無未ちゃんのスキルで簡単に倒せるほどかもしれないが、戦わなくて済むならばそれに越したことはないだろう。


「僕のスキル『魔物の王』は10階層ほど離れた場所にいる魔物でも操って自分のもとに連れて来ることができる。ここから10階層下にいる異形種をすべてここへ集めているんだけどなかなか来てくれなくてね。きっと下のほうにいるんだ。でもいずれは来るよ。感じるんだ。近づいて来るものすごい魔物の反応をね」


 抱えられた首が恍惚に笑う。


「しかし待っているだけではつまらないだろう? 余興の続きをしようか」

「余興の続きだと?」

「ここへ来るまでにたくさんの異形種と戦ったろう? あれはすべて余興さ。君らがどれほど強いのかを全世界に知らせて、その強い君らが地獄竜ゼルアブドに敗北する。全世界に僕と地獄竜ゼルアブドの恐怖を引き立たせる素晴らしい余興さ」

「くだらない。そんなことをしてどうする?」

「まずは日本を、いずれは世界を僕は支配する。無能な連中から世界を奪って僕は僕の理想となる平和で自由な世界を作り上げるのさ」

「……」


 こいつにはこいつなりの正義があるのかもしれない。しかし好きにさせるわけにはいかなかった。


「さあ余興の始まりだ。死んでしまってもまあそれはしかたない。けれどせっかく地獄竜ゼルアブドがここへ近づいているんだ。できれば持ちこたえてほしいね」

「……っ。白面の君」

「ああ」


 周囲から悍ましいまでの殺気。

 見渡すと、明らかに凶暴そうな異形種の群れがこちらに敵意を向けていた。


「これは……数が多いな」


 異形種退治に慣れている無未ちゃんの声がやや焦りを帯びる。


 これが異常な多さなのは俺でもわかった。

 以前ダンジョン外に出てきた異形種の群れよりも圧倒的に多い。うしろのほうにもまだぞろぞろいることが気配で感じられた。


「ふふふ、グッドラック」


 戸塚のその言葉を合図に異形種の群れは襲い掛かって来た。

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