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第66話 赤髪の少年。その正体は……

 潰れた死体の山がそこにはできあがる。


 これで小田原以外の元レイカーズは死んだはず。

 あいつも殺してしまったほうがいいのかもしれないが、社長になにか考えがあるらしいので奴のことは任すことにする。


 しかしこいつらを野放しにして、俺やアカネちゃんの命を狙ってきたクズ野郎には制裁が必要だ。


「これで終わりだ。ここのボスを倒してリターン板で戻ろう」


 みんなに向かって俺がそう言ったとき、


「まだ戻られちゃ困るよ」

「うん?  えっ? 君は……」


 そこに立っていたのは上層で大怪我をして倒れていた赤髪の少年だ。

 最初に会ったときとは雰囲気が変わっており、表情には薄ら笑いがあった。


「回復のスキルを使ったときに感じた僕の勘に間違いは無い。君は僕の目的を達成するのに十分な素晴らしい力を持っている」

「なにを言っているんだ?」

「君ほどに強い探索者とブラック級の女王があれと死闘を繰り広げて死んでくれれば日本政府はあれに恐怖するだろう。そしてあれを従える僕を恐れる。あれを使って僕は日本政府を攻撃して乗っ取り、この国の支配者となるんだ」

「君は……一体」


 と、赤髪の彼はまるで糸が切れた人形のように倒れる。


「えっ? な……」


 俺は赤髪の彼に近づき、その身体に触れる。


「脈が無い。死んでる」


 どういうことだ?


 わけがわからず俺は困惑する。その瞬間、


「きゃっ!?」


 素早く近付いてきた誰かがアカネちゃんを攫う。


「アカネちゃんっ! あなた……なにをっ」


 攫ったのは日生だ。

 日生はさっきの藤河原のようにアカネの首に手を回して捕らえていた。


 日生の目は魅了されていたときと同じ虚ろな目をしている。


「ど、どういうことだ? あの女は殺したはず」

「は、白面の君……」


 恐れるような無未ちゃんの声を聞き、彼女の指差す方向へ目をやる。


「な、なに?」


 そこには首の無い女の死体が立ち上がっていた。


「驚くことは無いよ」

「えっ?」


 聞こえたのは殺したはずの女の声だ。

 地面に落ちている首がこちらに目を向けて口を利いていた。


「な、なんだ? どうなっているんだ?」


 心霊現象……いや、なんらかのスキルか?


 そう考えるのが現実的だった。


「これは僕のスキル『死体憑依』だよ。死んで間もない人間の身体だったら、それに魂を移して自分の身体として動かせるんだ。死んでからそれほど時間が経ってさえいなければ、死体がどんな状態でもね」

「そのしゃべりかた……まさか」

「ご名答。そこに倒れている赤髪の身体に憑依していた者さ」

「お、お前は何者なんだ?」

「自己紹介が遅れたね。僕の名前は戸塚我琉真。元ブラック級20位の探索者さ」

「戸塚……我琉真?」


 それはこの世にいない者の名だ。


「はははっ、わけがわからないという顔だね。当然だよ。僕は死んだ。死刑になって死んだのは確かだよ。けれど死んだのは肉体だけ。『死体憑依』のスキルがある僕は肉体を失っても死んだばかりの死体があればそれに憑依して活動できるのさ。もっとも、霊体状態では他のスキルが使えなくて不便だけどね」

「そ、そんな馬鹿なこと……」


 あり得るのか?

 しかしこいつが戸塚我琉真という根拠は無い。何者かが戸塚我琉真を騙っているだけという可能性もあるため、言うことを鵜呑みにはできなかった。


「信用できないかい? けれど事実だよ。僕は魔物を操るスキル『魔物の王』と死体に憑依する『死体憑依』の2つを深層で戦ううちに得た。まあ『死体憑依』のスキルに気付いたのは死んだあとしばらくしてからだけどね」

「う、ううん……」


 こいつの言っていることが真実かどうかはともかく、今はアカネちゃんをどう助けるか考えなければ……。


「その女の子をさっきみたいに助けるのは無しだよ。女王様が姿を消した瞬間に殺しちゃうからね」

「くっ」


 自身の周囲に黒い手を出していた無未ちゃんに気付いた戸塚が、その動きを牽制して言う。


「なにが目的だ?」

「さっきも言ったよ。君と女王にはあれと戦って死んでもらう。この女の子はそのあとに解放してあげるよ。だからまずは深層に来るんだ。待ってるよ」


 戸塚は首を拾い上げ、魅了されているエレメンタルナイツを連れてボス部屋へ向かう。


「ま、待てっ!」

「一緒には来ないでほしいな。君らを警戒しながら進むのは疲れるからね。僕らが行ってしばらくしてから深層へ来るんだ。ついて来たらこの女の子は殺す」

「この……っ」


 アカネちゃんが連れ去られるのは黙って見ているしかないのか?

 ……いや助ける方法はある。しかし今の俺に使えるか? 使えたとしても、かなりの代償を負うことになるだろう。それにアカネちゃんを助けられるほどの効果は出せないかもしれない。


「は、白面さん、わたしは大丈夫だから」

「……アカツキちゃん、ごめん」


 連れ去られていくアカネちゃんを前に俺はなにもできず見送る。

 戸塚たちが見えなくなったあと、俺は地面を強く拳で打った。

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