第63話 乳無し女に興味無し
やがてボス部屋まで来ると、
「ん?」
ボス部屋の前に誰かいる。
武器や防具を身に着けていない長い白髪の女性だ。
探索者か? いや、それにしては軽装過ぎる。
「あれ? ここ電波入らなくて配信ができない。なんか変だよ?」
「電波が入らない?」
そういえば中継用のドローンもない。
なにか変だとは俺も思った。
「あ……。た、助けてくださいっ!」
「えっ?」
そうこうしているとこちらに気付いた女性が声をかけてくる。
「た、助けてって……」
「わたし、上層で探索者のチームに攫われたんですけど、逃げて来たんですっ! でも中層からじゃひとりで帰れなくて、誰かがボスを倒してくれればリターン板で上に戻れると思ってここにいたのですが……」
「そんなことが……」
逃げて来たと聞いて、ここにひとりでいたわけに納得できた。
「あ、じゃあこれからボスを倒しますので、我々と一緒に上へ戻りましょう」
「は、はい。ところで仮面の人……わたしを見ましたね?」
「は?」
急になにを言っているんだこの人は?
質問の意味がわからず俺は答えに迷う。
「ははっ! 見たならもう終わりだっ! まずは女王を殺せっ!」
「……」
不意に口調を変えた女を俺はじっと見つめる。
「……は? 急になにを言っているんですかあなた?」
「えっ?」
なぜか驚いたような表情で女は俺を見上げる。
「な、なんで……? 女王を殺せってんだよっ!」
「なんですかあなた? 変ですよ?」
「へ、変なのはてめえだっ! なんであたしの『魅惑了の瞳』が通じねぇんだっ!」
「『魅惑了の瞳』?」
なんだそれは?
「『魅惑了の瞳』は使用者を見た男に微塵でも好意を抱かせれば、魅了して隷属させることができるスキルだ。その女は白面の君を魅了して我を殺させようと考えていたようだな」
「な……っ」
なぜそんなことを?
理由がわからなかった。
「ま、まさかてめえ男好きかっ!」
「いやぜんぜん違うけど」
頭の半分くらいはおっきなおっぱいのことしか考えてないのに、男好きなわけは絶対に無い。
「だったらどうしてあたしのスキルが通じねぇんだっ!」
「俺、状態異常は一切効かないから」
「な、なんだと? そんなスキルがあるなんて聞いたことがないぞっ!」
スキルではなく魔王の特性だし、それはそうだろう。
「そもそも俺、君には微塵の好意も無いからいずれにしても効かなかったと思うよ」
「きょ、興味無いだとっ? こんなに美しいあたしにっ!」
「うん」
彼女にはおっぱいがぜんぜん無いので、一目見たときから微塵すら異性としての興味はなかった。貧乳を異性として見ていないなんて声に出して言ったら、一部の人から非難されそうだが事実なのでしかたない。
「不愉快な野郎だっ!」
最初に見た時とは一転して邪悪な表情で女は叫ぶ。
「お前は何者だ? なぜ俺を罠に嵌めるような真似をした?」
「そんなことをてめえに話してやるほど親切じゃねーよ。ちっ、あたしのスキルが効かねーってのは面倒くせぇ。こいつは盛り上がる演出ってのは無理だな。けど、殺して終わりならそれはそれで楽だぜっ!」
「む……」
周囲に何者かが集まって来る。
その姿には見覚えがあった。
「ひ、日生流星?」
現れたのは日生流星とエレメンタルナイツのメンバーであった。




