第61話 銃撃をしてきた連中の正体
黒い手に乗って中層へと到達する。
中層へ来るのは初めてだ。
ブラック級の無未ちゃんが一緒なので平気だろうが、強い魔物が出たら嫌だなぁと、俺はかなりビビっていた。
「うう……このまま深層まで行くのか。怖いなぁ」
中層すら初めてなのにいきなり深層へ行くなんて怖い。
深層へ近づくにつれて俺は不安で帰りたくなっていた。
童貞のまま死にたくないよぉ。できれば家にあるパソコンのハードディスクを処分してから死にたいよぉ。今まで払った厚生年金が無駄になっちゃうよぉ。
気が変わってアカネちゃんが帰るって言ってくれますように。
俺は崇拝するおっぱいの神様に手を合わせて祈った。
「ほんと弱気なんだから」
アカネちゃんは呆れたように嘆息する。
「だって深層だよ? 一番強い魔物がいるんだしそりゃ怖いよ」
「白面さんは強いから大丈夫だよ。それに女王様もいるんだし平気でしょ?」
「ま、まあそれもそうだけど」
深層で魔物退治をしている無未ちゃんが一緒なのだ。
ここまで不安になることはないかも……。
「我とて楽に深層の魔物を倒せるわけではない。深層の魔物が大群で迫って来ることなどあったら勝てるかどうかわからない」
「そ、そっか……」
ブラック級でも深層の魔物を簡単に倒せるわけではない。
なんとなくブラック級ならば深層の魔物なんて楽に倒せるのだろうと考えていた自分の浅慮を俺は猛省する。
「それに深層と言っても、底まで到達した者はいない。ダンジョンの最深部が知れれば、知られている深層はまだ上層という可能性だってあるのだ。あくまでわかっている範囲でそこが深層とされているに過ぎないからな」
「こ、怖いこと言わないでよ」
「可能性の話だ。少なくとも我は倒せない強さの異形種に出会ったことは無い。さらに深い階層があるならば、もっと強力な異形種が下から階層を這い上がって来ても不思議ではない。それが無いと言うことは、恐らく知られている深層より下はそれほど深く無いということだ」
「なら安心しても……」
「しかし戸塚我琉真を騙る犯行予告にあった地獄竜ゼルアブドという強力な魔物は確実に存在している。あれが現れれば危険かもしれないな」
「う、うん……」
なにも安心はできなかった。
マンダ:地獄竜ゼルアブドって深層でしか目撃情報ないよね
そらー:襲われたって話も聞かないし、意外におとなしいのか?
ぬまっきー:おとなしい魔物なんかいないだろ。人間を見たら普通は襲い掛かっ て来るのが魔物
おやつ:白面さんと女王様がいれば大丈夫っしょ
コメントを打つ人たちは安全なので羨ましい。
地獄竜ゼルアブド。
おとなしいとは思えない凶暴そうな名前だ。
「……うん?」
進行方向になにかいる。
魔物じゃない。人か……?
「むっ!? 伏せてっ!」
「えっ?」
2人を伏せさせた俺は前方に魔法でシールドを張る。瞬間、
ズダダダダダダッ!!!
大量の銃声が鳴り響く。
銃撃はシールドによって防がれ、音だけが木霊する。
「わっ!?」
アカネちゃんが悲鳴を上げる。
やがて銃声は止み、ダンジョン内はふたたびシンと静まった。
「ク、クソっ! なんで当たらねえんだっ!」
「不意打ちならやれると思ったのにっ!」
黒い手から降りた俺たちの前方には、銃を持った覆面の集団がいた。
「あれは大会の参加者か」
「そのようだな」
集団の足元から黒い手が現れ、全員を捕まえる。
「うあっ!?」
「くそっ!」
あとは地面に引きずり込まれるだけ。
そうなるだろう直前に、連中の1人が被っている覆面がずれているのを見て俺はハッと気づく。
「あ、ちょ、ちょっと待って」
「ん? どうしたのだ白面の君?」
「いや、なんかこいつら見覚えが……」
無未ちゃんを止めた俺は、襲って来た連中の覆面を剥いで顔を見つめる。
「お前たち……レイカーズか」
どこかで見覚えのある顔だと思ったが、こいつらは以前に小田原とともに俺たちを襲ったレイカーズのメンバーであった。




