第60話 邪悪なる愉悦(魁千秋視点)
エレメンタルナイツの男たちが仲間の女たちをすべて殺した。
諦めたように戦う女。
泣きながら助けを求める女。
恋人だったのか必死に説得を試みる女。
すべて殺された。
その光景を白髪の女、魁千秋は愉悦の表情で眺めていた。
「これはひどいですねぇ」
ホッケーマスクの大男は呆れたように肩をすくめる。
「ひどい? 最高だろ? こいつらを元に戻したときの絶望や怒り、悲しみを想像するだけで快感に打ち震えちまうよ」
自分の身体を抱いた千秋は恍惚の表情でそう言う。
「私でも引きますよ。あなたのその性癖は」
「ふん。あたしからすればてめえの性癖のほうが不愉快だ」
そう言いながら千秋は右耳にぶら下がっている、黒く卑しい光を放つ丸いイヤリングを人差し指で弾く。
男であれば誰にでも効果がある『魅了惑の瞳』だが、この男には通じない。唯一である例外の性癖をこの男は持っていた。
「それは申し訳ありません。しかしこれは生まれつきのものでして、どうすることもできません」
「そうかよ」
こんなでかいだけの不愉快な男と組んでいるのも雇い主様からの命令だからだ。
白面をスキルで魅了してアカツキを殺させろ。その後、魅了した白面を操って、盛り上がる戦いを演出してチームで殺せ。
それが雇い主である小田原喜一郎のお友達から与えられた命令だ。
小田原喜一郎は麻薬の販売ルートを持っており、千秋はダンジョンでその材料を獲って金を受け取っている。今回のような殺しの命令も珍しくは無いが……。
面倒くせぇ仕事だ。
白面を魅了してアカツキを殺させるのはいい。
そのあとに盛り上がる戦いを演出して殺せというのが面倒だった。
この面倒を小田原喜一郎に吹き込んだのが、政治家で法務大臣の寺平重助だ。
とんでもなく面倒なことを考えてくれた極悪人だと、千秋はうんざりしていた。
「ふふふ。しかしあの御方……寺平さんには感謝しておりますよ。こうして私たちが大会に参加できるのも、復讐をできるのもすべてあの御方のおかげですからねぇ」
不気味に笑うホッケーマスクの大男は邪悪に瞳を輝かせる。
「ふん。てめえらの恨みなんぞどうだっていい。あたしはあたしの仕事をするだけだ。それで、その白面が今どこにいやがるんだ?」
ボス部屋なら必ず通ると、中層のボス部屋手前で待ってからずいぶん経った。
しかし来るのは探索者か魔物だ。一向に現れる気配の無いターゲットに千秋にはしびれを切らしていた。
「まだ中層の手前といったところでしょうか」
スマホでアカツキの配信を眺めながらホッケーマスクの大男は答える。
「モタモタしてやがる。その白面ってのはかなり強いんだろう? ブラック級の女王様もいるってのに、なにをモタついてんだ」
「出発の際に配信の準備をしていて出遅れたようですね。それと……大怪我を負った少年と途中で会って、なにやら助けたそうですが」
「それはおやさしいことで」
そんなおやさしいことをする奴らはきっと幸せな人生を送っているはず。
その幸せを壊す瞬間はきっと楽しいだろうと千秋は笑う。
「どうやら白面は傷を治癒するスキルまで持っているようで、それを使って瀕死の少年を助けたようです」
「……なるほど」
傷を治癒するスキルがついているのはレア中のレア装備だ。奴を始末すればそれを手に入れることができる。
楽しみが1つできたと千秋は笑う。
「白面って男とアカツキって女は恋人同士なのか?」
「さあ? それはわかりませんね」
「恋人同士だったらいい。幸せに愛し合っていたらいい。その幸せが壊れる瞬間。自分の手で壊したと白面が知った瞬間。それを想像するだけで楽しいよ。くふふっ」
「それは同意しますよ。あの仮面男が絶望に苦しむ瞬間は私も見たい。ここにいる者たち、そしてこの階層に潜む他の仲間たちも同じ気持ちでしょう」
ホッケーマスクの大男が言った言葉に周囲の男たちが口々に白面とアカツキに対する恨みを口にする。
「てめえらのことなんてどうでもいい。それよりも、ここであったことは中継用のドローンに撮られてないだろうな?」
「もちろんです。事前に中継用のドローンへ細工をしてこちらでも操作できるようにしてありますのでここへは近づきません。個人の配信対策に電波遮断装置も設置してありますのでご安心ください」
「上出来だ。それじゃあてめえらは邪魔だから散れ。白面を魅了してアカツキを殺させるまで出番はねぇからな」
「ここで1人にして大丈夫ですか? あなたのスキルは強力ですが魔物には効かない。上層で大会参加者の我々と合流してあなたを護衛しながらここまで来ましたが、なにも中層まで来なくても上層でも同じことができたのでは?」
「馬鹿かてめえは? 中層にいるから、女の探索者が1人じゃ戻れないって理由に納得させることができるんだろ」
上層からじゃガキの探索者だって1人で帰れる。
いかにも弱そうな女が中層や深層に1人でいるから、さっきのエレメンタルナイツみたいに騙すことができるんだ。
「それにてめえらがいなくても1人にはならねぇよ」
と、千秋は魅了したエレメンタルナイツを親指で指す。
「彼らをそのまま使うのですか?」
「使わない理由はないだろ? あたしはこうやってダンジョンで戦って来たんだ。魔物がここへ来たらこいつらを使う。だからてめえらは側にいなくていい」
「わかりました。しかし女王はどうしますか? あれを敵に回せばこちらはあっという間に全滅すると思いますが?」
「ああ」
女王がいるのは厄介だ。しかし、
「配信を見る限り、あの女王様は白面に好意があるらしいじゃねーか。だったら女王も白面に殺させればいい。魅了された瞬間なら女王も油断をしているはずだ」
「なるほど。まさか白面が攻撃をしてくるとは思わないでしょうからね。スキルが使われる前に始末してしまえばいいということですか」
「理解したなら散れ。もう質問は無いだろう?」
「ええ。安心しました」
ホッケーマスクの大男たちは千秋から離れて消えていく。
「お前らはここへ来そうな魔物を殺せ」
「はい……」
魅了したエレメンタルナイツの男らも散らした千秋はふたたびひとりとなり、白面やその仲間が来るのをじっと待つ。
「早く来い。あたしに愉悦を提供するためにな」
これから得られる愉悦。
それを想像した千秋は妖艶に笑った。
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