第30話 ダンジョン内で蔓延するウイルス?(鹿田無未視点)
事件を調べるために無未はダンジョンへやって来る。
国家ハンターから聞いた話によれば、ハンターによる殺人は深層より上の階層で起きているらしく、深層域での事件は確認されていないとのこと。
なのでリターン板は使わず、とりあえず中層まで歩いて行ってみようと思う。
浅い階層にはほとんど人がいない。
殺人ハンターを恐れ、実力の低いハンターはダンジョンへ来るのを控えているのだろう。当然だ。殺人ハンターは上級クラスがほとんどらしく、それらに襲われるなど下級クラスにとって恐怖でしかない。現状で下級クラスがダンジョンへ来るのは自殺行為であり、浅い階層に人がほぼいないのは道理であった。
しかしどういう理由でこんな事件が起こっているのか?
殺人ハンターを目撃した者の話によれば、当該者は完全に理性を失っているように見えたとのこと。それを聞いた国家ハンターは多発している殺人ハンターは、なんらかの影響で理性を喪失して殺人を行っているのではとの見解を持ったようだが。
はたして事実はいかに。
……というか、無未は討伐が専門で考えるのはあまり得意でない。こんなミステリーな事件を解決するよう頼まれても正直、困ってしまう。
とはいえ多くの人が殺されている大事件なのだ。
解決できるかはわからないが、やれるだけはやってみようと思った。
一番上の階層はこれといって気になることはなかった。
「もっと下の階層になにかあるかな?」
最初のボスを倒し、下の階層を進んでいると、
「うおおおっ! 人だっ! 殺してやるっ!」
「わっ!?」
突然、剣を振り上げてハンターが襲い掛かって来る。
驚いた無未だが振り下ろされた剣を紙一重でかわすと、ハンターの頭を殴ってあっさり気絶させた。
「これが殺人ハンター……?」
気を失ったハンターを観察してみる。
装備はやや高価なものだ。
上級クラスのハンターだと思う。
「……? これは?」
額に黒いできもののようなものがある。
「そういえば……」
殺されたハンターたちの中には額に黒いできものがある者もいたと国家ハンターが言っていたことを思い出す。
気を失わせたハンターも含めて多くの者にこの黒いできものがあるとすれば……。
「っ!?」
気を失ったハンターの口からなにかが飛び出す。
咄嗟に黒い手でそれを防いで飲み込ませた。
「な、なに?」
唾を吐かれた? いや、気を失っているならばそれはない。
スキルによるなにかしらの攻撃か?
なんだったのかは不明だが、ともかく防ぐことはできたのだ。それで良しとし、無未はハンターの額にある黒いできものについてのほうを考えることにする。
「なんらかの病気? だとしたら、殺人が多発しているのは罹ると殺人を行いたくなるような病気がダンジョン内で蔓延しているから……?」
ダンジョン内に未知のウイルスが蔓延している?
そして感染した者同士でも殺し合いが行われているとすれば、加害者と被害者に同じできものがあることに説明がつく。
「もしかしてわたしも……っ!?」
自分の額に触れるもそこにはなにもない。
まだ感染はしていないようが、ダンジョン内にいればいつかは……。
怖い。
ブラック級の自分が殺人衝動を引き起こすウイルスに感染したらどうなってしまうのか? きっと大勢の死者が出る。それを考えると怖かった。
怖いとこれほど強く感じたのはいつぶりだろうか?
ハンターとなり、ダンジョン内で魔物を倒し始めたとき……。いや、あのときはそうでもなかった。小太郎おにいちゃんを探すという使命に燃えていたから……。
「そうだ」
まだ5歳くらいだったとき、カラスにひどく怯えていた。
公園で遊んでいて、たくさんのカラスに囲まれたことがある。怖くて、泣いていて、そこへ来てくれたのが小太郎おにいちゃんだった。
小太郎おにいちゃんはカラスを追い払ってくれて、泣いている自分の頭を撫でてくれたことを無未は思い出す。
カラスに囲まれたことは怖かった。
けど、小太郎おにいちゃんが助けてくれたことはすごく嬉しくて、今でも大切な思い出として残っている。
「不思議だな」
カラスなんかよりももっと強い存在と対峙したことはいくらでもある。
しかしあのとき以上に恐怖を感じたことはなく、どんな強敵を倒しても小太郎おにいちゃんに助けてもらったときほどの喜びを得ることはなかった。
「怖いよ、小太郎おにいちゃん」
けれどもう小太郎おにいちゃんは助けてくれない。
もう大人だ。かつてと違って困難を振り払う力もある。危険があるならば、自分の力でなんとかしなければならないのだ。
「とりあえず一旦戻ろう」
どのようにしてウイルスに感染するのかはわからない。
もしも高い感染力ならば危険だ。
ブラック級の自分が感染することを恐れた無未は一旦ダンジョンを出て、国家ハンターに危険なウイルスが蔓延している可能性を伝えることにした。
戻るため踵を返す無未。
その背後に気配を感じる。
「おお、もしかしてあんた、ブラック級11位の女王様か?」
振り返ると、そこには男が立っていた。
「俺はプラチナ級108位の寺平光信ってんだ。こんな浅い階層でブラック級の女王様に会えるなんて珍しいな。なにをしてるんだ?」
「多発しているハンターによる殺人の調査をしている。国家ハンターの依頼でな」
漆黒の女王ディアー・ナーシングとして無未は尊大な態度で答える。
「へえ、それでなにかわかったかい?」
「なにか殺人衝動を引き起こすウイルスが蔓延している可能性がある。貴様もウイルスに感染したくなければダンジョンを出ることだな」
「ウイルスか」
なぜか男はクククとおもしろそうに笑う。
「なにがおかしい?」
「いや、むちゃくちゃに強いブラック級のあんたでも、間違うことはあるんだなと思ったらおかしくてな」
「なんだと?」
「ウイルスじゃないぜ。まあ近くはあるがな。殺人衝動を引き起こしているのは寄生虫だ。寄生虫を体内に宿した連中がダンジョンで殺人をやってるのさ」
「貴様、なぜそれを知っている?」
「なぜって……くくっ」
「……っ?」
周囲にぞろぞろとハンターが集まって来る。
その額には皆、黒いできものがあった。
お読みいただきありがとうございます。感謝です。
評価ポイントをいただけたらモチベーションアップになります。
・今後の展開が気になる方
・主人公など登場人物を気に入っていただいた方
・ざまぁや主人公無双が好きな方
・おっぱいの大きな女の子が好きな方
・その他、世界観や設定などに興味を持った方
ぜひぜひこの下から評価、ブックマークをお願いします。




