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第290話 神へと至った魔王様のその後

 ……女神の思惑を打ち破ってから1年ほど経った。

 神の力を手に入れた俺は以前よりも強力な魔王……いや、神と言ってもいいだろうか? とりあえずは魔王として世界を統べている。


 世界は問題無く平和だ。

 だがやはり俺には神やら魔王などという偉い存在は似合わない。早く別の人間へこの座を譲って、のんびりとくらいしたものなのだが……。


「へーあんたが魔王か」


 魔王城には尊大な態度の少年がやって来ていた。


「そうだ」


 俺は玉座に脚を組み、ひじ掛けに頬杖をついて答える。


「はっ、なんかもっとそれらしいオーラがあると思ったんだけどな。写真で見た通り普通のおっさんじゃん。こんなのが魔王だなんてがっかりだな」

「そうかい」

「ふん。これから死ぬってのに余裕そうだな。俺が誰かわかってるのか? 異世界から召喚されて神様からチート能力をもらった勇者様だぜ?」

「知ってるよ」


 あのとき世界のどこかに飛ばした女神だが、正確にはすべての力を奪えたわけではない。恐らく2割ほどは残っている。それと言うのも、神と対峙した時点で2つの装置にはある程度の力がすでに溜まっていた。それゆえ、神から吸収できた力は8割ほどで、奴を完全消滅させるには至れなかったのだ。


 それに気付いたのはあのあと千年魔導士に指摘されてからだった。

 

 そのせいでこうして異世界から召喚した人間へ能力を与えて俺を討伐に向かわせている。理由はもちろん俺を殺して神の力をすべて取り戻すためだ。


 俺は神の持つ力をほとんど手に入れたことで不老不死となった。

 つまり殺さない限り、女神に神の力が戻ることは永遠に無いのだ。


「君はなんでわざわざ女神が異世界から人間を召喚して勇者にするか知ってるか?」「あん? それは俺に勇者の才能があるからだろ?」

「違うよ。この世界に居る者たちは、俺がどれだけ強いか知っている。俺が神を倒したことを知っているから、俺を倒せなんて言う神の命令を聞かないからさ」

「神がお前みたいなおっさんに負けた? そんな馬鹿なこと……」

「自分で倒せるなら神が自分で俺を倒しに来るだろ?」

「そ、それは……」

「それをしないのは自分じゃ俺を倒せないからだ。しかしまあ下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるかもって、お前みたいに無知な異世界人に力を与えて討伐に向かわせてるんだよ。お前で10人目」


 選ばれた人間だ。

 君にしか魔王を倒すことはできない。

 悪逆非道の魔王をどうか倒してほしい。


 そんな言葉で唆されて能力を与えられてここへ来た異世界人が9人だ。目の前にいる彼で10人目。十中八九勝てないのをわかっていて騙し、送って来るのだから一体どっちが悪逆非道なんだか……。


「そ、そんなの嘘だっ! 信じねーぞっ!」

「事実だよ」

「はんっ! 例え本当でも前の9人は雑魚だっただけだっ! 俺のもらった能力は最強だぜっ! 食らえっ! 即死スキルだっ!」

「……」


 もちろんなにも起こらない。

 俺は最初と変わらず、同じ体勢で彼を眺めていた。


「あ、あれ? どうして……?」

「どうしてもこうしてもそんなものが聞くと思うか? 俺は魔王だぞ? 魔王に即死スキルなんか効くわけないだろう?」

「じゃ、じゃあこれでどうだっ! 必殺レーザーっ!」


 彼の指からレーザーが発射されて俺の胸を撃つ。


「どうだっ! ははっ! 俺の勝ち……」

「……」


 服にすら穴は空いていない。

 ダメージはご覧の通りゼロであった。


「そ、そんな……」

「失せろ」

「えっ?」


 痛みなど感じる隙も無かっただろう。

 俺の力で勇者の彼は塵になって消えた。


「はあ……」


 転移ゲートで帰してもいいが、危険な能力を持っている人間を放置もできないのでしかたない。装置のリミッターを解除して力だけを吸収というのも安易にはできないし、かわいそうだが仕留めるしか方法は無い。


 問題の元凶である神を見つけて始末するべきなのだが、それをできない理由もあった。


「コタローっ! そんな簡単に倒しちゃダメっ!」


 撮影機器を携えたアカネちゃんはそう俺へ文句を言う。


「せ、精一杯に手加減はしたつもりだけど……」

「けど一瞬で終わっちゃったじゃんっ! これじゃ動画映えしないよっ!」

「ごめんなさい……」


 勇者が来るようになってから、アカネちゃんは魔王対勇者の動画を配信すればバズると言って撮影に躍起だ。元凶の神を始末できない理由がこれである。


「けどもうそろそろいいんじゃない? 10人目だし」

「でも人気シリーズだし、もうちょっと続けたいんだよね」

「まあ人気は人気みたいだけど……」


 今やアカネちゃん……と言うか、アカツキは世界一の登録者数を誇る大人気VTuberだ。魔王対勇者シリーズは大人気で、再生数はすべて1億を超えていた。


「じゃあコタロー、他に人気出そうな企画を考えてよ」」

「う、うーん……」


 そんな急には思いつかない……。


「もうっ! 小太郎おにいちゃんを困らせないでよっ!」


 と、今まで黙っていた無未ちゃんが声を上げて俺の腕に抱きつく。


「こんな小太郎おにいちゃんを困らせるような女は捨てて、わたしのほうを正妻にしたら? そっちのほうが絶対にいいって。ねっ?」

「い、いやそれは……」

「あんたね、わたしのおかげで側室って身分を与えてあげてるんだからね。少しは弁えたらどうなの?」

「アカネちゃんには感謝してるよ。けど誰を1番に選ぶかは小太郎おにいちゃんの心次第でしょ? いつだって正妻が変わる可能性はあるんじゃない?」

「無いから。コタローの一番は永遠にわたしなの」


 そう言ってアカネちゃんは反対の腕へと抱きついた。


「しかし時間は無限にあるのじゃ。いつなにがどうなるかはわからんのう」

「あ、雪華」


 いつの間にか部屋へと現れた雪華が、側にやって来て俺を見上げていた。


「息子とは巡り巡っていずれは母のもとへ帰って来るものじゃ。無限にある時間の果てに、小太郎の隣にいるのは母であるわしじゃろう」

「そんなわけないでしょっ! ねえコタローっ!」

「う、うん……」


 しかし雪華の言う通り、俺たちには無限の時間がある。俺が神の力を得たことで魔王眷属の力を持つ全員も不老不死となった。とは言え、どれだけの時間が経とうと俺がアカネちゃん以外の誰かを正妻に選ぶことはないが。


「そんなことより動画の企画はなにか思いついた?」

「えっ? いや、うーん……なにかあるかなぁ?」

「あ、そうだ」


 なにか思いついたらしいアカネちゃんが俺の耳へと口を寄せてくる。


「次期魔王の成長記録はどう?」

「次期魔王の成長記録って……えっ?」

「2ヶ月なの」


 2ヶ月。そう言ったアカネちゃんは自分のお腹を撫でた。


「えっ? ま、まさか……」

「もうすぐお父さん、だね」

「う、うおおおっ!」


 感極まった俺はアカネちゃんの胸へと抱きつく。


 アカネちゃんの中に俺の子が。

 この喜びをどう表現したらいいか? 


 無意識にしたことはアカネちゃんの胸へ飛び込むことだった。


「もう。本当におっぱいが好きなんだから」

「お、俺が好きなのはアカネちゃんだよ」

「わかってる。ふふっ」


 そしてアカネちゃんは俺の頭を抱く。


 子供が生まれ、その子が成長をしたら魔王の座を譲ろう。

 そしてアカネちゃんと永遠にラブラブ生活を続けるのだ。


「アカネちゃんの中に小太郎おにいちゃんの子供がなんて……。小太郎おにいちゃんっ! わたしとも子供を作ろうっ! 側室なんだしいいよねっ!」

「えっ?」

「わしとも作るのじゃ。愛する息子の子供を産む。母にとってこれほどの喜びはない」

「いやでも……」

「そう言う話はわたしの子供が生まれたあとね。そのあとに検討してあげる」

「決めるのは小太郎おにいちゃんでしょっ!」

「決めるのはわたし。そうでしょ小太郎?」

「う、うん」


 もちろんそうだ。


 アカネちゃんが許すならば、無未ちゃんや雪華との関係も考えてみる。そうすることを2人が望むのならばと、俺は以前の考えを変えていた。


「じゃあ生まれるまでは魔王対勇者の動画を撮るからね。がんばってねパパ」

「う、うんっ」


 いずれまた俺は魔王の座を捨てるだろう。

 だがあのときとは違う。魔王を捨てた先には間違いの無いしあわせが待っており、とても楽しみに思えた。


 俺は魔王を続けよう。

 かつて最強だったと呼ばれる元魔王になるその日まで。

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