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第289話 神よりも大切な女性

「なんですって?」


 女神は笑顔だが、圧をかけるような雰囲気で俺に問いかける。


「断ると言ったんだ。俺はお前と交わって子供を作る気なんてない」

「断る理由がわかりませんね」


 笑顔のまま女神は首を傾げた。


「あなたの好みは知っていますよ。巨乳で美しい女性。私はそうである上に神です。私以上の女は存在しないのですよ? 断る理由はないでしょう?」

「お前に会うのが彼女と会う前ならば、もしかしたら受け入れたかもしれない」

「彼女?」

「俺が結婚をしたことは知っているだろう。俺が愛するのはアカネちゃんだけだ。お前と交わる気なんて無い」


 相手が巨乳美人だろうと神だろうと関係無い。

 俺にとって愛する女性はただひとり。アカネちゃんだけなのだ。


「神ではなく、たかが人間の女を選ぶと?」

「そうだ。それに身勝手な目的で大勢を苦しめたお前を許すわけにもいかない」

「馬鹿な男」


 神はそう言うと、邪悪な笑みを表情へ浮かべる。


「しかしあなたに選択権などありません。これは神が下した決定です。無理にでもあなたは私と交わり、子を成す糧となってもらいます」


 神の手がこちらへ向く。


「ふふ、もしかしてその装置とやらで私の力も吸収できると思いますか?」

「……」

「しかしそれは不可能。その装置がどれほど神の力を集められるかは知っています。人間が作り出したにしては確かにすごい装置ですが、集められても私の持つ力の半分ほどが限界。半分を失うのは痛いですが、まあ半分もあれば十分でしょう。残りの半分であなたを拘束します」


 装置は神の持つ力を限界まで吸収して容量が満タンとなっている。

 確かに女神の言う通り、この装置でこれ以上の吸収は無理だろう。


「さあ、私と交わりを……うん?」


 女神はこちらへ手をかざしたまま固まっている。

 俺の身にはなにも起こらず、その状態が少しのあいだ続く。


「ど、どうして……?」


 女神が困惑の言葉を吐く。


 どうやら女神は自分に起こっている事態に気付いてはいないらしい。


「望み通り、お前は神ではなくなったようだ」

「なんですって? それはどういう意味ですか?」

「自分の姿を確認してみろ」

「自分の姿……えっ?」


 神は自分の姿を見下ろして目を見開く。


 そこにあったのは巨乳美女だった姿ではない。

 小さな子供であった。


「な……っ!? こ、これは一体……っ!?」

「お前の力はすべて装置によって吸収された」

「ば、馬鹿なことっ! その装置では半分が限界のはず……っ」

「装置がもうひとつあれば」

「もうひとつ……? はっ!?」


 玉座のうしろから雪華と千年魔導士が姿を現す。


 2人がそこにいたのは少し前からだ。

 俺は気付いていたが、考えを察してそのままにして置いていた。


「そ、そいつの持っているもうひとつの装置も使って……」

「自分の力が無くなって、姿が変わっていることにも気付かないとはな。神と言っても意外にマヌケだな」

「こ、このっ! 私は神ですよっ! 神の力をすべて奪うなど不敬にもほどがありますっ! ち、力を返しなさいっ!」


 トテトテと小さな身体で走って来る。


「はあ、はあ……。力を返しなさいっ!」

「お前は望み通り神ではなくなったんだ。満足だろ?」

「私は力を持ったまま神をやめたかったのです。これではただの無力な子供ではないですかっ!」

「お前は自分の身勝手で多くの弱い者を苦しめ、殺してきた。その姿でしばらく過ごして、弱い者の気持ちを学ぶんだな」

「じょ、冗談じゃ……」


 言い切る前に、俺は女神を転移ゲートで飛ばしてしまう。


「さて、これで一件落着か」


 しかしこの世界は神を失ってしまった。いや、俺が力を奪って神と同等の存在になってしまった。これからどうしたらいいのか……。


「コタローっ!」

「ア、アカネちゃんっ!? おっと」


 玉座のうしろから現れたアカネちゃんが俺へと抱きつく。


「アカネちゃんもいたんだね」

「うん。コタローが心配だから一緒に連れて来てもらったの」

「そっか」


 俺はアカネちゃんを抱き締める。

 しかしアカネちゃんの抱く力が少し弱いような気がした。


「アカネちゃん? どうかした?」

「えっ? あっと……」


 アカネちゃんは迷うようなそんな表情で俯いていた。


「あの、コタローは本当にわたしでいいのかなって」

「どうして?」

「だって……神様だよ。コタローは神様の力を奪って神様になったのに、わたしは普通の女の子だもん。なんか身分が違うって言うか……んっ」


 そんなことを言うアカネちゃんの唇を、俺は自分の唇で塞ぐ。

 それから口を離し、アカネちゃんをじっと見つめた。


「俺がなにになっても、アカネちゃんがなにになっても俺たちの関係は変わらないよ。ずっと側にいてほしい」

「コタロー……」


 そしてふたたびキスをする。


 神になろうがなにになろうが想いは変わらない。

 俺にとっての最高は、今もこの先もアカネちゃんしかあり得なかった。

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