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第285話 思っていたよりも好きだった

 起き上がったそれの表情は真っ黒に焦げていてわからない。

 しかし笑っていると、智にはわかった。


「これは全部てめえが仕組んだことか?」

「ああ」


 そう答えた戸塚へ手をかざす。


「僕を殺しても無駄だよ」

「てめえの能力は知ってる。魂ごと消し飛ばしてやるよ」

「それも無駄」


 と、戸塚か黒く焦げた肩を見せる。


「それは……」


 赤い刻印。

 戸塚の肩に見えたそれがなにかには心当たりがあった。


「ミレーラの魔人スキル『アバター』だよ。つまり本体の僕はここにいない。こいつは君とおしゃべりするために置いたただの土産さ」

「ふざけた野郎だ」


 かざした手を下ろして戸塚を睨む。


「さてネタばらしだ。そこに映っている……皇君だったかな? 彼はもう死んでるよ」

「ふん。てめえが殺して身体を奪って、こんなくだらねえ動画を撮ったか」

「かしこいじゃないか。さすがは高学歴だ。くっくっく」


 ムカつく野郎だ。

 仮面野郎の次に、こいつは自分をイラつかせる不愉快な奴だと思った。


「そして今まで君を襲撃した人間もすべて僕。自分の能力を使ったり、ミレーラの魔人スキルを使ったりしてね。そして君を疑心暗鬼にした。なにも疑うことなく君が教皇エクスディメルを殺すように」

「エクスディメルはとっくにてめえが殺していたか」

「ああ。今日君が会ったエクスディメルは僕だよ。気付かなかったろう? どうやら演技の才能があるみたいなんだ。きっかけがあれば俳優だったかもね」

「てめえ最初から……」

「いや」


 戸塚は首を横へ振る。


「最初は本気で彼を見限って君につくつもりだったよ。ああ……だけどどうしてだろうね? ひどく罪悪感に苛まれたんだ。今までなにをしたって罪悪感を感じたことなんてないのにさ。すごく不思議だったよ」

「なにが言いたい?」

「僕は自分が思っていた以上に彼のことが好きだったってことさ」

「……っ」


 あんな野郎のどこに人を引き付ける魅力があるというのか?

 それが智にはわからず、自分が仮面野郎以下だと言われたようで腹が立った。


「てめえは野郎の甘さを嫌っていたんじゃねーのか?」

「ああ。彼の甘さは絶望的だ。あの甘さは為政者には向かない。彼は強いけど、甘さがあることで為政者としては不完全なんだ」

「それがわかっていて、てめえが奴につく理由はなんだ?」

「為政者としては不完全だからかな」

「は?」


 こいつの言っていることがわからない。

 こいつは奴の甘さを嫌っているんじゃないのか? それなのに不完全だからというのは、まったく意味がわからなかった。


「不完全だから、僕が側にいてあげなければいけない。そう思い直したのさ。彼が不完全なら、足りない部分は僕が補ってあげればいいだけだしね」

「ホモ野郎がっ」

「それは違う。まあ、彼が求めるならやぶさかではないけどね。くっくっく」

「ふん」


 気まぐれでこんな奴を側に置いたのが間違いだったか。

 こいつにはいろいろと引っ掻き回されたが、目的までの過程に変化があっただけだ。結果はなにも変わらない。


「こんなことをして、あの野郎を救ったつもりか? 無意味だぜ。今はあの野郎より俺のほうが強い。奴が死ぬ未来に変わりは無い」

「そうかもしれないね。そうなったら僕もこの世から旅立とう。しかし後悔はしないよ。彼に仕えることができたのは、僕の人生最大の喜びだからね」

「そうかよっ!」


 智はふたたび手をかざし、目の前に立つ黒焦げの死体を炎で消し去る。


「くそ。俺の遊びを邪魔しやがって」


 世界の敵になったあの仮面野郎を、正義の勇者様である自分が殺す。そういうストーリーを楽しみにしていたのに、戸塚のせいでダメになった。


 まあ所詮はメルモダーガと佐野がやろうとしていたことの焼き直しだ。単なる余興に過ぎない。真の目的にはなんの影響もないことだ。


 今の自分には仮面野郎をいつでも殺せる力がある。今すぐだって殺せる。


「もう殺しちまうか」


 遊びは失敗に終わった。

 だったらなにも待つ必要は無い。


「ようやくだ」


 レイカーズで奴に煮え湯を飲まされ、寺平と組んだときも屈辱を味あわされた。魔人になっても歯が立たず瞬殺された。そして夢音も……。


「だがもう同じことは起こらねぇ」


 自分には神からもらった力がある。

 相手が神で無い限り敗北は無い。


「待っていろ仮面野郎。今から殺しに行ってやるからな」


 そう言って智は大声で高笑う。


 もうすぐすべての決着がつく。

 すべての恨みつらみが洗い流される瞬間が間近に迫っていると思うと、笑いたい気持ちが抑えられなかった。

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