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第277話 小田原智の邪悪なる思惑(小田原智視点)

「あんた……なんでここに?」


 藤河原にどこかへ連れて行かれ、それ以降はどうなったか知らない。


 なにをされたかの想像はつくが、そのあとに殺されたものとばかり思っていた。


「神様のお告げであなたをサポートすることになったの」

「神って……金髪の胸がでかい女か?」

「そう」


 やはりあれは神なのか? いや、今はそれよりも……。


「あんたは藤河原に殺されたんだと思っていたよ」

「殺されてはいないわ。ある意味、殺されたとも言えるけど」

「どういう意味だ?」

「男としてのあたしは死んだってこと」


 それを聞いてこいつが藤河原になにをされたのか察し、ゾッとしたような心地になる。


「まあ……なんでもいいけどよ。ここはどこなんだ?」


 なにやら地方の田舎かどこかな雰囲気だが……。


「ここは一応、日本ね。けどあなたが知っている日本じゃないわ」

「どういうことだ」

「ええ」


 皇の口から語られたのは、自分のいた世界が吸収されたこと。そしてこの世界ではあの仮面野郎が魔王という存在として絶大な権力を持っていることだった。


「ふん。ずいぶんと荒唐無稽な話だな」

「事実よ。そもそも死んだはずのあんたが生き返っているんだから、荒唐無稽なんて今さらでしょう」

「まあそれもそうだけどよ」


 自分はあのとき確実に死んでいる。

 それがこうして生き返っているのだから、荒唐無稽など確かに今さらであった。


「それで、あの仮面野郎はどこにいるんだ?」

「魔王城よ。さっそく倒しに行くの?」

「そんなのつまんねーよ」


 すぐに殺すだけじゃ気が収まらない。

 徹底的に奴を追い詰め、絶望に塗れたそのときに殺すことでこの深い憎悪を消し去ることができる。


 待ってろよあのクソ仮面野郎。


 奴には今まで散々に辛酸を舐めさせられてきた。

 夢音も奴の手で……。


 夢音。

 あの女が殺されたことになぜ怒りを感じる?


 あんなのはたかが女だ。

 あいつが殺されたことなんてどうだっていいことだろう。


「どうかした? なにか思い詰めたような顔してるけど?」

「……なんでもねーよ」

「そう? じゃあどうするの? 近くに町があるけど、とりあえずそこへ行って食事でもする?」

「そうだな」


 まずなにをするかが決まらないと動きようがない。とりあえずは皇に従って村へ腹ごしらえをしに行くことにした。


 ……皇について行きしばらく歩くと、町中へと出る。車道には車が走っており、普通の田舎町という様子だった。


 そこにあるファミレスに入って食事を始める。


「異世界に吸収されたにしてはそれらしくねーな」


 異世界に吸収されて魔法が当たり前に存在する世界になったようだが、それらしい変化は感じなかった。


「ええ。あたしたちの世界にだいぶ近い形になっているようね」

「ああ」


 つまりそんな世界をあの仮面野郎が支配している。

 それを知ってむかっ腹が立った。


「魔王様が新しくなったんだってねー」

「なんかすごく強い人らしいよ。奥さんもすごく綺麗な人だよねー」

「わたしも側室でいいから魔王様に愛されたいなぁ」


 そんな声が聞こえてきてさらに腹が立つ。


 この世界をむちゃくちゃにしたい。

 その思いが急激に膨れ上がっていく。


「あの野郎はずいぶんと好かれているようだな」

「以前の魔王は胸の大きな美女を迫害とかやっていたからねぇ。そういうのが無くなって喜ぶ人間も多いんじゃないかしら」

「まあなんでもいいけど気に入らねーよ。あの野郎に人気があるなんてよ」

「ふふ、そういえばあなた、魔王の顔は見たかしら?」


 皇が意味ありげな表情で聞いてくる。


「知らねーな。興味もねー」


 野郎の顔なんてどうでもいい。

 奴がどんな顔をしていて何者であろうと、潰すべきムカつく野郎には変わらないことだ。


「なんか事情があって今は顔を晒していないようなんだけどね。昔に魔王をやっていたときの絵をあたし見たことがあるのよ。その顔があたしの……」

「興味ねーって言ってるだろ」


 自分にとってあいつはムカつく仮面野郎。

 それだけ知っていれば十分だ。素顔なんてまったくどうでもいいことだった。


「あらそう? まあいいけど」

「それよりも奴が人気ってのは気に入らねーな」

「じゃあどうするの? 悪い噂でも流してみる?」

「それもいいな」


 悪い噂を流して奴の評判を下げる。

 それはいいことだが、それだけじゃあ単なる嫌がらせにしかならない。


「けど悪評を流す程度じゃあつまらないな」

「どうしたいっての?」

「奴を本当の意味でこの世界の魔王にする」


 大勢から悪と蔑まれる魔王へと奴を変えてやる。以前にメルモダーガが佐野に同じようなことをやらせていたが、連中のようなへまはしない。


「本当の意味での魔王……ね。おもしろそうだけど、簡単じゃなさそうねぇ」

「俺には神からもらった力がある。それを使えば難しくはない」


 まだ使ったことはないが、身体の中に強力な力を感じる。今の自分ならば恐らくあの仮面野郎を殺せると確信できるくらいに。


「そう。じゃあまずその力を使ってどうするの? そこの女の子たちを洗脳して悪い噂を流させたりしてみる?」

「そんなんまどろっこしい」


 学校のいじめじゃないんだ。

 世界を支配している魔王のイメージを失墜させるのだから、もっと盛大にやりたい。


「まずはこの町を魔物に襲わせるってのがいいな」

「それを魔王のせいにするのね」

「それだけじゃねーさ」


 おもしろいことを思いついた。


 奴を凶悪な魔王に仕立て上げてやるんだ。

 だったらそれを倒す救世主が必要だろう。

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