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第272話 意志を持つ力の裏切り

「どうしたんだ一体? 奴になにが……?」

「コタローコタロー」

「えっ?」


 呼ばれて俺はアカネちゃんを見下ろす。


「お、おっぱい揉んでる場合じゃないんじゃないの?」

「そ、そうだね」


 しかし手は離れない。

 本能がこの感触から離れることを拒否していた。


 もうずっとこうしていたい。

 他のことなんてどうでもよかった。


「もーっ。おっぱいはあと」

「あっ……」


 腕を掴まれて強制的に離されてしまう。

 しかし手は今も揉む動きをしていた。


 名残惜しい……。い、いや、今はなにが起こったのか状況を確認しないと。


 イレイア……グラディエに身体を乗っ取られたイレイアはうつ伏せに倒れている。


 なぜこうなったのか?

 さっぱりわからなかった。


「どうするの?」


 ブラジャーをつけ直して上着のボタンを留めながらアカネちゃんが聞いてくる。


「どうするって……」


 勝った……でいいのか?


 しかしなぜこうなったのかわからないので、断定はできなかった。


「魔王様」


 倒れているイレイアを見張っている俺たちの側へ千年魔導士が歩いて来る。そのうしろには無未ちゃんたちもいた。


「みんな……無事でよかった」


 千年魔導士、無未ちゃんに雪華。それとジグドラス。全員の無事な姿を目にして俺は安心し。


「はい。下級天使たちは撤退して行ったのですが、こちらでなにかありましたか?」

「ああまあ……」


 ここであったことを俺はグラディエに話す。


「……なるほど。それはもしかしたらイレイアの持つ魔王の力が魔王様の意志に反応をしたのかもしれませんね」

「どういうことだ?」

「そもそもは魔王様が巨乳美女好きというだけで支配していた力です。アカネ様の胸に触れたことで魔王様の強烈な意思を感じ取って、力がイレイアを……いえ、グラディエを裏切ったのでしょう」

「力が宿主を裏切るなんて……そんなことあるのか? まるで意志があるみたいに」

「魔王の力とは神が創造に使う力の残滓です。ある程度の意志が魔王の力に創造されていても不思議は無いでしょう」


 魔王の力に意志が……。


 そんな可能性は考えもしなかった。


「つまりさ、わたしを守りたいっていうコタローの意志を、イレイアが持ってる魔王の力が受け入れたってこと?」

「まあそういうことでしょうね」

「ふーん。それはわかったけど、なんで攻撃した側のグラディエが倒れちゃったの? こっちからはなんの攻撃もしてないのに?」

「恐らくはアカネ様の魔王眷属によるものだと思います」

「わたしの魔王眷属?」

「はい。魔王様は愛でる教によって集められた魔王の力に加えて、コタツ様との契約によって得た神法があります。その2つが合わさったことで魔王様は天使グラディエを超える力を得ています。しかしイレイアの持つ魔王の力を得ることでグラディエはわずかに魔王様の力を上回りました」

「あ、けど、イレイアの持つ魔王の力が裏切ったから……」

「そうです。グラディエは自身の持つ神法の力のみとなりました。この時点でグラディエの力は魔王様より劣りました。アカネ様の魔王眷属は魔王様より強い相手には発動しません。ここまで言えばわかりますね」

「な、なるほどー」


 千年魔導士の説明を聞いてアカネちゃんは納得したように頷く。


 つまりアカネちゃんの魔王眷属が発動し、イレイアの中にいるグラディエだけが消滅したということか。


「ということは俺たちが勝ったってことでいいのか?」

「そういうことです」


 それを千年魔導士から聞いた俺はホッと一息つく。


 俺たちの世界が吸収されてからそれほど長い時間は経っていないだろう。

 しかしものすごく長い戦いが終わったような、そんな感覚であった。


「イ、イレイアはっ!」


 意を決したような表情でジグドラスが声を上げる。


 ジグドラスはイレイアの身を案じていた。

 倒れているイレイアを目にすれば不安になるのも当然だろう。


「消滅したのは中身のグラディエだけです。イレイア将軍は気を失っているだけでしょう」

「そ、そうですか……。よかった」


 そう言って胸を撫で下ろしたジグドラスはイレイアの側へと歩いて行く。


「ようやく終わったのう」


 労いの気持ちを込めてか、雪華が俺の脚をポンポンと叩く。


「うん。わたしは自分のわがままでいろいろ迷惑をかけちゃったけど……」


 申し訳なさそうに俯いている無未ちゃんの頭を俺は撫でる。


「俺が悪かったんだ。無未ちゃんはなにも悪くないよ」

「そんなこと……。悪いのはわたしだよ。本当にごめん。ごめんね……」

「もういいから。ね」


 俺がそう言っても、なかなか自分を許せないという無未ちゃんの気持ちはわかる。

 時間がゆっくり許すだろうと思いつつ、俺は無未ちゃんの頭を撫で続けた。


「で、これからどうするの?」

「どうするって?」


 アカネちゃんに問われた俺はきょとんとして言葉を返す。


「イレイアを倒して、コタローはこれからどうするのかってこと」

「えっと……帰る?」

「そうじゃなくて、魔王に戻るのか聞いてるの? このままイレイアに力を持たせて魔王を続けさせるわけにはいかないでしょ?」

「それは……そうだけど」


 ふたたび俺が魔王に……。

 イレイアを倒したのちにそうなるだろう可能性を考えなかったわけじゃないが。


「もうやりたくない?」

「うーん……」

「小太郎がやるしかないじゃろう。他にできる奴がおらん」

「そ、そう……だろうな」


 所持者がいなくなれば、いつまたイレイアのように力を手に入れて暴走する者が現れるかわからない。

 やはり俺が力を所持して魔王をやるしかないか……。


 魔王になれば今までのようにのんびりとは生きられない。

 アカネちゃんとのんびりラブラブなライフも送れないだろう。


 それを考えると魔王はやっぱり嫌だなぁと思う。


「やりたくないならさ、とっとと子供作ってその子に継がせちゃえば?」

「えっ?」

「コタローとわたしの子供ならきっと魔王の適正はあるよ。ね、そうしよ」

「そ、それは……


 子供を作るとはつまりそういうことをするわけで……。


「じゃあ決まりね。まず子作りの前に結婚式の準備だよ」

「け、結婚式?」

「なに? わたしと結婚したくない?」

「いや、したいけど、急過ぎて……」

「だってもうわたしたちラブラブじゃん。今すぐ結婚してもいいくらいに」

「そうだね」


 まあそれはそうである。


「ちょっと待つのじゃ。まだわしが許しておらん」

「わたしが小太郎おにいちゃんの側室って話も忘れないでね」

「なんじゃそれ? じゃあわしも側室になるのじゃ」

「あーいや、その……」


 なんだかすごいややこしいことになりそう。


 とは言えアカネちゃんとの結婚はすごく嬉しい。

 とうとうこの日が来たと、そんな喜びの思いで心はいっぱいだった。


 ……しかし天使の目的はなんだったのか?

 なんのためにイレイアを利用して世界吸収など目論んだ目的がわからないままだ。


 天使は神の意向で動いている。

 神は一体なにを考えていたのだろうか?


 それはまだ不明で、俺の心に嫌な予感を残した。

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