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第269話 アカネちゃんの決意

「ど、どうしたのアカネちゃん?」


 わかったとはどういう意味だろうか?


 言葉の意味がわからず、俺はただ呆然とアカネちゃんを見下ろしていた。


「もうこうするしかないってこと」

「こうするしかないって……」


 と、アカネちゃんは俺の前へと歩み出て無未ちゃんを見据える。


「あなたなんかがいなければ……」

「ふん。確かに、わたしがいなければコタローはあんたと愛し合っていたかもね」


 2人のあいだに剣呑な空気が流れ始める。


 これはいつもの喧嘩じゃない。

 放って置けばどちらかが死ぬ。


 止めなければと歩を進めた俺の動きをアカネちゃんが手をかざして制す。


「ア、アカネちゃん。ダメだ。ここは俺に任せて……」

「どうするって言うの?」

「ど、どうするって……それは」

「あの人を殺す? できないでしょ? じゃあおとなしく殺される? それもできないんでしょ? だったらコタローにできることなにもないじゃん」

「う……」


 その通りだ。俺に無未ちゃんは殺せない。殺されるわけにもいかない。


 アカネちゃんの言う通り、俺はどうすることもできない。どうしたらいいのかわからず、立ち尽くすことしかできていなかった。


「だ、だけど……」

「いいから。わたしに任せて」


 なにか考えがあるのだろうか?


 しかし無未ちゃんは本気だ。

 敵視しているアカネちゃんから説得を受けて引くとは思えないが……。


「あんた、このままじゃ死ぬよ。わたしの能力は知ってるでしょ? あんたは神法を使うみたいだけど、コタローが神法を得たからわたしの魔王眷属も神法になってるの。攻撃なんかしたらあんたは死ぬ」

「だからなに? 死ぬのなんて怖くない。小太郎おにいちゃんから愛されないまま生きていくんだったら、死んだほうがマシ」


 無未ちゃんはふたたび黒い剣を構える。


 このままでは本当に無未ちゃんが死んでしまう。

 しかし止めてどうする? どうすれば……?


「あんたがコタローのことをどれくらい好きかはわかる。たぶんわたしがコタローを想うくらいに、あんたもコタローを想っている」

「……」

「けどコタローはわたしを選んだ。あんたは負けたの」

「くっ……」

「コタローを殺して自分も死んで別世界で2人きりになってどうするの? それでコタローが喜ぶと思ってる? 喜ぶわけないじゃん。恨まれるだけ」

「そ、そうなってもいいっ! 小太郎おにいちゃんと2人だけになれるなら……」

「わたしなら絶対に嫌だ。だってコタローに愛してほしいもん。コタローに愛されないなら、じぶんひとりで死んだほうがいい」

「……っ。小太郎おにいちゃんに愛されているからあなたはそんなことが言えるんでしょっ! わたしは愛してもらえなかったっ! もうこうするしか……」

「だったらコタローからの愛をほんの少しだけあんたに分けてあげる」

「えっ?」


 アカネちゃんの言葉に無未ちゃんは驚いたような表情を返す。

 どういう意味か分からず、俺も困惑しつつアカネちゃんの背を見つめていた。


「な、なに? それってどういうこと?」

「言葉通りの意味。わたしはコタローから100%の愛をもらっているの。だからそのうち10%くらいをあんたに分けてあげるってこと」

「だからそれって……」

「あんたをコタローの側室にしてあげる」

「は? え……?」


 無未ちゃんの表情が戸惑いに歪む。それは俺も同じだった。


「どう? 悪い提案じゃないと思うけど?」

「そんな……側室なんて……」

「じゃあここで死ぬ? それとも側室になって少しでもコタローから愛される? どっちか選んで」

「ア、アカネちゃん、側室だなんて俺……」

「コタローは黙ってて」

「はい……」


 強い雰囲気に押されて俺は黙り込む。

 無未ちゃんも俯き、言葉を失っている様子だった。


「……わかった」


 やがて無未ちゃんはそう呟き、手から剣を消す。


「わたし小太郎おにいちゃんの側室になる」

「えっ? いやでも無未ちゃん、俺は側室なんてそんな不貞なこと……」

「コタローは黙ってなさい」

「はい……」


 一切しゃべるなとでも言うようなアカネちゃんの声に俺はまた黙り込む。


「じゃあこれで解決。先へ進も」

「あ、うん……」


 なんとも腑に落ちない。

 しかし結果的には誰も死なずに事を収めることができていた。


「こ、小太郎おにいちゃん……」

「無未ちゃん……」


 申し訳なさそう表情で無未ちゃんがこちらへ歩み寄ってくる。


「ごめんね。わたし……でも、どうしたらいいかわからなくて。小太郎おにいちゃんのことを想い過ぎてこんなこと……」

「う、うん。ともかく無事に収まってくれてよかったよ」

「うん……」


 しかしやはり側室というのは気になる。

 とは言え、他に収める方法もなかったのだろうが……。


「あ、そ、その胸って……」


 無未ちゃんの大きかったお胸が小さくなっていることがずっと気になっていたのだが……。


「あ、これはね」


 ライダースーツのジッパーを下ろす……と、


 バインっ!


 ようやく外に出ることができた。

 黒いブラに覆われた大きな胸がそうとでも言いたげに飛び出てくる。


「あー苦しかった。大きな胸は隠さないといけないって天使に言われて……」

「そ、それよりも胸は隠してっ」


 俺は着ていたジャケットを無未ちゃんへ羽織らせる。


「あ、ありがとう小太郎おにいちゃん。あ、あのアカネちゃん……」

「なに?」

「ありがとう」

「ふん」


 自分で言ったことではあるが、納得はしていない。

 アカネちゃんの表情はそう言っているように見えた。


「あ、魔王城の入り口にある回廊で雪華たちが戦ってくれているんだ。よかったら無未ちゃんもそっちを助けに行ってくれないかな?」

「うん。わかった。じゃあまたあとで」


 そう言い残して無未ちゃんは階段を駆け下りて行く。


 その背が見えなくなり、俺はアカネちゃんのほうへ目をやった。


「ア、アカネちゃん俺……」

「ああするしかなかったでしょ」


 そう言ってアカネちゃんはため息を吐く。


「ここであの人が死んだらコタローはそれを引きずってわたしを愛せなくなる。そんなの嫌だからこうしたの。しかたないでしょ」

「う、ん……」


 思うことはいろいろとある。

 しかし俺は頷くことしかできなかった。


「……それにあの人の気持ちわかるし。立場が逆なら、同じことをしていたかもしれないって考えるとね」

「アカネちゃん……」

「もうなにも言わないで。わたしを一番に愛してくれればそれでいいからさ。ほら行こ。もたもたしてられないでしょ」

「う、うん」


 アカネちゃんに手を引かれて俺は先へ進む。


 この子は本当に強くて立派な女の子だ。

 俺には必要な女の子。


 なぜ自分がアカネちゃんを愛したいと思ったのか? それが今はっきりわかったような気がした。

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