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第259話 コタツが竜族の嫡子?

兵士たちが剣呑な雰囲気でこちらへ武器を構えている。危険を感じた俺はアカネちゃんを側へ抱き寄せた。


 やはり人間に対して敵意はあるか。予想はしていたので驚くことも無い。


「話をしに来ただけだ。戦う気は無い」

「黙れ誘拐犯めっ!」

「誘拐犯?」


 一体なんの話をしているのやら……?


「誘拐犯ってなんのことだ?」

「とぼけるなっ! 13年前に竜の里から里長の嫡子を誘拐したのを忘れたとは言わさんぞ」

「13年前に里長の嫡子を誘拐した?」

「コタロー、そんなことしたの?」

「いや、してないけど……」


 忘れたもなにも、そんなことしていない。


「とぼけるなっ! そこに抱いている嫡子様こそがなによりの証拠だっ!」

「は? えっ? そこに抱いている嫡子様って……?」


 兵士の指差す先に目をやる。

 そこにはアカネちゃんの胸に抱かれているコタツがいた。


「コ、コタツが嫡子様? なにを言って……」

「きゅー……?」


 当のコタツも首を傾げていた。


「一緒に来てもらおう。抵抗するようなら……」

「わかったよ」


 戦いに来たのではない。

 場合によっては戦うことになるかもしれないが、とにかくなぜ俺が里長の嫡子を誘拐したことになっているのか、理由が知りたかった。


「里の長に会わせてもらおう」

「里長に? そんなこと……」

「それともここで俺と戦うか?」

「……っ」


 俺が先代魔王と知っているならば、できるだけ戦いたくはないだろう。


「……わかった。竜人の長に話してみよう」

「直接に話す。長のところへ連れて行ってもらおう」


 そもそも竜人の長に会って、竜族の里長に繋いでもらう予定だったのだ。このような状況になってしまったのは不本意だが、会うことに変わりはない。


 俺たちはそのまま兵士たちに連行されて行政が行われている建物へと連れて来られる。待合室でしばらく待っていると、そこへ初老の男が現れた。


「竜人の長を務めているギャラギドガンと申します。話は兵たちから聞きました」

「ああ。それで、竜人の長には会わせてもらえるのか?」

「申し訳ありませんが、里長の嫡子様誘拐の首謀者であるあなたを里長に会わせるわけにはいきません。おとなしく捕まっていただけますか? そうしていただけないのでしたら、我々はあなたと戦争をすることになりますが」

「はあ……」


 まあこうなる可能性は予想していたが。


 話しても埒が明かないだろう。

 ここは転移ゲートで一旦、戻るか……。


「――その話、私が預からせてもらおうか」

「えっ?」


 しわがれた老人の声が聞こえ、そちらへ目を向けると、立派な白い髭をたくわえた右腕の無い緑の小さな竜が扉の隙間から入って来ているのが見えた。


「こ、これは美髯公様っ。なぜこのような場所に……?」

「美髯公?」


 その竜は見た目が完全に竜であり、位の高い強き竜であることはすぐにわかった。


「彼らは私が連れて行く。よいな?」

「えっ? いやしかし、これは里長であるデルタデイド様のご命令で……」

「デルタデイドには私から話しておく。まだ文句はあるか?」

「いえ……」


 竜人の長は不服そうだが、この竜は里長に対しても強い立場にあるらしく、従うしかないようであった。


「では私について来ていただけますかな?」

「ああ」


 美髯公と呼ばれていた竜に俺たちはついて行く。

 そのまま竜人の町を出て、里のほうへと連れて行かれた。


「このまま竜族の長に会わせてもらえるのか?」

「いえ、私の家に来ていただきます。そこに抱かれている嫡子様のことに関して、あなたには話しておかなければならないことがあるので」

「それは俺も聞きたいことだけど……」


 あの兵士はコタツを嫡子と言っていた。

 これは一体どういうことなのか確かめる必要があった。


 やがて大きな洞窟へとやってくる。


「もしかして家ってここのことなの?」


 思っていたのと違うとでも言いたげな顔で、アカネちゃんは洞窟を眺めていた。


「もしかしたら人間が住むような屋敷を想像されていたのかもしれませんが、我々は竜ですので、人間の考える豪華なものは必要無いのです。自分で穴を掘って住処を作り、食料も自らの手で調達する。それが我々です」

「そうなんだ」


 竜族は己の強さを誇る種族だ。他者を頼るなど弱さであり恥と考え、戦いも生活もすべて己ひとりで行う。

 そういう竜族からすれば寄り集まって協力し合うことが普通の多種族など見下すべき弱き存在で、対等に話すことなどありえないのだ。


「あんたは竜族なのに俺たちを見下していないみたいだな」

「長くて生きておりますと、他者を見下すことが愚かだと気付くものです。そうでない者らも多くはいますが」

「そうでない者ね」


 恐らく大半の竜がその、そうでない者らなのだろう。

 そうでなかったら竜族と人間はもっと親密になっているはずだ。


 俺たちは穴の中に通され、適当な場所に座る。天井に空いた穴から太陽の光が降り注ぎ、洞窟の中でも暗さはなかった。


「本当に普通の洞窟じゃな。家族はおらんのか?」

「竜人を除いて、竜族は基本的に家族を持ちません。気に入った雌を見つけたら交尾をして子供を産ませます。その子も産まれたときからひとりで生きていくので、竜族には家族がいる時期というものがないのです」

「寂しくはないのかの?」

「そう考えるのは竜族にとって弱さです。仮にそう考えたとしても、口に出す者はいないでしょう」

「なるほどのう。こうして会話ができても、竜族と人間は考え方がずいぶん違うようじゃな」

「はい。おっとこのままの姿では失礼ですね。本来の姿に戻りましょう」


 と、竜の身体が光り輝き、やがて巨大な姿へと変貌した。

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