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第252話 罠を疑う戸塚

 例の催しは全世界にいる信者たちへライブ配信され、全員が雪華を信仰対象と認めたのか力は順調に溜まっているようだった。


「なんでわしがこんな目に……」


 しかし雪華は元気が無く、アカネちゃんの部屋で俺に抱き上げられながらしょんぼりと暗い表情をしていた。


「だってお前がやるって言ったんだろ?」

「なんか想像してたのとは違うのじゃ」

「想像って?」

「うん? うん。なんかこう……拝まれるだけみたいな」

「拝まれてたぞ」


 信者の皆さんは泣きながら雪華を拝んでいた。


「あんな格好で拝まれても嬉しくないのじゃ」

「あの格好をしたほうが効果あるらしいし……」


 戸塚がそう言ってたけど、本当かはわからない。

 ただ、信者の皆さんはすごく喜んでいたからまあ正しいのだろう。


「おかげで力はだいぶ溜まりつつあるようです」


 ひとりでテレビゲームをやりながら千年魔導士が言う。


「もうイレイアと戦えるか?」

「それはまだですね。もう少し時間がかかりそうです」

「そうか」


 そう遠くないうちにイレイアを倒せるだけの力が溜まる。そうすれば迫害されている巨乳美女たちを救うことが……。


「ちょっとあんたたちっ!」


 と、ベッドに座っているアカネちゃんが声を上げる。


「なんでわたしの部屋に溜まってんのっ! コタローはいいけど、あんたらは別の部屋を用意してあげたんだからそっちへ行きなさいよねっ!」

「ひとりは寂しいのでここにいます」

「あんたそういうキャラなの? なんか孤独を好むような雰囲気なのに」

「意外に寂しがり屋なんですよ」

「自分で言うことかっ! 雪華ちゃんはなんとか教の本部のほうにいたほうがいいんじゃないの? 信者たちへ顔を見せる必要あるでしょうし」

「直接に顔を見せるのはたまにでいいそうじゃ。だから大半はここでライブ配信をすればいいそうじゃな。良い時代になったものじゃ」

「いいのそんなのでっ?」

「わしもなんとかチューバーの仲間入りじゃ」


 だいぶ違うと思うが……。


「いいからあんたち出て行ってよっ! コタローと2人きりになれないじゃんっ!」

「母として結婚前の息子と女を2人きりにするわけにいかん」

「雪華ちゃんはコタローのお母さんじゃないでしょっ!」

「そうじゃった」


 雪華は俺にがっしりと抱きつき、絶対に離れないという様子だ。

 俺もアカネちゃんと2人きりの時間は欲しいが、嫌だと言うのを無理に出て行ってもらうのもかわいそうというか……。


「出て行きなさいーっ!」

「嫌じゃーっ!」


 俺に抱きつく雪華を引っ張るアカネちゃん。

 雪華は喚きながらますます強く俺に抱きついていた。


 こんなやりとりもなんとなく懐かしい。


 そういえば無未ちゃんは……。


 以前はこういう争いに無未ちゃんもいた。

 今この世界のどこでなにをしているのか? しあわせに生きているのか? もしそうだとしたら、やっぱりアカネちゃんの言った通り記憶は戻さないほうが……。


「うん?」


 不意に俺の懐でスマホが鳴る。

 俺は雪華を降ろし、スマホを取り出して通話ボタンを押す。


「はい」

「ああ、小太郎君。僕だよ」


 相手は戸塚だった。


「どうした?」

「重大な話がある。少し会えないかな?」

「電話じゃダメなのか?」

「万が一、盗聴とかされていたらまずいからね」


 どうやらかなり重要な話のようだ。


 俺は了承して通話を切り、戸塚の指定する場所へ向かった。


 ……指定された場所である繁華街の一角へひとりで向かうと、そこに小さな女の子……戸塚が立っていた。


「やあ。そこに車を停めてあるからそこで話そう」

「ああ」


 俺は戸塚とともに車の後部座席へと乗り込む。


「それで、重大な話ってなんだ?」

「うん。どうやらイレイアにこちらの動きがバレているらしくてね」

「えっ? どういうことだ?」

「敵の潜入者がいるのかもしれない」

「せ、潜入者?」

「ああ。君が集合装置の試作品を手に入れて力を集めているという話は君の仲間や僕、あとは会の人間くらいしか知らないし口外は厳禁としている。しかしイレイア側の動きからして、どう考えてもこの話が漏れている」

「イレイア側の動きって?」

「幼女を愛でる教の信者を討伐するよう、メディアを通じて大魔王イレイアから命令が出た」

「えっ?」

「力を集めるために彼らの利用を決めてすぐのことだ。敵側の動きが早すぎると思わないかい?」

「ああ……」


 会の中に潜入者がいる。

 それが誰なのかはわからないが……。


「潜入者はともかく、まずは信者たちを助けないとな」

「討伐の最高責任者は大陸魔王のナルマストスだよ。そいつを倒せばとりあえず討伐の動きは止まると思う」

「ナルマストスか……」

「知ってる奴かい?」

「ああ。まあな」


 イレイアと同じ将軍職についていた女だ。頭が良くて采配に優れた奴だが、荒っぽく残虐な性格を嫌って俺は冷遇していた。イレイアもナルマストスとは反目し合っていたはずだが、魔王の力によって心に変化があった影響なのか、奴を配下として使っているようだ。


「ナルマストスはどこにいる?」


 すぐに行って始末してやろう。


「奴が支配する大陸の居城にいるよ。討伐の指示はそこから出すと、メディアでも公表されていた」

「じゃあそこへ行って……」

「いや、少し奇妙に思うんだ」

「奇妙って?」

「君が大陸魔王2人を倒していることはすでにイレイア側も知っていることだろう。大陸魔王に強さの差はそれほどない。だったら君が来ることを警戒して、居場所は伏せると思うんだよね」

「居場所を公表しているのは罠だって言うのか?」

「そうかもしれない」

「罠があったって俺は負けやしないさ」

「君を倒す。はたしてそんな単純な罠かな……」

「他にどんな罠があるんだ?」

「さてね。ともかく焦らないほうがいい」

「そう言われても……」


 現在進行形で信者たちが被害に遭っている。

 のんびりしているわけにもいかないだろう。


「少し時間が欲しい。奴らの狙いを考えてみる」

「わかった」


 今までも戸塚の考えには助けられている。

 奴らになにか罠があるのならば、それの看破を任せてみようと思った。

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