第248話 雪華に信者を?
「殺したの?」
「いや、別の世界を創造してそこへ封じ込めてやった」
「それってどういうこと?」
「奴が放とうとしていた魔力の塊には世界を一瞬で消滅させるほどの力が込められていた。その力を反転させて、世界創造に使ったってこと」
そしてそこへ奴を放り込んだ。
今ごろ奴はなにも無い世界で脱出を試みて無駄に力を使っていることだろう。しかし出ることはできない。創造した世界には奴の力を超える封印を施してあるため、出て来ることは絶対に無い。
「なんでそんな面倒なことしたの? 倒せばよかったじゃん?」
「倒してしまうには奴の持っている力が大き過ぎるんだ」
「力が大き過ぎる?」
「うん。魔王の力はとても危険な力なんだ。奴が死ねば体内にある力が暴走をして大爆発を起こす。それを防ぐために封印をしたんだ」
「だ、大爆発って……規模は?」
「集合装置がどれほど力を集めていたかはわからないけど、たぶん……世界の3つか4つは消し飛ぶくらいの爆発かな」
「ひええ……」
ゾッとしたような表情でよろけたアカネちゃんは、俺へと寄りかかってくる。
「しかしこれでイレイアを倒す準備が整ったということじゃな」
「うん。このまま力を溜めることができれば……」
「そこが問題なのです」
「えっ?」
問題と言った千年魔導士を俺は見る。
「問題って?」
「はい。完成品である集合装置は世界中から自動で力を集めます。しかし試作品は集める力のひとつは大きいですが、装置の周辺からしか集めることができないのです」
「じゃあ地道にあっちこっち行って集めるしかないのか?」
それはすごく面倒だ。とはいえ、やらないわけにも……。
「いえ、そうされなくても集める方法があります」
「そうなのか? どうするんだ?」
「はい。信仰心を利用するのです」
「し、信仰心?」
信仰心を利用してどうやって力を集める? どういうことだ一体?
「まず世界中に雪華様の信者を作ります。その信者が祈りを捧げることによって、信者の周辺にある神の創造物から力の一部を雪華様へ送ることができるのです」
「それが試作品の細かい仕様ってやつか」
「はい。本来は残滓を集めさせて送らせるものでしたが、失敗して創造物から力を送るようになってしまったようですがね」
「うん。……けど」
力を集めるために雪華の信者を作るって……。
それなら転移ゲートで地道に力を集めたほうが楽なんじゃ。
「しかたないのう。ではわしの信者を集めるかの。わしの身体に力が溜まらぬよう、常に小太郎の身体と密着している必要もあるのう」
「時間をいただければ、離れていても力の譲渡ができるように私がお2人の身体を魔法のパイプで繋げますので、力が溜まってしまうことのご心配はされなくても大丈夫ですよ」
「余計なことは言わんでもいいのじゃ」
と、雪華は千年魔導士を軽く小突く。
「ま、まあそれは良いとして、力に関しては転移ゲートで移動したりして地道に集めても……」
「それでは時間がかかりますね。世界中に信者を作って集めたほうが早いです」
「けど信者を作るなんてそう簡単にはいかなくないか?」
「会長、私に考えがあります」
今まで黙っていた諏訪がそう言う。
「考えって?」
「はい。この建物が宗教団体の施設であることはお話しましたね」
「うん。けど、会を隠すための偽宗教団体なんだろう?」
「いえ、会の活動資金を稼ぐために宗教団体としての運営はしております」
「そ、そうだったのか」
活動資金は謎だったが、そうやって稼いでいたのか。
「はい。この宗教団体を利用されてはいかがでしょうか?」
「けど、もう既存の宗教ならもう信仰対象がなにかあるんだろう? それを雪華に変えることなんかできるかなぁ……」
つまり今まで信じていた神様を変えるということだ。
信仰心の厚い人間ほど、抵抗は強そうだが。
「それは恐らく大丈夫かと」
「そうなのか?」
「はい。まず教祖にお会いしていただき、相談していただけますか?」
「そうだな」
宗教団体なら教祖というのもいるだろう。
まずはその人と相談して、それから考えるべきだと思った。
……
それから俺たち4人は諏訪の案内でビルの最上階へ行く。
そしてやって来たのは、大きな扉の前であった。
「趣味の悪い扉じゃ」
「うん」
「なんかカルトっぽいよね」
「まあ……」
アカネちゃんの言う通り、今さらだけどここはカルト宗教臭がすごい。
このビルも信者からふんだくった金で立てたのだろう。
巨乳美女を守るためという崇高な理念があるのでしかたないが、信者を騙して金を集めるという行為にはいささか賛同しかねた。
「教祖はどんな人なんだ?」
「そうですね……。変わった御方、でしょうか」
「変わった、か」
どのように変わっているのか? それはまあ会ってみればわかるだろう。
「教祖様。諏訪です。会長をお連れしました」
……反応が無い。
「いないんじゃないか?」
「いえ、この時間に来ると伝えておいたので……。ああ、たぶん」
と、諏訪は扉を開けて中に入る。
「ああ、やっぱり」
「えっ?」
俺も入って中を見る。
「うん? って、ええっ!?」
地面に金髪の小さな女の子が倒れている。
目は見開いており呼吸もしていない様子で、これはどう見ても死んでいた。