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第247話 雪華との接触にアカネちゃん激怒

「試作品が集めるのは神の行使した力の残滓ではないのです」

「えっ? ど、どういうことだ?」


 じゃあ試作品はなにを集めるというのか?


「研究者は残滓を集める装置を開発したつもりだったのですが、できたものは神が作った創造物から力の一部を集めてしまうものだったのです」

「それは……つまり、まあ失敗作か」


 それでは魔物の発生を抑制するという目的はまったく達成できない。

 千年魔導士が試作品を失敗作と言った意味を俺は理解した。


「けど力を集めるのに不都合はないんでしょ?」


 アカネちゃんの言う通り、力を集めるのに不都合は無さそうだが。


「はい。細かい仕様はあとでお話します。まずは雪華様、起動した装置で力を集めていただけますか? 雪華様の体内に力が溜まると、そこの女のように暴走してしまうかもしれないので、集めた力はそのまま魔王様に譲渡してください」

「うむ」

「俺は魔法で力を吸収すればいいか?」

「魔法での吸収では膨大な力を受け取れ切れません」

「じゃあどうしたらいいんだ?」

「魔王様と雪華様が接触をされればいいのです。濃厚に」

「の、濃厚にっ?」


 濃厚にって……どの程度だろう?


 雪華がなにやら千年魔導士を手招きして耳打ちする。


「セックスなさってください」

「ふぁっ!?」


 そう言われて俺は腰を抜かす。


「しかたないじゃろ小太郎。わしの集めた力を渡すにはそれしかないのじゃ」

「い、いいいやしかしそれはちょっと……」

「さあ、そこの個室へ行って済ませるのじゃ。なに、わしがリードしてやるから、小太郎は服を脱いで横になっておれば……」

「ちょっと待ったーっ!」


 と、俺と雪華のあいだにアカネちゃんが割って入る。


「絶対に嘘でしょっ! さっきなんか言ってたもんっ! 千年魔導士っ! 雪華ちゃんはあんたになんて言ったのっ!」

「集めるにはセックスが必要だと言うようにと」

「あ、コラ、言ってはいかんのじゃ」

「ほらっ! 油断も隙も無いっ! 小太郎も騙されないのっ!」

「い、いや俺も変だなーとはちょっと思ったけど……」


 濃厚に接触なんて言われたし、もしかしたらと思ってしまった。


「まあ実際それくらい強い接触をしたほうが力の譲渡はスムーズですよ」

「ほらの。では行くのじゃ」

「他にも方法はあるんでしょっ!」

「接触をすればいいので、手を繋ぐだけでも譲渡は可能です」

「じゃあ手を繋ぐだけっ! エッチ無しっ!」

「むう……」


 まあスムーズでなくても、手を繋ぐだけにしたほうがいいだろう。

 雪華は不満そうだったが。


「じゃ、じゃあ手を繋ぐだけね」


 俺は雪華へ向かって手を差し出す。


「しかたないのう」


 と、雪華は俺の手を掴み……


「んっ!?」


 グイと強く引いて俺の唇へキスをする。その瞬間、


「ん、んんんんんっ!?」


 身体の中へ膨大な力が流れ込んでくる。


 懐かしい感覚……。

 魔王の力が……俺の中へ戻っていく。


「ちょっとっ!」


 背後から叫んだアカネちゃんが俺を引っ張って雪華から離す。


「なんじゃ、キスくらいいいじゃろう。減るものじゃなし」

「減るのっ!」


 減るかな? いや、それはともかく……。


「千年魔導士、奴の動きを解除しても大丈夫だぞ」

「えっ? けど接触してたのはほとんど一瞬だったよ? 大丈夫なのコタロー?」

「うん。大丈夫」

「では……」


 千年魔導士がセルバスに金の杖を向ける。と、


「……うん? なんだ? なにが起こった?」


 動き出したセルバスは眉をひそめて周囲を見回す。


「なにもない。さあ来い」

「ふん。まあいい。食らえっ!」


 セルバスが右手を突き出す。……しかしなにも起こらない。


「な、なにっ? あたしの空間操作が発動しない……っ?」

「お前は魔王であるイレイアへの忠誠心を失った。つまり信頼関係は完全に崩れたのだ。魔王眷属が使えなくなるのは当然だろう」

「くっ……しかし今はあたしもイレイアと同じ力を持っているのだっ! 奴から力を借りる必要は無いっ! おおおおおっ!!!」


 セルバスの突き出した右手に魔力が溜まっていく。


「ふははははっ! もういいこの世界すべてを吹き飛ばしてゼロに戻してやるっ! そして1からあたしの世界を作り上げるのだーっ!!!」


 狂ったように笑うセルバス。

 その右手には本当に世界を消滅させることができるほどの力が溜まっていた。


「どこへ逃げても無駄だぞっ! すべてを滅ぼすからなっ! さあ……消し飛べぇぇぇっ!!!」


 セルバスがそう叫ぶ。……が、


「な……にっ?」


 右手に溜まっていた魔力の塊。それは俺の右手へと移っていた。


「お前の力は俺がもらった」

「ど、どういうことだっ!? なにをしたっ!」

「なにも。ただ、お前の中にある魔王の力が俺に従っただけだ」

「なにを言っているっ! あたしの力がなぜお前に従うんだっ!?」

「お前の力じゃない。そもそもは神の力だ。神の力には意志があり、同じ力を持っていればより強い者に引き寄せられる」


 力の集合装置はその原理を利用して作られたと聞いた。


 つまり俺のほうが、セルバスよりも多く魔王の力を有しているということだ。


「馬鹿な……そんな馬鹿なこと……っ!」

「これは別の力に変えてお前に返そう」

「べ、別の力だと? うお……」


 俺の右手から離れた魔力の塊がセルバスの身体を飲み込み、そして消滅した。

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