第241話 巨乳美女を守る会
えっ? なに?
ズラリと一斉に跪いている男たちを前に俺は困惑する。
こいつら俺を討伐に来た連中じゃないのか?
なんで跪いているのかさっぱりわからなかった。
「お前たちは俺を討伐に来たんじゃないのか?」
「いいえ違いますっ!」
先頭の男がそう叫ぶ。
「我らはアカツキチャんねるの動画を見てあなたのもとへ馳せ参じました。あなたを我らの仲間へ迎えるために」
「我らの仲間? お前たちは一体……」
「我らはっ!」
と、一斉に男たちは立ち上って両手の拳を胸へと置き、
「世界の平和! 世界の幸福! 世界でもっとも偉大な存在である美しき巨乳の女性を守る! 我らこそ! 巨乳美女を守る会!」
「きょ、巨乳美女を守る会……?」
「大魔王イレイアの横暴によって迫害されている巨乳美女を守るために勇士が集まって結成されたのが我ら! 巨乳美女を守る会!」
「おお……」
「なにそれダサい」
「えっ?」
ダサいと言ったアカネちゃんのほうを見る。
「ダ、ダサいかな?」
「えっ?」
俺と目を合わせたアカネちゃんはきょとんと首を傾げる。
「ダサいじゃん……」
「俺は素敵だと思ったけど……」
巨乳美女を守る会。なんともわかりやすくて素敵なネーミングだ。そして巨乳美女を守るという崇高な理念が素晴らしい。
「巨乳美女を愛するあなたの意志、そして守る強さに感銘を受けました。どうか我らの仲間に……いえ、指導者として我らを導いていただきたいのです!」
「いきなり来てそんなねぇ、コタロー?」
「……お前ら、巨乳美女のために死ねるか?」
「我らは巨乳美女を愛し守るために生まれた存在。巨乳美女のために死ねるかどうかなど、あまりにもな愚問でございます」
「ふふ、素晴らしい。会長として誇らしいぞ」
「もう会長になってるし……」
巨乳美女を愛し守り、崇め奉るという理念を世界へ広めるためにこの会の会員をどんどん増やしていこう。目標は全世界の人間を会員にすることだ。
「こんなわけわかんない会の会長になっちゃっていいの?」
「彼らは信用できる。巨乳美女を愛する人間に悪人はいない」
「そ、そう?」
「その通りです。さあ巨乳美女様に祈りを捧げましょう」
そう言って男たちはアカネちゃんへ向かって手を合わせる。
「ちょ、ちょっとやめてよ。てか、なんでコタローも祈ってるのっ!」
「あ、つい……」
俺もつられてアカネちゃんへ祈りを捧げてしまった。
しかしアカネちゃんは巨乳美女の中でも特に素敵で、神よりも偉大な存在なのでしかたのないことである。
……とりあえず中へ入ってもらい、広い部屋で彼らと向かい合って座る。
「申し遅れました。私は小太郎様が会長に就任する以前まで会の会長を務めておりました、諏訪菊衛門と申します」
「ああ。よろしく。それで、お前らはどんな活動をしているんだ?」
「はい。主な活動は迫害されている巨乳美女の救済です。それと巨乳美女を愛する同志を見つけて仲間に誘っております」
「なるほど」
立派な活動だ。
「しかし機甲警察などの取り締まりにより、活動は厳しいです。巨乳美女を守るという理念を実現するには、やはり根本的な原因を取り除かなければ……」
「大魔王イレイアの討伐か」
「創世の大魔王たるイレイアを討伐するのは困難……いえ、不可能とすら言えることです。しかしそれを可能にする方法を我らは発見しました」
「イレイアを討伐する方法を?」
イレイアは魔王の力を持っている。封印されている力とは言え、普通の人間が今のイレイアを倒すことなどできるはずはないと思うが。
「はい。イレイアが持つ力は神の力の残滓を集合させたものというのはご存じでしょうか?」
「まあ」
「つまり我らにもその力があればイレイアに対抗できるということです」
「力を手に入れる方法があるのか?」
「はい。伝説によりますと、神の力を集合させる装置は2つ存在しております。1つはイレイアの持つ完成品。もうひとつは世界のどこかに封じられているという試作品です」
「その試作品を探し出すということか?」
しかしそれは困難だ。千年魔導士に探させてはいるが、世界中のどこにあるかもわからないものを見つけ出すなど、いつになるかわからない。
「いいえ。我らでその装置を作り出す研究をしているのです」
「つ、作り出す? 力の集合装置をか?」
「はい。しかし研究は滞っております。完成はいつになるか……」
「そうだろうな」
神が使う力の残滓を集合装置させる装置に関しては、今まで多くの研究者が原理を解明しようとしたが、今だどのように作られているのかはわかっていないと聞く。そうそう同じ物を作るということはできないだろう。
「これから我らの本部へ来ていただけないでしょうか? 装置の研究や、我々の活動をあなたに見ていただきたい」
「わかった」
会長となったからには彼らの本部へ行く必要はあるだろう。
「ではさっそく……」
「わしも行くぞ」
と、そこへ子供状態に戻った雪華がやって来てそう言った。