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第24話 鹿田さん、怒る

 鹿田さんは次から次へとあっさり異形種を倒して移動していく。

 俺はアカネを抱えてそれを追った。


「おー☆漆黒の女王がどんどん異形種を倒していくね☆あんまりあっさり過ぎちゃってつまらないかも☆でもブラック級だから当然だね☆」


 実際あっさりだ。

 移動をしながらさっきの黒い手で異形種を飲み込ませていく。


 あれはただ地面に引き摺りこんでいるんじゃない。

 地面に引き摺り込むように見えて、あの手自体が異形種を飲み込んでいるのだ。


 その証拠に引き摺り込まれた穴に異形種の姿は無く、ただぽっかりと大きな穴だけがそこへ残っていた。


 まるでブラックホールだ。


 あれは装備によるスキルなのか?

 上級クラスは装備に依らないスキルを使う者もいる。詳しくは知らないが、なんでもダンジョンの深層で魔物狩りをしていると、いつの間にか強力なスキルが身に着くと聞いた。

 鹿田さんの使うあの黒い手がそれかはわからないが、装備だけであのような強力なスキルを誰でも使えたら怖いと思った。


 鹿田さんは黒い手で異形種を倒していき、やがて移動を止める。


「お、止まったね☆終わったのかなー☆」

「うん……いや、まだだっ!」


 翼を羽ばたかせた翼竜のような異形種が上空から鹿田さんを襲う。

 魔法を発動させた俺は右手から火球を飛ばしてその翼竜を焼き払った。


「はあ……」


 咄嗟に助けたけど、鹿田さんはブラック級だ。

 あれくらい余裕で対処できただろう。余計なことをしたかもしれない。


 鹿田さんはこちらをチラと見る。


 冷徹な表情だ。

 見られただけで心臓を握られたような気になった。


 こちらへ来るかな?


 そう思ったが、鹿田さんは俺から視線を外してそのまま行ってしまう。


 もしもこっちへ来たら少し怖かった。

 行ってくれて俺はホッとしていた。


「あ、さっきので終わりみたいだね☆はーいじゃあ今日の配信は終わりでーす☆次の配信も楽しみにしててねー☆チャンネル登録と高評価よろしく☆」

「よ、よろしくー」


 そこで配信は終わったようだ。


「終わった?」

「うん。なかなか同接よかったよ」

「それはよかった。じゃあ帰ろうか」


 アカネを抱いてビルの下へ降りようとする。と、


「待て」


 背後から声が。

 振り返ると、そこには漆黒の女王こと鹿田さんが立っていた。


「あ……」


 戻って来たのか。


 ひどく冷たい目で俺たちを見ている。

 怒っているのか? だとしたら、俺がさっき余計な手出しをしたからだろうか?


「貴様、われを助けたつもりか?」


 我って……どういう一人称だよ。やっぱり中二病か? いい歳して。


 などと心の中で思うも、表情には微塵も出さないように努める。


「咄嗟に身体が動いてしまっただけです。余計なことをしたなら謝りますよ」

「ふん。この偉大なる漆黒の女王ディアー・ナーシングの殲滅劇に横やりを入れておいて、その程度の謝罪で許されると思うか?」

「ディアー・ナーシングさん……いえ、鹿田さんですよね?」

「だ、黙れっ! それはその……戸籍上の名前だ。我の真名はディアー・ナーシング。漆黒を統べる偉大な女王なるぞ。鹿田なんて庶民的な名で呼ぶでない」

「は、はあ……」


 これは本当に痛い人なのかもしれない。


「なに言ってんの? あなた鹿田でしょ? なに真名って? 中二病?」

「ア、アカツキちゃん……」


 俺が気を使って言わなかったことを全部言ってくれちゃってこの子は本当に、物怖じしないと言うか正直と言うか……。


「ちゅ、中二病では……いや、中二病などという言葉は知らん。我の名はディアー・ナーシング。それ以外の名は持たん」

「さっき鹿田は戸籍上の名前って認めてたじゃん」

「う、うるさい黙れ不遜な女めっ! 偉大なる漆黒の女王ディアー・ナーシングが命じるっ! 我の殲滅劇に横やりを入れた貴様と我を誹謗中傷したその女は素顔を晒して我に謝れっ! 謝れーっ!」

「ちょ、ちょっとキャラ崩れてますよ?」

「キャラとかじゃないしっ! 素だからっ! 漆黒の女王ディアー・ナーシングが素だからわたしっ! キャラとか作ってないからっ!」


 もう完全に鹿田さんである。一人称が我からわたしになってるし。


「もーっ! 早く謝ってよーっ! 謝ったら帰るからっ!」

「謝るのはいいですけど、顔を晒すのはちょっと……」

「うるさーいっ! 女王の命令に背くなーっ! 無理やりにでも素顔を晒させて謝らせてやるーっ!」

「うわっ!?」


 不意に地面から伸びてきた黒い手が俺の白面を掴む。

 その手によって仮面は剥ぎ取られ、俺の顔が鹿田さんへと晒された。


「わ、ちょ、返してくださいよっ!」

「ふふん。謝ったら返して……えっ?」


 仮面を取った黒い手を追う俺の顔をまじまじと見つめて鹿田さんは黙り込む。

 そして目の前まで寄って来てじーっと俺を見上げた。

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