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第235話 意外にもちゃんと授業する白面先生

 そして生徒たちとともに昨日の闘技場へとやって来る。


「それじゃーまずは白面先生にお手本を見せてもらおー☆」

「手本? うん」


 と、俺は右手の平に炎を出す。


「おおっ!?」


 それだけで生徒たちはどよめく。


「驚くことでもないだろう? 炎を出すくらいできるんじゃないか?」


 火炎系の魔法は初歩だ。威力は別として、火を出すだけなら子供でもできる。


「そ、それはそうですけど、呪文の詠唱が無かったので……」

「ああ」


 魔王の力そのものを使っている俺とは違って、彼ら生徒は魔王の力を借りて魔法を使っている。借りる場合は呪文の詠唱が必要なので、無詠唱は不思議なのだろう。


「無詠唱で魔法を放つことは君たちができることじゃないから教えられないけど、魔法の操り方は教えられるかな」

「操り方ですか?」

「うん」


 呪文はわからないし、借りる場合の威力の高めかたも知らない。教えられるとしたら魔法の操りかたくらいだろう。


「こんな感じに」

「おおっ」


 炎を剣の形にする。


「まず魔王の力を強く信じろ。それから頭の中で炎を剣の形に変えるイメージをするんだ。ハッキリとな。やってみろ」


 俺がそう言うと生徒たちは呪文を唱えて手に炎を現し、それを剣の形に変えようとする。……しかし誰も剣に変えることはできていなかった。


「……ふむ」


 なんとなく女子のほうが剣に近い形に炎を変化させているように見えるが、俺からすれば大差はなかった。


「せ、先生できません」

「うん。まあ、言うほど簡単じゃないからな」


 剣のイメージはそんなに難しくはない。

 問題なのは魔王の力を信じるという部分だ。


「君たちは魔王の力を信じ切れていない。君たちの使う魔法がイレイアから力を借りるものなら、奴に対して強い信頼を持たなければならない」

「イ、イレイア様のことは信頼していますよっ」


 生徒たちは口々にそう言うが、


「君たちはイレイアを信頼しているんじゃない。イレイアの持つ強い力に畏怖して従っているだけだ。違うか?」

「……」


 彼らはきっとイレイアに会ったことすらないだろう。大魔王イレイアという強大な存在を恐れ敬っているだけで、そこに信頼は無いと俺は考えた。


「恐怖は信頼から遠い感情だ。イレイアから力を借りて魔法を使っている限り、君たちはそれほど強い魔法使いにはなれないだろう」

「先生が優れた魔法使いなのはイレイア様を強く信頼しているということですか?」

「いや、俺の魔法は俺自身の中にある魔王の力を使っているからイレイアから力を借りる必要は無い」

「ま、魔王の力を……?」


 そんな馬鹿なと生徒たちの中から聞こえてくる。


 この世界で魔王の力を持っているのはイレイアのみと信じているはずだ。

 俺が同じように魔王の力を持っていると聞いても信じられないのは当然か。


「疑うなら俺から力を借りて魔法を行使してみればいい。難しくはない。魔法を使う際、イレイアではなく俺に力を借りるイメージをすればいいだけだ」

「……」


 しかし誰もやろうとはいない。


 今までイレイアから力を借りていたものを、昨日今日会ったどこの誰とも知れない人間に借りる対象を変えろと言われても難しいか。


「じゃあ彼女に手本を見せてもらうか」


 と、俺はアカネちゃんに目を向ける。


「わたし? けどわたし魔法なんて使えないよ?」

「そ、それはそうよっ!」


 クラスの女子が叫ぶ。


「イレイア様はあなたのような下賤な外見の女には力をお貸しにならないわっ!」

「そうだよっ! お前みたいな女に魔法を使えるはずがないっ! 使うことは許されないっ! これは大魔王イレイア様の意向であり、世界のルールなんだからっ!」


 最初の女子に続けとばかりに、他の女子も声を上げる。


「お、おいやめとけよ」

「仮面に殺されるぞ?」

「はあ? あんたらなんでイレイア様の崇高な考えを否定されて平気なの? 大魔王イレイア様を敬うのは全人類共通の義務でしょっ!」

「そ、それは……」


 男子は女子ほどイレイアへの思い入れは強くないらしい。なるほど。女子のほうがやや魔法をうまく扱えるように見えたのはそれが理由か。


「じゃあ彼女が魔法を使えないかどうか、それを確かめさせてやろう」

「そんなの無理っ! 絶対に使えるはずなんてないからっ!」

「さてそれはどうかな」


 俺はアカネちゃんに目配せする。


「本当にわたしも魔法が使えるの?」

「アカネちゃんには魔王眷属の力が宿っているから、それを応用すれば魔法は使えるよ」


 魔王眷属は俺との固い信頼関係から生まれる力だ。身体の中には俺の力が宿っており、それを応用すれば魔法は使える。


「呪文とか必要?」

「いや、アカネちゃんの身体の中には魔王眷属という形で俺の力を貸し与えて存在しているから、呪文を唱えて力を借りる必要は無いよ。手に炎が現れるイメージを頭ですればいい」

「ふーん。……こう? わっ!?」


 アカネちゃんの手に炎が現れる。

 その炎は激しく、生徒が現した炎のどれよりも強かった。


「そ、そんな……馬鹿なこと……」


 絶句する女子たち。


 信じていた事実を打ち砕かれたのだからこの反応は当然か。


「魔法の使用には借りる相手への信頼も重要だが、借りる相手から信頼されることも大切だ。彼女は俺に強い信頼を寄せている。だからこれほどの魔法が使えるのだ」

「ありえない……。こんなこと……」

「イレイア様があんな下賤な女に力を? そんな……」

「いや、仮面が言ってただろ? 自分にもイレイア様と同じ魔王の力身体の中にあるって。それが本当なのかも……」


 生徒たちは困惑している様子だが、目の前で起きていることは現実だ。受け入れてもらうしかない。


「彼女の力はイレイアから借りたものじゃない。俺の力だ。俺を信頼して、俺から信頼を受ければ彼女ほどの力が使えるようになる」

「先生と信頼関係を持つということですか?」

「そうだ。まずは俺を信頼すればいい。俺から信頼もされれば、より強い力を使えるようになる」

「そ、そうなのか……」

「身近にいる先生のほうがイレイア様とより信頼関係を持ちやすいかな……」


 男子たちは俺との信頼関係に興味を持ったようだが、


「イレイア様を裏切る気っ!?」

「そんなの絶対に許されないからっ!」


 女子たちは俺から力を借りて魔法を行使することに反感を持っているようだった。


 魔王をやっていたときからこうだ。

 なぜか俺は女性からの人気が極端に無い。なぜだ? こんなにも巨乳美女を愛しているというのに……?


「た、大変だ大変だっ!」


 と、そこへ学園長が闘技場へ駆け込んで来る。


「どうしました?」

「た、大陸魔王様が……」

「大陸魔王?」


 なんだ大陸魔王って?


「大陸魔王様のひとりである弐孤比佐女様が魔法省の大臣とともに学園に来られて、あなたに会わせろと……あっ」

「むっ」


 学園町の背後から2人の人間が歩いて来る。


 ひとりはスーツを着た中年男性。

 もうひとりは真っ白いスーツを着た痩せ型の女だった。

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