第233話 大陸魔王、弐孤比佐女(校長視点)
闘技場から逃げ出た校長は自分の車に飛び乗り発車させる。それから運転をしつつ、ある人へと電話をかけた。
「あ、私です。ミュンヘルの校長をやっている……」
「ああ。これはどうもおひさしぶりですね。今日はどうされましたか?」
電話から聞こえる穏やかな声音に校長は気持ちを落ち着ける。
「ええ。実はお話したいことがありまして。急で申し訳ありませんが、これからお時間を取っていただいても構いませんでしょうか?」
「これからですか? 今日は大切な来客がありまして、そのあとでよろしければ構いませんが」
「ではお願いいたします。はい、はい。ではその時間にお伺いいたします。では」
通話を切り、校長は一息つく。
「あの仮面野郎……このままにしてはおきませんからね」
生徒たちの前で大恥をかかされた。
なんとかして復讐をしないと気持ちに収まりがつかない。
「しかしあいつの強さは一体なんなんでしょうね?」
級無しがあれほどの魔法を使えるとは思えない。
なにか秘密があるはず。
それを暴けばこのような無様はもうないだろう。
「ともかくあの御方に相談だ。奴を潰すのに力を貸してもらわなければ」
校長は適当に時間を潰し、約束の時間に目的地へと向かった。
……目的地。そこは魔法を管理する国の省庁である魔法省であった。
校長は魔法省の職員に案内をされ、目的の人物がいる部屋へと向かう。
やがて部屋へと着くが……。
「申し訳ありません。ご来客の方とのお話が長くなっておりますので、もうしばらくお待ちください」
「そ、そうですか」
しかたないと、部屋の外で待っていると、
「ああ、構いませんよ。入っていただいても」
中からそう聞こえ、開かれた扉を通って校長は部屋の中へ入る。
「やあどうも」
「すいません。急にお時間を取っていただいて……」
ソファーに座って来客の相手をしているこの男性。彼は魔法省の大臣であり、自身もS級の魔法使いである島倉大作だ。そしてその向かいに座っている来客は……。
「あ、あの、こちらの方はもしや……」
「ええ。あなたのことをお話したらぜひお会いしたいとおっしゃるので」
会ったことはない。しかしテレビなどで顔は知っていた。
真っ白いスーツにスレンダーな肉体の女性。ベリーショートの短い髪形の下に見える美しいが迫力のある表情は間違いなかった。
「ま、ままま魔王軍の幹部、ウォールスリーのひとりであらせられる弐孤比佐女様っ!」
そうだと知った校長は自然と最敬礼で頭を下げる。
大魔王イレイア様から大陸の守護を任された大陸魔王と呼ばれる3人。それがウォールスリーであり、弐孤比佐女はこの国を含めた大陸の管理を任された大陸魔王である。
「ま、まさかお会いできるとは光栄でございますっ!」
「いや、ミュンヘルは有名な学園だ。そこの学園長か校長とは一度話したいと思っていたんだよ」
「きょ、恐縮でございますっ!」
「そんなところに立っていないで、さあどうぞお座りください」
「は、はい。では失礼して……」
校長は島倉の隣に腰を下ろす。
「それで、電話でおっしゃっていた話とは?」
「あ、はい。実は……」
学園であったことを校長は話す。
「ほう」
話を終えて先に声を発したのは弐孤のほうだった。
「S級を簡単に倒すとは、そいつ何者だ?」
「それが何者かはさっぱりで。仮面を被っていることと、迫害対象の女を連れて動画配信をしていることくらいしか……」
「気に入らないな」
弐孤は綺麗な表情を歪めてそう言う。
「級無しのそいつがS級のお前を倒したのは不可解だが、そのことは構わない。しかし大魔王イレイア様に逆らう所業は気に入らないな」
「で、では……?」
「S級を簡単に倒すような奴が相手じゃ、警察や軍隊を送っても意味がない。あたしが直接行ってその仮面男を叩き潰してやろうじゃないか」
「おおっ!」
大陸魔王の強さはS級の比ではない。大魔王イレイア様の眷属として強大な力を授けられており、その強さはひとりで世界中の魔法使いを圧倒できるという……。
「ぜ、ぜひお願いいたしますっ! あの仮面男を……」
「それよりもお前、大魔王イレイア様の意向に逆らう者に負けて逃げたのか?」
「えっ? い、いやそれはその、私では勝てな……がああっ!!?」
背後から真っ黒い何者か……いや、ナニカに全身を覆われる。
「イレイア様に逆らう者はすべて悪だ。その悪から逃げる者も悪。悪には制裁が必要だ。死という制裁がな」
「が、はあぁ……」
その場に倒れ伏す校長。薄れゆく意識の中、弐孤の冷徹な表情を最後に見上げて息を引き取った。




