第230話 校長の前に前哨戦
準備をすると言われてしばらく待たされ、やがて校長室を出て連れて来られたのは闘技場みたいな場所だ。
タイガー:うおーミュンヘルの校長と戦うってマジかー
そらー:殺されるだろ
おやつ:S級はひとりで山を吹っ飛ばせるレベルやで。無理無理勝てない
マンダ:そもそもなんだこの仮面男? アカツキちゃんの知り合いらしいけど、校長の言った通り身の程知らずだな
ランラン:白面(見たまんま)
……S級魔法使いが強いってのは常識らしい。
コメント欄では無謀な戦いみたいに言われているが、S級とははたしてどんなものか多少の興味はあった。
「なんか人がたくさんいるな」
闘技場の観客席には生徒らしき大勢の少年少女たちがいた。
「授業の一環として生徒たちに見てもらおうとおもいましてね。上級魔法使いに弱者が逆らったらどうなるか? それを知れる良い機会でしょう?」
「まったくだ」
学校中の生徒が集まっているのだろう。観客席は空きが無いほどにいっぱいだった。
「なんだあの仮面男?」
「校長ってS級だろ? 戦うってあいつ馬鹿じゃね?」
「どうせ一瞬で終わりなんだし、授業中断してまで見せるものかよ」
「てか一緒にいる女の子かわいいなぁ……」
「はあ? あんな見た目なのに姿を隠さないとか非常識でしょっ!」
生徒たちも俺が勝てるとは考えていないらしい。それよりも、アカネちゃんを見てかわいいという声が多いのは気になる。迫害をされているとは言え、巨乳美女の良さを理解できないというわけではないようだ。
「さあ、では始めましょうか。すぐに終わってはおもしろくないので、3秒は持ちこたえてくださいね。ほほほほっ」
「3秒もかからん」
と、俺は首を押さえつつ、欠伸をする。
「おーっと校長のほうは自信満々だね☆白面さんのほうはちょっと自信なさげ? けど相手はS級だもんね☆勝てなくて当然☆これは大ピーンチ☆ ……ちょっとは盛り上げてね。簡単に終わっちゃおもしろくないから」
「おっけ」
背後からの呟きに俺は親指を立てて返す。
「コソコソと逃げ出す相談ですか? まあ自らの愚かさを認めて土下座でもするなら、この無謀な戦いから逃がしてあげてもいいですけど?」
「そうすべきはあんただと思うけどな」
「冗談はそのヘンテコな仮面だけにしていただきたいですね。この場での愚か者はあなた。私は愚か者に正義を教えてやる賢者ですよ」
「どちらが賢者でどちらが愚者かはすぐにわかる」
一瞬……いや一瞬で終わらせてはアカネちゃんに怒られる。
がんばって手加減しないと……。
「お待ちください」
「うん?」
闘技場へ誰か生徒が降りてくる。
「おや君は生徒会長の志田君? どうしましたか?」
「校長が戦うまでもありません。このような不届き者の排除は私にお任せください」
「ふむ……。確かにこんなどこの誰とも知れない馬の骨など私が戦うまでもないですね。いいでしょう。志田君が倒してしまいなさい」
「はいっ!」
と、威勢良く返事をした男子生徒が俺の前へ立つ。
「志田君はまだ学生でありながらC級に到達した魔法使いです。無級の無能であるあなたの相手ならばC級で十分でしょう」
「まあどっちでも俺にとっては変わらないけどな」
「それはそうでしょう。無級のあなたではS級とC級は強過ぎて違いすら理解できない。当然のことです」
「ふ、無級で校長に戦いを挑むとは。炎上目的かなにかは知りませんが、単なる動画配信には度が過ぎたお遊びですね。無級が相手でも手加減はしません。後悔させてあげますよ」
「わかったわかった。さ、始めようか」
無謀やら逃げたほうがいいというコメントで溢れる動画。
俺がすぐに負けると確信して白けている生徒たち。
そんなのはどうだっていい。
ただ俺は巨乳美女という素晴らしい存在を迫害するこの学校が……この世界が許せないだけだった。
「一瞬で終わらせてあげますよっ! 世界を統べる偉大な魔の力よ、炎に変わりて我の頭上に現れ吹き荒れよ……」
「おお、いきなりフレイムストームかよ」
「生徒会長マジだな。あの仮面の奴、死ぬんじゃね?」
「自業自得でしょ」
生徒会長志田君の頭上に吹き荒れえる炎の嵐が現れる。
「食らえっ! フレイムストームっ!」
そして炎の嵐は俺へと襲い掛かる……が、
「ふっ」
パチン。
俺は指を鳴らす。と、炎の嵐は一瞬で消え去った。
「え……」
なにが起こったのか? 志田君はそんな表情で呆然と立ち尽くしていた。
別に食らってもダメージは無い。その程度の魔法だ。
消したのは服が燃えてしまうからであり、ダメージを恐れてではない。
「えっ? な、なんで……? なにが……?」
「見ての通りだよ。君の魔法を消した」
「魔法を消した? そ、そんなことできるはずはないっ! 魔法とは魔王様のお力を借りて行使するものだっ! 魔王様の力を消し去るなど、できるとしたら魔王様ご本人だけだっ!」
「そうだな」
同じ魔法をぶつけて打ち消すことは魔法使いならできるだろう。しかしただ消してしまうことは力の持ち主である魔王にしかできない。
「なにかの間違いだっ! 世界を統べる……」
志田君は呪文を唱えていろんな魔法を連発してくる。
しかしすべて消滅した。
「はあ……はあ……ど、どうして……?」
「たいした腕だ。がんばれば良い魔法使いになれるよ」
「ば、馬鹿にして……っ」
「そんなつもりはないよ」
「あ……う」
一瞬だけ呻いて志田君は倒れる。
魔力で圧をかけて意識を断ってやっただけだ。
そのうち目覚めるだろう。




