第228話 極道な社長
間違い無くアカネちゃんだ。けど俺のことは忘れて……。
「コタローこれどういうこと?」
「えっ?」
あれ? 俺のことを覚えている? 前の世界が吸収されたことによる改変で記憶は別のものになっているはずだが……。
「俺のこと覚えてるの?」
「当たり前じゃん。なに言ってるの?」
「あれ? 千年魔導士、これはどうなってるんだ?」
「はて……?」
千年魔導士も首を傾げる。
「なに? どういうことなの?」
「あ、えーと……」
とりあえず俺はアカネちゃんになにが起こったのかを説明する。
「……ふーん。なんかややこしいけど、ともかくすごいことが起こってるんだね」
「まあ……。けどなんでアカネちゃんの記憶はそのまま残っているんだろう?」
「たぶん魔王眷属の力じゃない?」
「魔王眷属? けど、千年魔導士によると俺は魔王の力そのものを持ってるから、世界が吸収されたことによる記憶の改変は受けなかったけど、魔王眷属は力を貸し与えられているだけだから俺と同じようにはならないって話だったけど?」
「わたしの能力は相手の攻撃を自動で無力化して、攻撃してきた相手自体も無力化するものだから、その効果じゃないかな?」
「ああ」
記憶の改変が攻撃と判定されればそうなるか……。
「ということは、アカネちゃんの能力を受けてイレイアが消滅していたり……?」
「魔王眷属の力が魔王の力本体の攻撃に対して効果を発揮するとは思ませんが……」
「けどじゃあどうしてアカネちゃんの記憶は……」
「きゅー」
「あ、コタツ」
テーブルの下からコタツが出て来て俺の脚に頬を擦りつけてくる。
「お前、アカネちゃんと一緒だったのか」
「うん。なんか一緒にいたよ」
アカネちゃんの能力はコタツが譲渡したものと聞いた。
その繋がりで世界吸収後も側にいたのだろうか。
「コタツ様の無効化能力がアカネ様の記憶を守ったのではないでしょうか?」
「そういうことか」
コタツの無効化はコタツ自身の能力だ。
魔王からの攻撃にも効果を発揮するため、自らとアカネちゃんの記憶を守ることができたのだろう。
「それで、世界がこんなことになっちゃったけどこれからどうする?」
「うん。とりあえずは無未ちゃんと雪華を探して、記憶を戻してやろうと思ってるけど。必要そうならシェンも」
戸塚は……別にいいか。
「それはしなくてもいいんじゃない?」
「えっ?」
立ち上がったアカネちゃんは俺へと抱きつく。
「ア、アカネちゃん?」
「2人の記憶が戻ったら、またコタローの取り合いになっちゃうし」
「そ、それは……」
そうなるかも。
「だったらこのままでいいじゃん。コタローはわたしを選んだんだし、記憶が戻っても2人は不幸なだけだよ。だったら記憶は戻らないほうがいいと思う」
「う、ううん……」
アカネちゃんの言うことはわかる。しかし本当にそれでいいのか? すぐに答えは出せそうにない。
「けど、世界はこのままでいいの? もしかしたら元に戻せるかもしれないけど」
「わたしはコタローがいればどこだっていいよ。コタローもそうでしょ?」
「う、うん」
アカネちゃんが目を瞑る。
なにを求めているか察した俺は彼女の唇へキスを……。
「アカネっ!」
「うわあっ!?」
唇同士が触れ合いそうになったそのとき、大声を上げて何者かが部屋へと入って来る。その何者かを見た瞬間、俺は目を見開いた。
「しゃ、社長っ!」
社長……アカネちゃんのパパだ。
もともと強面のヤクザ面だったが、なんかますます怖い雰囲気のある感じになっていた。
「社長? 誰が社長だ? いや、というかなんだお前はっ!? うちの娘になにしてやがるっ!」
「い、いやあの俺は……いや私は……」
「答えによっちゃこの場で……」
「この人はわたしの恋人」
「な、なんだとっ!?」
それをアカネちゃんから聞いた社長の顔が鬼のようになっていく。
「てめえうちの大事な娘をたぶらかしやがって……」
「いや、たぶらかしただなんてそんな人聞きの悪い……うおおっ!?」
懐から長めのナイフを取り出した社長は俺へ向かって振り下ろす。俺はそれを慌てて白刃取りで受け止めた。
「や、やるじゃねぇか」
「きょ、恐縮です」
銃が出てきたり刃物が出てきたりなんなんだ一体?
なんかさっきのおっさんも社長も異様にガラが悪いし、まるでヤクザ……。
「いいかげんにしてパパっ! わたしこの人と結婚するんだからっ!」
「け、結婚? だってお前、こんなおっさんと……」
「おっさんですいません……」
まあこんな普通のおっさんと最高にかわいい巨乳美女の娘が結婚なんて話を聞かされたら、父親としては反対して当然だろう。
「と、とにかく俺はお前らの関係に反対……」
「――あなたぁ」
「ひっ!?」
社長の背後へ何者かが近づき肩を掴む。
「か、楓……さん?」
時代劇に出てくる花魁みたいな恰好をした妖艶な雰囲気の楓さんが現れ、がっちりと社長の肩を掴んでいた。
「お、お前、昼寝をしていたんじゃあ……」
「あなたの匂いがしたから目が覚めちゃった。うふ、じゃあ始めましょうか?」
「い、いやちょっと待て。アカネがな、こんなどこの誰ともわからないおっさんと結婚したいと言うから少し説教をしてやろうと……」
「あら?」
と、楓さんが俺を見る。
「いいじゃない。あなただってアカネとそう変わらないころのわたしを抱いたんだから」
「それとこれとは……」
「いいから来なさい。アカネ、あとで彼氏さん紹介してね」
「わかった」
「いやまだ話は……」
「話はベッドの上でたっぷり聞いてあげる」
首根っこを掴まれて社長はずるずると引きづられて連れて行かれる。
世界は変わっても社長と楓さんの力関係は変わらないようだ。
「なんかパパ、ヤクザの親分になってるんだよね」
「そ、そうなんだ」
拳銃が出てきたりナイフ……いや、ドスが出てきたりで途中からそうではないかと察していたが……。
「あの顔だし、もしかしたらこっちが本来の姿なのかもね」
「ははは……」
父親がヤクザになってもアカネちゃんは気にしていないようだ。
「まあヤクザなおかげでちょっと大変なことになってるみたいなんだけど」
「大変なことって?」
ヤクザだし他の組と揉め事とかそんなことだろうか?
「うん。なんかわたしのことでミュンヘル魔法学校ってとこともめちゃってね。場合によっては戦争を仕掛けるとか息巻いてんの」
「魔法学校? 戦争?」
なんか想像とは少し違う方向に揉め事が起こっているらしい。




