第227話 危険な雰囲気の屋敷にアカネちゃん
状況を呆然とした表情で眺めている父さんたちのほうへ俺は振り向く。
「お、お前、いつの間に魔法を……?」
「まあいろいろあってね。それよりも俺はしばらく家を留守にするよ」
「えっ? どこへ行くんだ?」
「世界を救いにさ」
巨乳美女たちを救う。それはまさに世界を救うことと同じだった。
まずは最愛の巨乳美女であるアカネちゃんを救いに行かなければ。アカネちゃんは神巨乳美女だ。こんな世界ではきっと苦労しているに違いない。
早く側に行ってあげなければ。
しかし記憶は失っているだろう。記憶を戻すことはできるが、会って「誰?」とか言われたら辛い……。
「魔王様、こいつらはどうしますか?」
と、千年魔導士が気を失っている機甲警察の連中を指差す。
「転移ゲートで帰してしまおう」
俺は転移魔法を放って機甲警察3人と装甲車を移動させる。これで装甲車は消えて無くなり、3人は全裸で自宅に帰った。
「けどまたここに機甲警察が来るかもな」
父さんたちを守るものを置いて行くかと、俺は魔法でガーディアンを10体ほど作り出す。これは命令して対象を守らせる魔法生物だ。さっきの奴ら程度からなら、こいつらで十分に守れるだろう。
「父さんと兄さんと千影さんを守れ」
そう命令するとガーディアンは起動を始めて家の周囲に配置しだした。
「こいつらの側にいれば安全だから」
「あ、ああ。小太郎、お前、本当に小太郎か?」
「……小太郎だよ。けど、父さんたちが知っている小太朗はもういないよ」
そう言って俺は転移ゲートを開き、千年魔導士を連れて移動した。
……移動した先は和風な大豪邸の門前だった。
「こ、ここにアカネちゃんが?」
いきなり目の前に現れたら驚かしてしまうと思って、離れた位置にゲートを開いたが、まさかこんな大豪邸の前に出るとは……。
「江戸時代の上様でも住んでそうな家だなぁ」
元のアカネちゃんちよりでかい。
さらに金持ちとなっているとは、予想外であった。
「インターホンとかどこにあるんだろ?」
「転移ゲートで入ればいいのでは?」
「それは不法侵入じゃん?」
「警官を殺しているのに、今さらそんなこと気になりますか?」
「巨乳美女の敵はゴキブリ以下だからあれはいいの」
巨乳美女の敵を始末するのは正義である。
「ああ、インターホンあった」
インターホンを見つけて押そうとする。と、
「なんじゃてめえはっ!!」
「きゃあっ!」
不意に門から出てきた強面のおっさんに怒鳴られた俺は悲鳴を上げる。
「さっきから門の前をうろうろしよってからにっ! うちになんの用じゃっ!」
「さっきからって……あ」
周囲を探ってみると、門の上にカメラが見えた。
あれで門前を監視していたのだろう。
「あ、あの、俺はアカネさんに用があって……」
「お嬢に? てめえもしかしてミュンヘルから来た鉄砲玉かぁっ!」
「て、鉄砲玉っ?」
なにを言ってるんだ一体?
「おんどりゃ返り討ちじゃあっ!」
そう叫んだ男は懐から拳銃を取り出して発砲する。
飛んできた弾丸を掴んだ俺は、それを地面に捨てた。
「えっ? あれ? な、なんで生きてるんじゃい?」
「俺はそのミュンヘルってのとは無関係ですよ。アカネさん……お嬢さんの友人です」
てかこのおっさん誰? なんで拳銃なんか持ってるんだ?
「そ、そんなこと信じ……」
「入ってもらって」
「え……」
インターホンからそう声が聞こえておっさんは固まる。
「聞こえなかった? 入ってもらって」
「こ、この声は……」
アカネちゃんだ。間違いない。
「し、しかしお嬢。おやっさんの留守中にこんなどこの誰かもわからない男を屋敷に入れたとあっちゃあ……」
「パパにはわたしが話すから早く入ってもらって」
「は、はい」
最初の勢いを失ってすっかり意気消沈した様子のおっさんに案内されて、俺たちは門を通って屋敷へと入る。
それから部屋の前へと連れて来られた。
「お、お嬢、連れて来やした」
「うん。じゃああんたは戻っていいよ」
襖の奥から声が聞こえる。
やっぱりこれはアカネちゃんの声だ。
しかしどうして俺を中に入れてくれたんだ? 記憶は失っているはずだが……。
「け、けど、お嬢。こんな連中とお嬢だけにしてもしものことがあったら……」
「いいから。あんたは早く戻んなさい」
「は、はい……」
俺を睨みつつ、おっさんは廊下を歩き去って行く。
「入って」
「う、うん」
襖を開けて中に入る。と、そこには俺の知っているアカネちゃんがおり、座布団に座ってこちらを見ていた。




