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第223話 魔王の力が及ぼした影響

「それはわしも知りたいのう」


 以前に雪華が言っていたことだ。

 俺が戻って来たことでこの世界は本来とは別の世界になってしまったかもしれない。それは雪華の推測でしかたなかった話だが、どうやら間違いでは無かったようだ。


「多大な影響って、ダンジョンのことか?」

「はい。あれはこの世界と向こうの世界を繋ぐ穴です。それが発生してしまった原因は魔王様が力の残滓を持ってこちらへ戻って来たことが理由です。私は魔王様にお伝えしたと思います。力を持ったまま帰れば、帰った世界へなにかしらの影響を及ぼしてしまうかもと」


 だから俺は魔王の力を、俺の身体に受け入れる前の状態に封印して帰ったわけだが、まさか身体に残滓があって、それがここまで大きな影響を及ぼしてしまうとは想像できなかった。


「でもコタローが戻って来たのって数年前だよね? ダンジョンは昔からあるんだし、それっておかしくない?」

「魔王の力は残滓であっても膨大です。その膨大な力が流入したことにより、この世界の時空に影響を及ぼして過去現在未来を変えてしまいました」

「なるほど……」


 ずっと疑問に思っていたことの答えが聞けて心のモヤが晴れる。


 すべては俺がこちらへ戻って来たことが原因。今まで携わってきた事件も、そもそも俺が戻らなければ起きなかったこと。それを考えると複雑な心境だった。


「なぜ影響はダンジョンという形で現れたのじゃ?」

「魔王の力は本来、別世界へ持ち出すことは不可能なのです。それを無理やり持ち出したので、2つの世界が強制的に繋がるという形であの穴が発生しました」

「中に魔物がいる理由はなんじゃ?」

「あの穴は向こうの世界にある魔王の力と魔王様の中にある力の残滓を繋いでいるものです。その繋ぐ力から零れ落ちた魔力が魔物という形で具現化しているのです」

「なぜ魔力が魔物になるのじゃ?」

「魔王の力とは神が生命を作り出すときに行使する膨大な力の残滓を、かつて存在した研究者が発明した装置によって集合させたものです」

「神の使った力の残滓を集合とは……にわかに信じ難い話じゃが、その研究者は自分が魔王になるつもりでそんな装置を作ったのかの?」

「いえ、残滓となった神の力は淀んでおり、放置することで魔物を生み出してしまいました。魔物の発生を抑制するために作られたのが力を集合させる装置です」


 しかしその装置も完璧ではなく、異世界には魔物が多く見られた。


「集合から零れ落ちれば歪な生物を作り出してしまいます。あの穴は魔王様自身の影響も受けているせいか、向こうの世界にいる魔物とは外見が異なるようですが」

「俺の影響……」


 つまり俺の考える魔物が具現化しているということだろうか? 確かになんかゲームに出てくるような魔物がダンジョンには多かったような気がする。


「なるほどのう。つまり魔物を倒したときに発生する魔粒子とは魔王の力。それを吸収して小太朗の力が増えたのは道理じゃのう」

「あ、あの、わたしたちが魔粒子を身体に取り込んでスキルを発現するのってどういうことなの? わたしみたいに力を発現する人もいれば魔物になっちゃう人もいるけど……」


 無未ちゃんの疑問は俺も気になっていたことだった。


「向こうの世界では、魔王の力を借りて魔法を行使することが一般的です。しかしこちらの世界で生まれた人間の身体には魔王の力を受け入れて、それを力として行使できる魔力回路が存在しません。なので魔王の力を身体に取り込めば身体が力に飲まれて魔物となってしまうのです」

「じゃあスキルを使えるようになる人は……?」

「向こうの世界からこちらの世界へ生まれ変わった人間の魂には、魔力回路の記憶が刻まれています。身体に魔王の力を取り込むことでその記憶が身体に魔力回路を再現して、力を行使できるようになるのでしょう。しかし特殊な方法で身体に構築された魔力回路なので、行使できる力も特殊なものになってしまうようです」

「そ、そうなんだ」


 不思議だった自分の力に安心したような、そんな表情で無未ちゃんは納得の言葉を口にしていた。


 千年魔導士のおかげで疑問だったことがいろいろと判明した。しかしまだ疑問はある。


「異世界からこの世界へ来たメルモダーガのことは知っているか?」

「存じております」

「ゼノッカの地下牢獄から奴を脱獄させたのはある女だ。人間を魔人にする力もその女にもらったらしい。その女って、まさかお前じゃないだろうな?」


 千年魔導士は魔王の力から千年の寿命を与えられて生み出された存在だ。与えられた寿命を消費することで魔王の力を大きく行使できるゆえ、メルモダーガに力を与えたのはこいつじゃないかと俺は疑っていた。


「それは私ではなくイレイア将軍です」

「イレイアだと?」


 イレイアは俺が魔王だったときに仕えさせていた女将軍だ。


「はい。イレイア将軍は魔王様がこちらの世界へ帰って来られてしばらくしたのち、軍勢を率いて私のもとへ訪れ、封印された魔王の力を奪いました」

「力を奪われたのか? お前がいながら?」


 千年魔導士は寿命を消費してしまうが、魔王の力を行使できる。イレイアが大軍を率いていようと、退けることはできるはず。


「イレイア将軍の大軍を退けること可能だったでしょう。しかし彼女を始末したところでまた別の何者かが魔王の力を奪いに来るだけです。寿命を消費してまでイレイア将軍を倒すのは無駄と判断しました」

「しかしお前が寿命を消費し切って消えても、また別の千年魔導士が魔王の力から生まれて、力を守るんだろう?」


 千年魔導士は消えてもすぐに新たな千年魔導士が魔王の力から生み出されるため、寿命を消費することに躊躇などないはず……。


「現在は封印されている状態です」

「そ、そうでした……」


 俺が封印したんだった……。


「しかし封印されている力なんて奪ってもしかたないんじゃないか?」

「残滓ですらそれなりの力を発揮するのです。封印されているとはいえ、魔王の力本体を身体に宿せば膨大な力が手に入ります」

「確かに……そうか。しかしイレイアがな」


 野心などあったようには見えなかった。

 一体、奴になにがあったのか……?


「魔王の力を手に入れたイレイア将軍は世界の支配者となりました。一応、イレイア将軍が魔王の力を手にするのに相応しいかを私は見極めておりました。しかしあの方では力の支配は不可能でした。現在は力に翻弄され、世界を混沌に陥れております」

「うん……。しかしなぜイレイアはメルモダーガに力を与えたんだ?」

「イレイア将軍は正義に拘る人です。こちらの世界を魔人という邪悪な生き物に支配をさせて、それを討伐するという大義名分を得てからこちらの世界へ侵略するつもりだったようです」

「つまりメルモダーガは利用されたわけか」


 世界を支配するという野心が奴にはあった。イレイアの目的を遂げるためには、都合の良い存在だったのだろう。


「私がこちらの世界へ参った理由をまだ話していませんでしたね」

「ああ。ずいぶんとタイミングよく来たな」


 メルモダーガを倒した直後だ。なにか理由があるのだろう。


「はい。それはあなたの力を見極めていたからです」

「俺の力を?」

「イレイア将軍は力に翻弄されているとはいえ、魔王の力を所持しております。それと戦うにはメルモダーガ程度を倒せないようでは……」

「ちょ、ちょっと待て。戦う? 俺がイレイアと?」

「そうです」


 即答され、俺はこいつがここへ来た理由に気付く。


「お前、俺にイレイアを倒させようと連れ戻しに来たのか?」

「連れ戻しに来たのではありません」

「えっ? あれ? 違うの?」


 イレイアと戦うとはつまり俺が向こうへ戻ることだと思っていたのだが。


「すでにそういう段階ではありません。イレイア将軍は日を追うごとに魔王の力に精神を支配されて、本来の人格を失いつつあります。もはや正義に拘るという考えもなくなっていることでしょう」

「つまりどういうことなんだ?」

「それは……」


 千年魔導士が口を開いたそのとき、フッと視界が歪んだ。

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