第221話 デュカスの終焉
割り開いた空間の先ではメルモダーガが驚愕に目を見開いていた。
「ば、馬鹿なっ! この異次元空間には私しか入れないはずっ!」
「俺を誰だと思っている? 魔王だぞ。力のほとんどを失っていても、お前程度の魔法を破ることなんて容易いんだよ」
「ド、ドルアンは……?」
「先に逝った」
「く、くそっ! やはりドルアンではダメだったかっ! あの役立たずめっ!」
「……」
こんな男のためにあれほどの男が死んだのか。
かつては良い人間だったのかもしれないが、今のメルモダーガのために命を尽くしたドルアンはやはり気の毒であった。
「ドルアンはお前のために死んだ。少しは悼んでやったらどうだ?」
「私を守れずに死んだ役立たずを悼む理由など無いっ!」
「……そうか」
こいつの中にドルアンを救った男はもういない。かつての善人は消え失せ、その抜け殻に入ったクズでしかなかった。
「あの世で悔いて、少しは昔の自分を思い出すんだな」
俺はメルモダーガへ手をかざす。
「うう……ならばっ!」
「うん?」
なにをする気か、メルモダーガは自らの頭を右手で掴む。
「わ、私自身をっ!」
「……なるほど」
メルモダーガの肌が紫色へと変わり、額には角が生えた。
「は、ははははっ! こうなれば私自身が魔人となって戦うまでだっ! 食らえっ! 私の魔人スキル『タイム』っ!」
「……」
「ふ、ふふっ。このスキルは自分以外の時間を停止するものだ。いかに魔王とてこのスキルの効果から逃れることは……」
「できるぞ」
「な、なにぃっ!?」
時間停止スキル。それは確かに強力なものだが。
「俺に状態異常無効があるのは知っているだろう? 時間停止状態も無効だ」
「そ、そんな馬鹿なっ!」
「お前が思うほど、魔王は甘い存在じゃない」
「ぐあああああっ!!!?」
右手から放たれた炎がメルモダーガを焼く。
奴の身体が完全に焼失するのと同時に異次元空間の効果も消え失せ、俺は元の部屋へと戻っていた。
「終わったな」
足元が大きく揺れ、身体が浮遊感に包まれる。
メルモダーガが死んだことで教会を浮遊させている力も失われて落下を始めているのだろう。
下には街がある。このまま落下させるわけにはいかない。
と、俺は自分の周囲に転移ゲートを発動させて教会全体を飲み込ませる。転移ゲートは俺ごとその場から教会を消失させ、あとにはなにも残らなかった。
「あ、いかん」
特殊な転移ゲートの効果によって、俺は全裸で自宅に戻ってしまう。無機物は消失するという効果をすっかり忘れており、裸で戻って来てしまった。
「あれ? コタロー帰ったの……って、なんで裸なのっ!?」
「えっ? あ、ア、アカネちゃんっ! なんでここにっ!?」
トイレから出てきたアカネちゃんを前に俺は大事な部分を両手で隠す。
「ダンジョンで待ってる意味も無いし、配信は流すだけにして戻って来たの。こっちでコタローが帰って来るのを待っていようと思って……。けど戻って来て早々だなんて、積極的過ぎない?」
「えっ? なに? せ、積極的?」
「いいよ。わたしもそろそろだと思っていたし」
と、アカネちゃんも服を脱ぎ始める。
「ちょ、ちょちょちょっ!? お、俺はそんなつもりじゃ……。少し疲れてるし……その」
「したくないの?」
「そ、そんなことは……ないよ」
想定はしていなかったが、これもまた運命だろう。
俺は今日ここで、アカネちゃんと……。
「ア、アカネちゃん……」
下着姿となったアカネちゃんの前へと俺は歩く。
「エッチのやり方わかる」
「初めてなので……ちょっと」
「わたしも知識でしか知らないからさ。2人で試行錯誤してその……楽しもうね」
「う、うん」
アカネちゃんが目を瞑る。
美しい顔を前に俺は唾を飲み込み、綺麗な唇へ向けて自分の唇を……。
「裸でなにをしとるんじゃ?」
「うわぁっ!?」
不意に声をかけれられて驚く。見下ろすと、子供雪華が俺たちをまじまじと見つめている姿があった。
「ゆ、雪華。帰って来てたのか」
「うむ。暴れていた魔人が皆、普通の人間に戻ったのでな。夕飯を作ってお前が帰って来るのを待っていようと帰って来たのじゃ」
「そ、そう」
「うむ」
雪華は俺をじっと見上げたまま動かない。
俺としてもこのまま事を致すわけにもいかないし……。
「雪華ちゃん、わたしたちこれから大切なことをするの。わかるよね?」
「わしはこの通り子供じゃからわからん」
「な、中身は大人じゃんっ!」
「なんの話かわからんのう」
あ、これは俺たちがなにをするかわかっていて、それをさせない気だ。
「いいから出て行って」
「嫌じゃ。ここはわしと小太郎が住む愛の巣なんじゃからのう」
「コタローはわたしと愛し合ってるのっ! 雪華ちゃんじゃなくてっ!」
「わしのほうが小太郎を愛しているのじゃ」
と、雪華は身体を大人にしつつ服を破って全裸になる。
「ちょっ!? 雪華、服っ!」
「食前に少し運動をするのじゃ」
「ちょっとコタローに触らないでよっ!」
「わしの男にわしが触ってなにが悪いのじゃ?」
「コタローはわたしの男なのっ! このーっ!」
アカネちゃんは俺から雪華を引き離す。
これはまた喧嘩が始まってしまいそうだなぁと思ったそのとき、
「小太郎おにいちゃんっ!」
玄関が開いて無未ちゃんが部屋へ入って来る。
「あ、無未ちゃ……」
「えっ? 裸? ……うん。わかったっ!」
「えっ? わかったて……わあっ!?」
びっくりするくらい高速で服を脱いで下着姿となった無未ちゃんが俺に抱きついてくる。
「わたしを抱くために準備して待っててくれたんだね。うん。いっぱい抱いていいよ。小太郎おにいちゃんが満足するまでしてあげるから」
「う、うおおおお……お、おっぱいが……」
無未ちゃんの柔らかいおっぱいが俺の素肌に当たって……。
「ちょっとなにしてんのっ!」
と、アカネちゃんが無未ちゃんを突き飛ばす。
「いたっ!? ちょっと邪魔しないでよっ!」
「邪魔なのはあんたたちでしょっ! 出て行ってよっ!」
「出て行かないっ! あなたたちこそ邪魔だから出て行ってっ!」
「ここはわしの家じゃ。出て行くのなら2人のほうじゃろう」
……また言い争いが始まってしまう。
この戦いばかりは魔王の力ではどうにもできなかった。
「さ、3人とも落ち着いて……うん?」
なんだ? タンスの上にある空間に妙な穴が……。
「あれは……もしかして」
その穴は次第に広がり、そしてなにかが……いや、何者かが出てくる。
「お、お前は……」
穴から出てきて部屋に降り立ったのは黒衣に銀髪の女。その姿には見覚えがあった。




