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第220話 VS最強の魔人ドルアン

「やめておけ。お前のスキルは知らないけど、俺を倒すことはできない」


 俺は仮面を被り直してドルアンにそう忠告する。


「そうだろうな。わかっている」


 しかしドルアンはどかない。メルモダーガのようにみっともなく恐れることもなく、無表情で俺を見下ろしていた。


「わかっていてなぜ俺と戦う? 逃げ出せばいい。まあ、メルモダーガがいなくなってもデュカスの残党として暴れ回るならいずれ始末するかもしれないけどな」

「安心しろ。メルモダーガ様が死ねば魔人の力は失われる。世界中で起きている騒動も収まることだろう」

「……」


 この男は他の魔人とは違う。他の連中にあった邪悪さを感じない。それなのになぜ魔人としての力を持てているのか? 疑問であった。


「お前はなぜ奴に仕えている?」

「メルモダーガ様には恩がある。それをお返しするためだ」

「恩? 奴に?」

「……今は私欲のためだけに生きている御方だが、かつては弱い人々を救うために尽力されていた。親にひどい虐待を受けていた幼い俺は、メルモダーガ様に保護をされて救われたのだ。あの御方に救われていなければ、俺は恐らく両親に殺されていただろう」

「幼いころ……? もしかしてお前はメルモダーガと同じ異世界人か?」

「ああ」


 そうか。メルモダーガは自分を裏切らない忠臣としてドルアンを異世界から連れて来たのだろう。他の魔人を管理させるために。


「あの御方に救っていただいた命だ。あの御方にために使うのが道理というもの」

「決死であってもか?」

「無論だ」

「!?」


 気が付けば俺は退いて魔法障壁を展開していた。


 ……なんだ?


 俺はいつ魔法障壁を展開した?

 記憶に無い。一時の記憶が抜け落ちている?


「やはり普通に攻撃しても通用はしないか」


 目の前には拳銃を構えたドルアンが立っている。


 いつ拳銃を手に持ったのか? まったく認識できていない。


「なにをした?」

「教えてやるほど俺は親切じゃない」

「むっ……」


 まただ。


 俺はいつの間にか炎の魔法を放っており、目の前にはドルアンがいない。


「これは……もしや」

「さっきの魔法を食らっていれば俺は死んでいたな。しかし当たることは無い」

「余裕で避けられる……いや違うな。お前は知っているんだ。これから俺がどんな魔法をどこへ放つのかを」

「……」

「未来が見えるというのは本当のようだな」


 放たれてから俺の魔法を避けるのは至難だ。しかし放つ前にどこへどんな魔法を放つかをわかっていれば避けることはできるだろう。


「ご名答だ。俺は攻撃対象、そして攻撃をしてくる対象の未来を少しだけ見ることができる。しかしそれだけが俺のスキルじゃない」

「だろうな」


 気が付けば奴の攻撃も俺の攻撃も終わっている。俺はその過程を認識できず、結果だけしか知れない……。


「……そうか」


 結果だけしか知れない。それが奴のスキルだ。


「お前のスキルは始まりから終わりまでを一瞬にするもの。相手は過程を知ることができずに結果だけを得る」

「……」

「その上で敵の未来が見えるか。魔人の大将を張るだけはある強力なスキルだな」

「ふ、さすがは大魔王だ。力の大半を失っていても、俺のスキルを見抜くくらいは容易にできるか」

「それも未来視でわかっていたことだろう?」

「まあな。俺のスキルは『リザルト』。お前の言う通り相手の認識を阻害して結果だけを与えるスキルだ。その結果は未来視で先に知ることができる」

「しかしそれじゃ俺には勝てない。未来を見て認識を阻害する攻撃をしても、俺にダメージを与えることはできない」


 認識が阻害されていようと、奴が攻撃をすれば俺は魔法障壁で防ぐ。奴の攻撃で俺に傷を負わせることはできない。


「甘いな。それだけじゃないんだよ」

「なに? ぐっ……」


 気が付けば俺は左胸を押さえて跪いていた。


「こ、これは……っ?」


 左胸を銃弾で撃ち抜かれている。


 ありえない。

 認識を阻害されていたとしても、なぜ魔法障壁で防がなかったのかわからなかった。……だが、


「ふっ……」


 銃を持っていたドルアンの右腕は消失している。

 それとともに左胸に受けた俺の傷も消えた。


「やはりか……」

「ああ……」


 俺は両目を見開いて立ち上がる。


「未来は見えていた。それは魔王眼だな」


 ドルアンは再生した右手で俺の目を指差す。


 魔王眼。それは俺の使う2つ目の魔眼。


「魔王眼は敵の過去を攻撃する能力だ。左胸にダメージを受けるのと同時に俺は過去に存在するお前の右腕……引き金を引く寸前の右腕を攻撃して切断した」


 つまり過去改変だ。過去が改変されたことで、奴は引き金を引く寸前に右腕を失っていたことになる。ゆえに銃を撃った事実は消え、俺の受けた傷も無くなるということだ。


「『リザルト』。恐らくお前は結果までを短縮できるだけじゃなく、その結果すら変更ができるのだろうな」


 そうとでも考えなければ俺が魔法障壁を展開しなかった理由に説明がつかない。


「ふっ……これで終わりだな。その通り。俺は未来に起こる事象の結果を自由に変更できる。だが過去までは変更できない」

「それを未来視していながら……」

「言ったはずだ。あの御方に救っていただいた命。あの御方のために使うのが道理であると。決死であってもな」

「お前は魔人になるような邪悪な人間には思えなかった」

「俺は世界を恐怖で支配しようとしていた人間に忠誠を誓っているのだ。邪悪でないはずが無いだろう」

「……そうだな」


 メルモダーガが悪に染まらなければ、この男にも別の未来があったかもしれない。それを考えるとなんとも気の毒な気がした。


「俺はもう死ぬのか?」

「未来視でわかっているだろう。俺の魔王眼はまだ発動している。つまりお前はすでに死んでいるんだ」

「ふっ、そう、だな」


 そう呟くと同時にドルアンの身体は消え去った。


「う……」


 身体がふらつく。


 以前に魔眼を使ったときよりも力が戻っているとはいえ、それは微々たるものだ。魔王眼使用による身体の消耗は大きかった。


「けど……まだ終わっていない」


 メルモダーガを仕留めなければ。


 と、俺はなにもない空間に両手を突っ込み、破くようにそこを割り開いた。

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