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第219話 偉大な大魔王。その名は……

「メルモダーガ……」


 テレビで見たのと同じ穏やかな表情で俺を見ている。しかしその裏に邪悪な素顔が隠れていることはすでに知れていることだった。


「ずいぶんとやってくれたな。君のせいで私の計画は無茶苦茶だ。どう責任を取ってくれる?」

「ふん。小さくカルト宗教でもやってれば俺が関わることもなかっただろうさ。大きく動き過ぎたことを後悔するんだな。エクイア教教祖メルモダーガ」

「!?」


 エクイア教。俺がその名を口にすると、メルモダーガは目を見開いた。


「な、なぜ貴様がその名を……。私がこことは違う世界で開いた宗教の名を知っているのだ?」

「俺がお前を知っているからさ。まあ知っていると言っても会ったのは一度だけで知り合いとかじゃないけどな」

「会ったことが……。まさかお前は私と同じ世界の人間かっ?」

「違う。俺はこの世界の人間さ」

「ならば一体どこで私の名を……?」

「魔王城」

「ま、魔王城……?」

「あのときは俺の前で平伏していたからな。顔はあまり覚えていなかった」


 すっかり腑抜けて普通の男なっていた顔を引き締め、かつて誰もが恐れた魔王の表情を今一度だけ復活させて仮面をはずす。


「そ、その……顔、は……」

「エクイア教教祖メルモダーガ」

「まさか……まさかまさかまさか……っ!」

「余の顔を見忘れたか?」

「ひえええええっ!?」


 叫び声を上げたメルモダーガはイスから立ち上がって平伏をする。


「父上? 一体なにを……?」

「馬鹿者っ! あ、あああの御方は魔王様……かつて乱れに乱れていた世界をたった数日で統一された最強最大の大魔王っ! ブラック・ゼロ様だっ!」

「うんそう……ブラック・ゼロ……うん」


 小太郎じゃ締まらないから魔王っぽい別名を考えようと思ってつけた名だ。当時は格好良いと思っていたが、この歳になって聞くと中二病全開で恥ずかしい……。無糖のコーヒーかよ。


「ブ、ブラック・ゼロっ!? あ、あの……っ! まさか……っ」

「お前も頭を下げんかっ! 大魔王様の御前だぞっ!」

「は、ははっ」


 ドルアンもメルモダーガの隣で平伏する。


「だ、大魔王様、なぜあなた様がこのよう場所に……?」

「俺よりもお前だ。エクイア教の教祖であったお前は原罪を取り払うとかいう理由で幼い少年を集め、性的暴行や殺害を繰り返した罪で70年間ゼノッカの地下牢獄に収監されると聞いた。出てくるにはまだ早いだろう」


 ゼノッカは凶悪犯を放り込む異世界の地下牢獄だ。こいつはエクイア教という大きな宗教の教祖として魔王城へ俺を訪ね、それから間もなく少年への性的暴行と殺害が発覚して捕まった。あのときに会っていなかったら、こいつの正体に気付くことは恐らくなかっただろう。


「そ、それは……その、助け出されまして……」

「誰にだ?」

「お、女です。何者かは知りません」


 ゼノッカの地下牢獄は高名な魔法使いでも脱出は不可能。そこから囚人を連れ出せるほどの力がある者となれば、何者かはある程度しぼることはできる。


「人を魔人に変える力はどこで手に入れた?」

「力もその女からもらったものです……」

「……」


 これだけの力を与えられる女と言えば、心当たりはひとりだけ。しかしあの女がこんなことをする理由には見当がつかなかった。


「お前はダンジョンを通ってこちらの世界へ来たんだな?」

「は、はい。ゼノッカの牢獄から外へ連れ出された私は、その女に不思議な大穴へと連れて行かれました。それで……与えた力を使ってこの先にある世界を支配しろと言われて……」

「理由は?」

「それは教えてもらえませんでした。ほ、本当です」

「……」


 向こうの世界で生きていた人間ならば幼子でも俺の怖さは知っている。俺を前にしてこいつが嘘を吐くことはないだろう。


 しかしこいつの言う女がもしもあいつで、こいつみたいな奴に力を与えてこちらへ送り続けて来られても迷惑だ。


 ……一度、異世界に戻ってあの女に会う必要があるか。


 こんなことをしでかしたならば、その真意を問わなければならない。場合によっては始末しなければならなくなる可能性も……。


「あ、あの、大魔王様。私はどうなるのでしょうか? そ、その、あなたが大魔王様とは知らずに……この世界におられるとは知らずに起こしたことでございます。どうか寛大なご裁きをいただければと……」

「今の俺はもう魔王じゃない。お前に裁きを下す権限はないが、しかしお前がこの世界で起こした罪を許すわけにはいかない」

「で、では……私は……?」

「俺に始末されるか、自らの手で命を絶つか選べ」


 こいつが作り出した魔人はこの世界に甚大な被害を与え、大勢の命を奪った。それは死刑でも生ぬるいと思うぐらいに重い罪だ。


「……」

「どうした? 俺に始末されるのを待っているのか?」

「……くくくっ」


 平伏しつつ、メルモダーガは含むように笑う。


「し、知っていますぞ。あなたが本来の力を封じて世界から消えたことを」

「それがどうした?」

「今のあなたならば……『リバイバル』っ!」

「!?」


 立ち上がったメルモダーガがリバイバルと叫んだ瞬間、円卓を囲む12個のイスに魔人の姿が現れる。


「こいつらは……」


 すべて3本角の魔人。その中には小田原など殺したはずの魔人がいた。

 しかし全員の瞳が真っ黒で、生気は感じない。


「がははははっ! 我が力『エビル・エンペラー』は死んだ魔人をわずかなあいだだけ復活させることができるのだっ! 意思の無いゾンビとしてだがなっ!」

「俺と戦う気か?」

「自分で言ったではないかっ! 今の自分は魔王では無いとっ! ならば勝てるっ! あの強大な大魔王の力が無いのなら……」


 そう言葉を吐くメルモダーガの前で12人の魔人たちが焼失する。


「ば……」

「もう一度聞く。俺と戦う気か?」

「ひ、ひえええっ!!!」


 叫び声を上げたメルモダーガが空間を割り開いてそこへ逃げ込む。


「転移ゲート? いや、あの程度の奴に使える魔法じゃない」


 異次元に逃げ込んだか。しかし逃がさん。どこへ逃げようと……。


「むっ」


 追おうとする俺の前にはドルアンが立ち塞がった。

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