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第218話 邪悪な者に悲しむ権利など無い

 その瓦礫は俺の魔法障壁にすべて弾かれる。


「まだ魔人がいたか」


 俺の入って来た入り口から女の魔人が姿を現す。


「やっぱり無理か」

「夢音っ!?」


 小田原が夢音と呼んだ女が両手を掲げると、周囲の壁が瓦礫となって宙に浮かぶ。


「あたしのスキルは『バレット』。周囲の物体をなんでも弾丸として撃ち出すことができるっ!」


 宙に浮いた瓦礫が粉々となってまさに弾丸の如く俺に襲い掛かる。

 しかし無駄だ。俺の魔法障壁は核ミサイルでも破壊はできない。


「くっ……」


 それでも魔人は瓦礫の弾丸を撃ち続ける。


「逃げろ智っ!」

「なっ……」


 女の魔人は俺への攻撃を続けながらそう叫ぶ。


「なに言ってやがるっ! 意味わかんねぇ! なんでてめえが俺を逃がすんだっ!?」

「意味なんてわからなくてもいいっ! 早く逃げろっ!」

「……」


 こんな奴を逃がそうとするとは。

 邪悪な人間同士で仲が良いということだろうか。しかし、


「3度も命を助けてやるほど俺は甘くない」


 魔法障壁で身体を守りつつ、小田原へ向かって右手をかざす。


「これで終わりだ」


 もう会うこともないだろう。


 俺の右手から灼熱の炎が放たれる。と、


「……ん?」


 小田原の前に魔人の女が立ち塞がった。


「じゃあね智。今度は飴をもらうこともできなそうだけど……」

「なに?」


 炎が女の魔人を焼き尽くす。そして小田原の目の前で完全に焼失した。


 ……まさか小田原を庇うとは思わなかった。

 こんな奴でも、大切に思う人間はいたらしい。


「飴……? 渡す……?」


 女の魔人が焼失した箇所を小田原が呆然とした表情で見つめている。


「まさか……いや、そうだ。確かおふくろがいなくなるときに誰か……誰かに棒付きの飴を渡したような気がする……。なんであいつがそんなこと……はっ!?」


 小田原はズボンのポケットからなにかを取り出してそれを見つめる。


「これは……も、もしかしてあいつは俺の……」

「大切な人間だったのか?」


 死んだ魔人の女とこいつは親密な関係だったのかもしれない。けど、


「さっきの女がお前にとって大切な人間だったとしても、大勢の人から大切な人の命を奪ってきたお前に悲しむ権利など無い。お前は……」

「うるせえよ……」


 小田原の目がキッと俺を睨む。


「勝手に話作ってんじゃねーよ。あの女が死んで悲しい? 俺が? なんとも思ってねーよ。俺にとっちゃ女なんてセックスの道具でしかねーんだからな」

「それにしてはさっきより俺を見る目が鋭くなっているぞ。お前みたいに血も涙も無い人間でも、大切な人が殺されて怒ることがあるんだな」

「黙れよっ! 死ねっ! 死ねよっ!」


 俺を前に小田原は叫ぶ。

 しかし俺に即死スキルは通じない。無駄な行動でしかなかった。


「安心しろ。彼女と同じところへ送ってやる」


 俺は小田原の頭を掴む。


「ク、クソォォォォォッ!!!これで終わりかよっ!!! お前を殺せる力がほしいっ! お前を殺せる力をっ! 誰でもいいっ! なんでもするっ! 誰でもいいから最強の力を俺によこしやがれええええっ!!!」

「じゃあな」

「うがああああああっ!!!」


 魔法によって業火に包まれる小田原の身体。やがて焼失し、俺の前から姿を消した。


「……」


 あんな奴でも大切な人がいて、それを俺は目の前で殺した。もしも俺の目の前でアカネちゃんや無未ちゃん、雪華が殺されたらどう思うか? それを想像したら、自分のしたことは少し後味が悪い。……とはいえどちらも大勢を殺戮した魔人だ。この手で始末したことに後悔は無かった。


 頭を振り、そして俺は先へ進む。やがて大きな扉の前に到達し、それを開く。


「やあ、待っていたよ白面君」


 大きな円卓がある部屋。その円卓の奥にはメルモダーガが座っており、その背後には背の高い魔人、ドルアンが立っていた。

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