第214話 始まる世界征服
アカツキと白面を陥れようとしたデュカスの策略が戸塚の考えによって暴かれ、世間が真実を知ることとなった。
もちろん世界中が大荒れだ。表立ってデュカスの活動を支援してきた政治家たちは釈明に追われ、世界中の政府は大混乱。デュカスの活動に加担してきた企業は大バッシングを受け、世界中の株は大暴落。特にマスコミ業界は重鎮の佐野がデュカスのメルモダーガと懇ろな関係であったことが暴露され、世間からもっとも強くバッシングを受けた。
「あっはっはっはっ!」
ダンジョン内に作られた横穴の隠し部屋の中でスマホを眺めていた戸塚が、不意に大声で笑い出す。
「なんだよ急に笑い出して?」
「だって世界中が大混乱だよ。僕が国会を襲撃したときよりの何倍、いや、何百倍も世界は混乱している。これが笑わずにいられるかい?」
「別に笑うようなことでもないだろう」
この状況を楽しそうに笑えるのがさすがテロリストと言ったところか。
しかしこいつのおかげでアカツキと白面にかけられた濡れ衣は晴れた。まだ全面的に信用することはできないが、感謝はするべきだろう。
「じゃあこれでゲームは終了ってことで。結局、白面さんを倒すことはできなかったね。わかってたことだけど」
「ははは、まあそれなりに楽しかったよ」
配信は大盛り上がり。ミーシャの眼鏡に仕掛けたカメラからのライブ配信暴露動画は、世界中の人間が見ていたのではないかというほどの再生数を記録した。
「小太郎おにいちゃんが無事でよかったけど、これからデュカスはどう動くかな? このままおとなしくはしていなそうだけど?」
「そうだね……」
計画が破綻したデュカスがどう動くか? ある程度の予想はついていた。
「小太郎はどうするのじゃ?」
「どうするって?」
「このままデュカスを放っておく気は無いのじゃろう?」
「そうだな……」
メルモダーガの居場所はわかっている。奴には聞きたいことが山ほどあるし、このまま野放しにはしておけない。
「うん?」
そういえばデュカス関連でなにかひとつ忘れているような気がする。なんだったか思い出そうとするも、しかし頭にはなにも浮かばなかった。
「じゃあちょっとメルモダーガに会って来るか」
あれは俺の知っている奴だ。1度しか会っていないので忘れていたが、ようやく思い出した。
「あ、わたしも行くよ。小太郎おにいちゃん」
「わしも行こう」
「いや、別にひとりでも大丈夫だけど……」
デュカスの本拠地には大勢の魔人がいるだろう。
とはいえ恐れることはない。ひとりでもぜんぜん余裕だと思う。
「あ、コタロー、ライブ配信もよろしくね」
「あなたこんなときにも……っ」
「うん。わかった」
「小太郎おにいちゃんっ」
「大丈夫だよ無未ちゃん。世界中のみんなもデュカスの末路は知りたいだろうしね」
「う、うん……」
これで魔人連中とも決着だ。
しかしメルモダーガ……奴に魔人を作る力なんてなかったはず。そんな力をどこで手に入れたのか? 理由によっては新たな問題と直面するような気もした。
「じゃあ行って来るよ」
「あー小太郎君ちょっと待った。先にデュカスが動いてきたようだよ」
「えっ?」
「世界征服の始まりだ」
戸塚が投げ渡してきたスマホを受け取って画面に視線を落とす。
「これは……」
海外のどこかを映したライブ配信動画だ。動画内では多くの魔人が暴れており、人々を襲って町を破壊していた。
「そこだけじゃないよ。全世界で魔人が暴れている。ある条件を満たしている国を除いてね」
「ある条件?」
「デュカスに恭順を示している国だよ」
「ああ……」
魔人による殺戮と破壊を行い、国々を恭順させていく。デュカスは実にわかりやすい世界征服に方針を切り替えたようだ。
「すでにロシアや中国、次いでアメリカにイギリスやフランスなどの国がデュカスへの恭順を示している。アメリカが恭順したなら日本も時間の問題だろうね。国連もデュカスによる世界支配に支持を表明している」
「まあ、それはどうだっていいさ」
どこが恭順しようと支持を表明しようと、デュカスを潰してしまえば関係無い。
「どうでもよくはない。デュカスに恭順を示したか示さなかったか。それはデュカス壊滅後の世界での立ち位置に影響する。デュカスに屈せず正義を貫いた国は世界で強い影響を持てるはずだよ」
「政治に興味は無い。無未ちゃん、雪華、俺はデュカスの本部へ行ってメルモダーガを叩く。2人は世界中で暴れている魔人を倒してほしい」
「けど、小太郎おにいちゃんひとりで大丈夫?」
「ああ」
むしろひとりのほうがいい。無未ちゃんや雪華を人質にでも取られたら戦いづらくなる。
「僕は行くところがあるから魔人退治には付き合えないよ」
「お前には期待してないけど、こんなときにどこ行くんだ?」
「まあ……古巣みたいなもんさ」
「古巣? 拘置所か?」
「そこよりもっと前だよ」
もっと前? ……まあどうでもいいか。
「コタロー。気をつけてね」
「うん。すぐ戻るから。戸塚、デュカスの地下本部へ続く階段のある廃寺の場所を教えてほしいんだけど」
「あ、コタロー、その必要は無いみたいだよ」
「えっ?」
アカネちゃんがパソコンのモニターを指差す。
そこに映っていたのは空中に浮かぶ巨大な教会だった。