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第211話 ミーシャを使った戸塚の思惑

 ……話によると、ミーシャはギャンブル依存症で多額の借金を背負い、それを肩代わりする見返りに貧困国で医療活動をする医者というテレビの企画に佐野の指示で参加させられたとのこと。その傍ら秘密裏に臓器売買をやらされて、得た金のほとんどを佐野に渡していたらしい。


「さ、佐野は最初、助からない患者さんからだけでいいって言ったんです。けど、助かる患者さんも殺して臓器を売れってそのうちに言い出して……。さすがにそんなことはできませんでした。け、けど、いつからかあいつが僕の中に現れて僕の代わりに患者さんを……ああっ」


 ミーシャは頭を抱えて蹲ってしまう。


「お前は知っていたのか? 彼の身体に魂が2つあることを?」

「ああ。彼の中には魂が2つ見えたんだ。1つは恐らく悪霊のたぐいだね。彼の弱った心に憑りついて一時的に身体を支配していたみたいだよ。あの世に行きそびれた悪霊は怖いねぇ」

「お前が言うなよ……」


 こいつが最大の悪霊だと思う。


「彼の中から悪霊ルシーラを排除できれば、君とアカツキの無実を証明できる良い協力者にできると思ってね」

「協力者に? なにをさせるのかはわからないけど、だったら自分でやれよ。お前のスキルでビリヤードみたいに魂を弾き出したほうが早いだろ?」

「この身体はまだ使い道があるからね。失いたくなかったんだ」

「なら先に事情を話せ。下手すればまとめて殺してたぞ?」

「魔王が不幸に慌てふためくなんて姿はそうそう見れないからねぇ。話してしまってはそれが見れなくてもったいないよ。くっくっくっ」


 笑う戸塚の頭をひっぱたく。


 財布を失ったのはこいつのせいだ。

 やっぱりこいつは敵だ。悪い奴だ。この場で始末しようかな……。


「あ、あの、お2人はどういうご関係で……?」


 いつの間にか顔を上げたミーシャは俺たちのやり取りを不思議そうな表情で眺めていた。


「僕は彼の奴隷さ」

「えっ? えええっ!」

「違う。おかしなことを言うな」


 奴隷にした覚えは無いし、この姿で言われると変な意味に取られそうだ。


「まあともかく、君の中からルシーラは追い出したからそれは安心していい」

「えっ? そ、そうなんですか?」

「自分でもなんとなくわかるんじゃないか?」

「そ、そういえば……なんと言うか、身体がすっきりしたような……」

「それで、彼になにをさせる気なんだ?」

「離間の計って知ってる?」

「離間の計?」


 確か仲違いをさせる、古い時代に使われた謀略だったか。


「知ってるけど、それがなんなんだ?」

「彼を使ってメルモダーガと佐野を仲違いさせる」

「そんなことをしてなんの意味があるんだ?」

「まあ君がすることは無いから、すべて僕に任せてくれればいい。謀略が成ったころには君とアカツキの濡れ衣は完全に晴れているはずさ」

「そうなのか?」


 こいつはなにを考えているかわからないので、全面的に信用して任せるのは危険だ。とはいえこれまでのことでそれなりに信用もしている。他に濡れ衣を晴らす方法も思いつかないし、ともかく任せてみようと思った。


「ああ、大船に乗ったつもりで任せてくれ」

「沈んだあのクルーズ船くらいには信用してるよ」

「あんなに大きな船くらい信用してくれるなんて嬉しいねぇ」


 どうやら沈んだの部分は聞こえない都合の良い耳をしているようだ。


「あ、あの、協力するって、僕はまだなにも……」

「君は身体に憑りついていた悪霊を彼に払ってもらったんだ。恩を返す必要があるんじゃないか?」

「そ、それは……。けど、佐野さんには借金を肩代わりしてもらってますし、裏切るわけには……」

「君そんなに義理堅いのかい?」

「いやまあ、そういうわけでも……」

「要は臓器売買が儲かるから続けたいんじゃないの?」

「い、いや、人殺しはダメですっ! けど助からない患者さんからならいいかなって。えへへ。もう使わないし」


 ルシーラもクズだったが、こいつもこいつでそれなりにクズだなと俺は横で聞いていてため息を吐く。


「お金がほしいなら幸運のスキルでギャンブルやって稼げばいいんじゃないのって思うんけど俺は」


 宝くじでも競馬でも、スキルを使って当てればすぐに億万長者だろう。


「お金はほしいですけど、勝つことが確定してるギャンブルって燃えないんですよねぇ。負けがあるから勝ったときに嬉しいというか、スキルを使って勝つのって、それもうギャンブルじゃないじゃないですか?」

「まあそうだけど、でもお金ほしいなら……」

「スキルを使って勝ったらそれはギャンブラーとしての敗北ですっ! ギャンブルに負けても、ギャンブラーとして負けるわけにはいかないんですよっ!」

「あんたギャンブラーじゃなくて医者でしょ……」

「医者である前に僕はギャンブラーですっ!」

「そう……」


 賭け事が弱いのにギャンブラーとしてのプライドだけは一端という難儀な性格である。


「ともかく僕たちを手伝ってくれるよね? 手伝わないならここで殺すから」

「えっ……? マ、マジですか? でもメルモダーガと佐野を嵌めるんですよね? 僕、結構、偉い魔人なんでわかりますけど、デュカスは世界支配を目論んでる組織ですよ? そこのボスとマスコミ界の大御所を嵌めるなんてでき……」

「死にたいの?」


 凍えるような冷たい声で戸塚は問いかける。


「えっ?」

「こいつ本当にやるよ。人を殺すことなんてなんとも思ってないから」


 ミーシャを見つめる戸塚の顔に表情は無い。

 完全なる無の表情で、瞬きもせずにミーシャを見つめていた。


「わ、わわわわわかりましたーっ! 手伝わせていただきまーすっ!!」

「そう言ってくれると思ったよ」


 そう言って戸塚はニッコリ笑う。……目以外は。

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