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第209話 魔人イルーラの奇妙なスキル

 フランソワの姿でデュカスに潜入している戸塚から連絡があった。

 なにやら佐野の指示で俺のところへ魔人が来るらしい。


 ゲーム開始を待つ俺は、中国の奥深くにそびえる高い岩山の頂上に座り、2日前に戸塚から届いたショートメッセージを眺めていた。


 しかしこの状況で魔人を送ってくるということは……。


 アカネちゃんが始めたゲームの光景はすべてライブ配信されている。それがわかって魔人を送って来るということは、なにか企んでいるのだろう。


「俺に命令されている振りをして、魔人で誰かを殺すのが目的かな?」


 佐野の企みはそんなところだろうか。


 俺が誰も殺さずにこのゲームを進行すれば、アカツキと白面を魔人のボスだと報道するマスコミに世間は疑問を持ち始めるかもしれない。そうなっては都合が悪い佐野は、このゲームで誰かが俺に殺されるのを望んでいるはず。


「まあ望み通りにはいかないけどな」


 魔人が来れば速攻で始末する。

 佐野の思い通りにはならない。


 ……しかし俺が誰も殺さないことでマスコミの報道に世間が疑問を持ったところで、アカツキと白面が魔人のボスという疑惑が完全に晴れるということはない。疑惑を晴らす決定打がほしいところだが、それは思いつかなかった。


「いっそメルモダーガを捕まえて無実を証明させるか……いや」


 脅迫されていると思われて状況を悪化させるだけか。


 このゲームを続けてもなんとかはならなそうだし、まいったなーと思いつつ、俺は唸って振り返る。


 全身を大きな布で覆って姿を隠した性別不明の何者かが、木のうしろに隠れて俺をじっと見つめていた。


 まだゲームは始まっていない。中国の街頭ビジョンでアカツキの動画が流れて初めて俺の居場所がわかるのでゲームの参加者であるはずはなかった。


 何者だ?


 偶然に俺を見つけて殺しに来たハンターか?

 しかしなにもしてこない。もしかして隙でも伺っているのだろうか?


 ならば俺は隙など見せないと教えてやるか……。


 完璧に隠れていると思っているのだろうマヌケのほうへ俺は歩いて行く。


「俺は隙なんて見せないから諦めろ」

「隙? なんの話かしら?」

「うん? 俺の隙を窺っていたんじゃないのか?」


 と言うかこの男、身体を覆う布がやけに盛り上がっている。まるで額と両肩になにかが生えてでもいるような……。


「ま、まさかお前っ!」


 俺は男の被っている布を剥ぐ。

 剥いだ布の下から現れたのは、額と左右の肩に角を生やした魔人の男であった。


「魔人だったのかっ!」


 俺は手に魔力を集中して、魔人を始末しようとする。が、


「うっ……」


 炎の魔法を放とうとした瞬間、目に砂埃が入って魔人を見失う。


「ど、どこに……」

「こっちよ」


 目を擦って振り返ると、魔人が腰をくねらせた状態でそこに立っていた。


「初めまして白面。あたしはミーシャ……いえ、今はルシーラ。最強の魔人よ」

「今は?」

「それを知る必要は無いわね」


 魔人は悪辣な表情でニンマリと笑う。


 どんなスキルで攻撃をしてくるのかと身構える。

 ……だがなにもしてこない。身体をくねらせながらニヤニヤと笑って立っているだけだ。


「どうやって俺の居場所を知った? まだ誰も知らないはずだが?」

「教えたのはわたくしよ」


 と、フランソワの姿をした戸塚が現れる。


 確かに電話で聞かれたので教えた。

 じゃあこいつがこの魔人を連れて来たのか? どうして? もしかして裏切るつもりか? まあ、それならこいつも一緒に始末するのでどっちでも構わないが。


「手出しは無用よフランソワさん。あたしだけで十分だから」

「ええ」


 戸塚はうしろへ下がって俺たちの戦いを眺めている。


 とりあえず戸塚は放って置こう。


「攻撃してこないのか?」

「お先にどうぞ」

「それだとお前のスキルを知ることは永遠にできなくなるが?」

「それはどうかしら?」

「……」


 俺の攻撃を受けても平気でいられるスキル、もしくは回避できるスキルか? それとも受けた攻撃を返すことができるスキルかもしれない。


 なにはともあれ攻撃をしてみるかと、俺は右手を前にかざして魔力を集中する。そして炎の魔法を放とうとしたとき、


「うあっ!?」


 顔に毛虫が落ちてきて驚き、炎はあさっての方角に飛んでいってしまう。


「虫っ! なんで虫がうあっ! もーっ!」


 虫を顔から払い落し、安心した俺は一息つく。


「カカカカッ、どうやら虫が苦手のようねぇ。スーパーヒーローさん」

「ま、まさか虫を操るスキルか?」


 そんなのは以前もいたが、できれば戦いたくない相手だ。


「違うわよ」

「なに? じゃあ……虫は偶然か」

「それも違うわ」

「どういうことだ?」

「カカ……さあ、どういうことかしらね?」


 と、ルシーラはくねくねと腰をくねらせながらこちらへ近づいて拳を突き出す。


「そんなもの……うっ」


 避けようと動かした足が急につり、動きが送れた俺の胸にルシーラの拳がめり込んだ。

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