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第208話 佐野の焦り(佐野清州視点)

 ……それからも世界各地に白面が現れ、そのたびにその国の軍隊やハンターが討伐に赴くも、ことごとく失敗をしていた。


 デュカスとしてはこれは想定通り。魔人に倒せない奴を、軍隊やハンターなどに倒せるとは考えていない。しかし佐野はこの状況がおもしろくなかった。


 レイカーズにマスコミ関係者が関わっていたことや、ジョー松の不正を隠蔽していたことが連中のせいで世間に知られてマスコミが大バッシングを受けた件は忘れていない。その意趣返しとして、佐野はメルモダーガに提案して、アカツキと白面を魔人のボスに仕立て上げたわけだが……。


 アカツキと白面はまるでこの状況を楽しんでいるじゃないか。


 正義の振りをして実は悪だった。そういう筋書きで奴らを叩き、マスコミのイメージアップに利用してやろうとしたのは成功だ。このまま奴らを人類の悪であり脅威と叩き続け、ドルアンら3人によって殺されたのちもどこかに潜伏しているという設定で魔人のボスを続けさせる予定だった。


 その計画は順調に進んでいる。アカツキが白面討伐ゲームという催しを始めたのは想定外だったが、しかしこれで白面が殺戮でもしてくれれば我々マスコミはより強く奴らを叩ける。最初はそう喜んだが……。


「本当にひとりも殺されていないのかっ?」


 デュカス本部のある地下世界から外の廃寺に出た佐野は電話をかけ、通話相手の部下に向かって尋ねた。


「はい。白面のスキルを受けた者たちは皆、無傷で自宅に帰されたそうです。なぜか全員、全裸だったそうですが……」

「そんなことはどうでもいいっ!」


 アカツキと白面が魔人のボスであると最初に報じたのは我が毎陽新聞だ。そして捏造した証拠映像を流したのが、毎陽グループに所属するテレビ局であるSAGテレビだ。それから他紙や他局が後追いで報じ、デュカスの働きかけで他国のマスコミにも報じさせた。デュカスに関わる世界各国の政治家にも、この報道を根拠にアカツキと白面を人類の敵だと声を上げさせている。


 万が一にも、報道が捏造だとバレるわけにはいかない。しかしこのゲームとやらで白面に誰も殺されないことから、アカツキと白面が魔人のボスであるというマスコミの報道に疑いの声が出始めている。ただでさえレイカーズやジョー松の件で日本のマスコミは世間からの信頼が薄い。もしも捏造がバレでもしたら、捏造を指示した自分はマスコミ業界から追放され、デュカスからも消されるだろう。


 アカツキと白面は悪でなくてはならない。

 そのためには連中の始めたこのゲームで誰か死ななければならないのだ。


「捏造でもなんでもいいっ! 誰か死んだことにしろっ!」

「そ、そう言われましても、白面の戦いは本人のカメラでライブ配信されてますし、使うスキルもすべて同じです。戦った大多数が家に帰されたと証言していますし、死人を作るのは無理がありますよ。雑に捏造すれば怪しまれますし……」

「そこをうまくやるのがプロだろっ! なんとかしろっ! いいなっ!」


 そう強く言って佐野は通話を切る。


 戦いはすべてライブ配信されている上、白面が強過ぎて絵的におもしろくないので盛り上がらず、テレビの視聴率は悪いと報告されている。アカツキの始めたこのゲームとやらは本当に不都合なことしかなかった。


「クソっ! 白面の奴めっ!」


 このゲームがいつまで続くのかはわからない。もしも最後までひとりの死者も、怪我人すらも出なければ世間は報道を疑うかもしれない……。


「そ、そうだっ! 白面のいる場所に魔人を送って、代わりに人間たちを殺させれば……い、いやだめだっ」


 魔人を送れば白面は魔人を討伐するだろう。

 そんな光景を全世界に配信されれば逆効果だ。それに魔人の無駄使いをメルモダーガが許すとは思えなかった。


「あいつを行かせるか」


 ミーシャは佐野が連れて来てメルモダーガに紹介した医者の男だ。ギャンブル依存症で多額の借金を抱えていたが、それを自分が肩代わりしてやった。もちろん善意ではない。見返りにある条件を飲ませたのだ。


 ミーシャは唯一、言うことを聞かせることができる魔人だ。

 奴のスキルを使えば白面に……。


「しかしいや……もしも殺されでもしたら……」


 のちの白面討伐に支障が出る。

 奴を白面にけしかけて死なせたのが自分だとメルモダーガに知られれば、殺されかねないという懸念もある。


「どうすれば……」


 立ち尽くす佐野の側へ誰かが歩いて来る。


「あら佐野さん? どうされたのかしら?」

「あ、あなたは……」


 現れたのはフランソワだ。

 確かアカツキの中身である伊馬アカネに白面を裏切らせるという作戦を実行し、それから行方不明となっていたらしいが。


「フランソワ……さん? 生きていたのですか?」

「ええまあ。けれど作戦は失敗してしまってお父様に合わせる顔がありませんわ。どうしたらよろしいかしら?」

「そんなこと私に聞かれましても……」

「そうですわね。なにかお悩みのようですし、わたくしに構っている場合ではありませんわね」


 そう言ってフランソワは立ち去ろうとするが、


「わたくしでよければ悩みを聞いて差し上げましょうか?」

「えっ? な、なぜそんな?」


 あまり深くは知らないが、フランソワは大の男嫌いと聞いたことがある。なので自分の悩みを聞きたいという意図が理解できなかった。


「佐野さんに協力してなにか功績を上げれば、お父様もわたくしの失敗を許してくださるかもしれないでしょう?」

「あ、ああ。そういうことですか」


 それならば理解できなくもなかった。


「私の提案でアカツキと白面を魔人のボスということにしましてね。奴らの始めた白面討伐ゲームとやらで誰かを殺してもらわないと、奴らを悪として叩けないばかりか、奴らを魔人のボスと報じた我らマスコミの信用が落ちかねないのですよ」

「なるほど。そのゲームとやらで白面に人を殺させたいと?」

「捏造でもいいのですがね」

「戦いはすべてライブ配信されてますので、捏造は難しいですわね。実際に殺させるしかありませんわ」

「それができればよいのですが……」

「ではミーシャを使っては?」

「ミーシャを?」

「佐野さんもミーシャを使えばゲームで白面に人を殺させることができるとお考えでしょう? そうしたらよろしいのでは?」

「しかしミーシャを使って万が一白面に殺されでもしたら、のちの白面討伐に響くかと思いますが」

「ではわたくしも一緒に行きましょう。あぶなければ退散させますわ」

「お、おお。そこまでしていただけるなら……」


 ひとりで行かせては白面に殺されるのではと不安だったが、魔人の精鋭であるフランソワがともに行くのならば心強い。


「ええ。ではここにミーシャを呼んでいただけますか?」

「わかりました」


 佐野がスマホで電話をかけ、しばらくするとミーシャがやってきた。

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