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第200話 シェンを蘇生。しかし元はイス……

 戸塚の全身に『魔王隷属』の黒い模様が浮かび上がる。


「君がシェンの姿になってくれたのが実に良い。それ」

「なんだ……? う……がっ」


 不意に魔人が糸の切れた人形のように前へ倒れた。


「なにをしたんだ?」

「見ていればわかるよ」


 ……そう言われて見ていると、やがて魔人の身体は動き出して周囲を見回す。


「こ、ここは……?」

「おかえりシェン」

「えっ?」


 見た目はシェンだ。しかしあれは魔人がスキルで変化した姿でもちろん本物じゃない。なので戸塚がおかえりと言った意味がさっぱりわからなかった。


「ああ。『死者の王』でシェンの魂を降霊して、それをビリヤードの玉みたいに奴の魂へぶつけて弾き出してやったのさ」

「な、なに?」

「つまりあの身体の中にあるのはシェンの魂で、魔人の魂はもう無いってこと」

「ええ……」


 しかしあの身体は元々、そこに置いてあったイスで、それが魔人のスキルによってシェンの身体に変化したものだ。身体は本物のシェンじゃないどころか、元は無機物のイスで、それに本物のシェンの魂が入っているという状態である。


「ということは、弾き出された魔人の魂がこの辺に……」


 俺は目に魔力を集中して、浮遊する魂が見えるようにする。


「……あれか」


 別のイスに入ろうとしている魔人の魂を見つけた俺は、それへ向かって人差し指を向ける。


「あの世に送ってやる」


 魔力で魂を捕らえ、宣言通りあの世に送った。


「あの世ってあるのかな?」

「死者の魂を呼ぶことができるならわかるんじゃないのか?」

「どこから来てるかはわからないんだ」

「異世界にはあったよ。たぶん同じ場所じゃないか? 試しに行ってみるか?」

「まだ遠慮しておくよ」

「それは残念だな」


 本当に。

 

「それよりも大丈夫なのか? シェンの魂が入ってるあの身体はもともとイスだぞ?」

「たぶんね」

「たぶんって……」

「おっと僕は時間切れだ」


 と、そう言い残して戸塚の身体は崩れた。


「ひゃああっ!?」


 それを見てシェンが叫び声を上げる。


「な、ななななんかゾンビみたいのが崩れたっ! なにこれっ! ここどこなのっ! 意味がわかんないんだけどっ!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて」


 なにがあったのかをシェンに説明する役目の戸塚がいなくなってしまったので、しかたなく俺が彼女を落ち着かせるため声をかける。


「だ、誰ですかおじさんはっ! はっ!? もしかしてわたしを誘拐してどこかへ売り飛ばそうとしてるっ!? そんなことさせないからっ!」


 と、シェンは俺をゲシゲシと左足で蹴る。


「えい腐れ腐れっ! あれ腐らない? ど、どうして?」


 そういえば本物とは初対面か。

 理由は違えど、初対面で同じことをされるとは思わなかった。


「落ち着いて。まず俺は誘拐犯じゃない。戸塚に君のことを頼まれたんだ」

「が、我琉真様に? あなた誰なの? あ、いや……わたし知ってる。あなたは末松小太郎で、白面の正体……」

「えっ?」


 なぜそれを初対面のシェンがそれを知っているんだ?

 戸塚のように魂の状態で俺について来ていた? いや、それなら自分の置かれている状況に動揺するのは変か……。


「あなたは魔王で、異世界にいたことがある人。あれ? なんでわたしこんなこと知ってるんだろ?」

「も、もしかして……」


 魔人の記憶がそのまま身体に残っているのか?

 だとすれば、デュカスやメルモダーガのことをシェンから聞けるかも……。


「シェン、君に教えてもらいたいことが……」


 ズドォォォンッ!!!


 そのとき船のどこかで爆発音がし、船体が激しく揺れる。


「な、なにっ? なにこれっ? 爆発っ? 地震っ?」

「ど、どこか……たぶん下のほうで爆発があったみたいだ」


 恐らくユンが仕掛けたものだろう。


 やがて船体は大きく傾く。


「船が沈むっ! 逃げるぞっ!」

「あ、うんっ!」


 俺はシェンの手を掴んで転移ゲートを開き、アカネちゃんたちのいる部屋へと移動する。


「あ、コタロー。な、なんか爆発音がしたと思ったら、すごい傾いて……」

「この船はもうすぐ沈むっ! 急いで逃げるんだっ!」


 アカネちゃんの家に通じる転移ゲートを開き、そこへみんな入ってもらう。


「コタロー?」


 最後に部屋へ残った俺にアカネちゃんが声をかけてくる。


「念のため生き残りがいないか調べる」


 俺は全身から無数の光の玉を放出し、船内を急いで調べさせた。


「生存者は……ひとり」


 転移ゲートでその場へ移動する。と、甲板の上に立つ金髪の白人少女を見つけた。


「おや、お迎えかい? 小太郎君」

「えっ? 俺の名前を……って、戸塚か」

「ああ。たぶん死体らしいのがあったから身体をもらったんだ」

「たぶんってなんだよ?」

「肉体は生きているけど、魂が死んでるんだ。どうしてこんな状態になってしまっているのかはわからなかったけどね」

「……まあいい。とにかく脱出するぞ」


 こんな奴どうでもいいが、そこにいる以上は連れて行かなければならない。


「しかし他に生き残りは無しか……」


 残念なことにユンは最後の計画を成功させてしまったようだ。

 しかし実行犯であるユンは始末された。殺された人たちは気の毒だが、奴も死んだことで無念だけは晴らされたと思いたい。


「ほらゲートへ入れ」

「お先に」


 アカネちゃんの家へ続く転移ゲートを戸塚が通り、俺もそれに続く。

 瞬間、転移先でアカネちゃんの震えるような怒声が耳をつんざいた。

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