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第199話 戸塚の推理

「し、死体が……まさか」


 魔獣に殺されたと思われる男性の死体は普通の足取りで俺のほうへ歩いて来る。


「驚くことは無い。僕だよ」

「や、やっぱり戸塚か……」


 男の死体がニッと笑う。


 わかってはいてもひどく不気味だ。


 しかしやはり生きていたというか、消滅はしていなかったんだなと辟易する。


「あそこにあるイス。あれを攻撃してくれないか?」

「えっ? なんでだ?」

「いいから」

「?」


 なんでかよくわからないが、俺は目の前に見えるイスへ向かって炎を放つ。と、


「ちっ」


 舌打ちが聞こえ、イスが人型に変化して炎を避けた。


「えっ?」


 あれはさっき俺が始末した魔人?


 生きていたのか?

 だが間違いなく燃やして始末したはずだ。


 どういうことだと俺は首を傾げる。


「くそっ、なんで気付きやがった」

「僕は死者だからね。魂を見ることできるんだ。無機物であるイスに魂があったら不自然だろ?」

「なるほどな」

「ど、どういうことだ? お前はさっき死んだはず……?」

「この通り生きてるぜ」


 ならばさっき殺したのは偽物だったのか……?


「なるほど。ユンに殺されたときもそうやって生き残ったわけか」

「えっ?」


 そう言った戸塚を俺はきょとんとした気持ちで見つめた。


 ユンに殺された?

 この魔人がいつユンに殺されたのか?


 俺には戸塚がなんのことを言っているのかわからなかった。


「なんのこと言ってるんだ戸塚?」

「さっきユンに殺されたのはシェンじゃない。こいつだよ」

「えっ?」

「北京のホテルで再会したときから、すでにシェンは殺されていてこいつと入れ替わっていたんだ」

「な、なんだって?」


 戸塚の言ったことに俺は驚愕する。


 つまり俺と会ったときからシェンはすでに魔人だったと……。


「へえ、気付いていたとはな。いつ気付いた?」

「君が彼の足を蹴ったときだよ」

「あたしがこいつの脚を蹴ったとき……だって?」


 そういえば初対面のとき、ホテルの部屋で出迎えてくれたシェンに蹴られたが、なぜあれで気付いたのかは謎である。


「君は相手の姿と同時に記憶とスキルもコピーすることができる。そうだろう? スキル名はそのままコピー……もしくはメタモルかな?」

「はっ、その通り。あたしのスキルは『メタモル』。自分の姿形を自在に変えることができるのさ。そして……」


 魔人は側に置いてあるもうひとつのイスを掴み、それをこちらへ投げる。


「!?」


 瞬間、イスはピンの抜けた手榴弾へと変化する。


「『メタモル・トランス』。あたしは触れたものを自在に変化させられる」

「なるほど」


 だが爆発する前にその手榴弾は俺の展開した転移ゲートによって空の彼方に消え、お返しと魔人へ向かって炎の魔法を放つ。

 炎を受けた魔人はふたたび焼失する。……が、


「カカカッ」

「!?」


 背後から笑い声が聞こえて振り返ると、別のイスが蠢いてふたたび魔人が姿を現した。


「『メタモル・チェンジ』。あたしは側にある物体へ自分の魂を移動させることができるのさ。つまり物が存在する場所ならあたしは不死身なんだよ」

「……厄介なスキルだ」


 ならば転移ゲートでどこかへやってしまうしかないか……。


「カッカ……それで、なぜ脚を蹴っただけでシェンがあたしだってわかったんだ? 記憶もスキルも完全にコピーして姿も仕草も完璧だった。正体が知られる理由はなかったはずだぜ?」


 と、魔人は姿をシェンへと変えて卑しい笑みを浮かべる。


 シェンの姿そのものだ。

 恐らく本物と違いない外見なのだろう。


「君が彼の脚を蹴った足だよ」

「蹴った足だと?」

「ああ」


 と、戸塚は魔人の右足を指差す。


「シェンは利き足が左なんだ。しかしあのとき君は彼の脚を右の足で蹴った」

「あっ……」


 たいしたことではないのではっきりとはは覚えていないが、確かそうだったような気がする。


「利き足ってのはあまり意識はしないものだ。記憶を頼りにシェンを演じていたみたいだけど、少し甘かったようだね」

「ふん。それだけであたしを疑っていたって言うのか?」

「もちろん魔人とまでは思っていなかったし、たまたま右の足で蹴った可能性もあった。けど僕は細かい違いとかが気になるタイプでね。もしかすれば魔人に関わる何者かがシェンに成り代わっているんじゃないかとわずかに疑っていた。もしも魔人に関わる者だったら彼の素性を知られるのは都合が悪いと思ってね。君とホテルで会ってからは一度も彼の名を呼んでいない」

「そ、そういえば……」


 俺はホテルでシェンに会ってから、一度も戸塚に名前を呼ばれていなかったような……。


「確信を得たのはここへ来てすぐに魔獣から襲われたときだ。魔獣は手前にいた僕と君ではなく、彼のほうへ襲い掛かった。魔獣は魔人と死体を襲わない。死体の僕が襲われないのは当然として、なぜ君が襲われなかったのか? 答えはひとつだ」

「カカッ……」


 魔人は笑って手をパチパチと叩く。


「たいしたものじゃねーか。さすがは凶悪テロリストの我琉真様だ」

「君ら魔人に凶悪と言われるほどじゃないよ」

「けど、あたしの正体が魔人と知ってなぜ放置していた? うしろから襲い掛かったかもしれないんだぜ?」

「そうされても僕は身体を失うだけだし、彼はそう簡単にやれられたりはしない。そうだろう?」

「そうかもしれないけど……」


 だとしても知っているならば教えといてほしかった。


「それに殺す気ならもっと早くにそうしているだろうさ。しなかったのはなにか目的があったからだ。ユンに彼を始末させようとしていたってのはわかった。けど、なぜ僕らと一緒に行動していたのか? ここからは僕の推理だね」

「聞いてやろうじゃねーの」

「ああ。恐らくだけど、君はユンの動向を探っていたんじゃないか? 施設であの魔人に尋問をしたのも、ユンのことを聞き出すためだったんじゃないかと、ね」

「ってことは魔人同士でいさかいがあったってことか?」

「僕の想像通りならね」


 戸塚の言う通りならば、魔人連中も一枚岩では無いということか。


「僕が中国の魔獣を調べていることを知ったお前は、魔獣を作っている施設を探っているシェンを殺して成り代わった。施設の場所を知ったお前は、そこへひとりで行ってユンの動向を探り、不都合があればユンを始末する気だった。違うかい?」

「……」

「けれどシェンの記憶には僕が彼……白面を連れて合流するという記憶があった。ユンのスキルで彼を殺せると考えた君は、僕らと同行して彼がユンに殺されたのち、君の手でユンを始末するつもりだった。スキルで君自身や周囲のものを強力な殺人ウイルスにでも変えれば、君がユンを殺すことは可能だろうしね」

「……ふん。たいした推理だ」


 不服そうな表情で魔人は鼻を鳴らして戸塚を睨む。


「だいたいその通りだよ。テロリストなんてやめて探偵にでもなったらどうだ? ホームズ」

「僕はどちらかと言えばルパンだよ。予告状とか出すの好きだしね」


 まあ犯罪者だし、そっちのほうが近いか。


「さて君には優秀な助手を殺されているからね。返してもらうよ」

「返してもらうだと?」


 魔人は戸塚の言葉に怪訝そうな表情をする。

 俺もなにを言っているのかわからなかった。

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