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第197話 目覚める『魔王隷属』の力

「シェンっ!」


 小太郎が叫ぶ。


「呼びかけても無駄だ。もう死んでいる」

「これは……」

「……なるほど。ジャイアントキリング。自分より強い相手を一撃で倒すとか、そんなところか」


 戸塚がそう言うと、ユンはパチパチと手を叩く。


「ご名答だ。私は最弱にして最強。君らで勝つことはできない」

「いや、勝つ方法なら……」


 小太郎がなにか言いかけたとき、ユンの腕が動いたのを見て戸塚は駆け出す。


「む……っ?」


 咄嗟に小太郎の前に入った戸塚の身体にユンの拳が触れる。

 しかし戸塚がシェンのように倒れることはなかった。


「なぜだ? なぜ貴様は死なない?」

「この身体は死体でね。僕自身はすでに死んでいるのさ」

「なんだと? それは……貴様のスキルか?」

「まあね」


 話しながら、小太郎を下がらせる。


「戸塚」

「こいつは君にとって天敵だ。僕がなんとかしよう」

「なんとかって……」

「君は僕の希望だ。ここで君を失うわけにはいかない。君のことはなにがあっても守る。僕はそのために存在している……君の忠実なるしもべだ」

「戸塚……あっ」

「う……」


 なにか全身が熱い。そして痛い。

 ナイフで身体を刻まれるような謎の痛みが全身に走る。


「な、なんだ貴様……それは」

「えっ?」


 言われて自分の身体を見下ろす。

 全身には黒く不気味な模様の入れ墨が入っていた。


「それは……まさか」


 小太郎が声を上げる。


「『魔王隷属』の力……か」

「魔王隷属?」


 魔王眷属なら知っているが……。


「『魔王隷属』はこの名の通り魔王に隷属を誓った者に与えられるスキルだ。『魔王眷属』と同じように力を得ることができるけど……」

「ああ、確かになにか身体に不思議な力を感じるよ」


 自分になにか強い力が宿った気がする。

『魔物の王』でも『死体憑依』でもない、別のスキルが……。


「けど『魔王隷属』は……」

「おしゃべりしている余裕があるとはな」

「グルルルル……」


 周囲に魔獣が集まって来る。


「仮に貴様が不死であったとしても、食わせてしまえば関係無いだろう」

「かもね。けど、そいつらは死んでいる人間を襲わないはずだよ」

「ふん。どこで知ったかは知らないが、それは殺せとだけ命令した場合だ。死体を食えと命令すればそうする」

「なるほどね」


 ならばこの身体は食われてしまうか。


「戸塚、ここは俺がやるから下がってろ」

「ああ。君なら奴のスキルに勝つこともできるんだろうね。けどここは僕に任せてほしい。君への忠誠を示すいい機会だ」


 それに自分の中に目覚めたこの力を試してみたかった。


「いや、忠誠とかいらないから……」

「遠慮することは無いよ」

「遠慮じゃなくて本当に……」

「私も暇じゃあ無いんだ。そろそろお別れしようか」


 ユンがそう言うと同時に魔獣が近付いて来る。


「最後にひとつだけ質問をしてもいいかな?」

「……なんだ?」

「君は自分を虫けらほどに弱くできると言ったね? それ以下にはできるかな?」

「無理だ。虫程度で限界だが、それを聞いてどうする?」

「君を倒す方法を思いついたのさ」


 戸塚はニッと笑い、そして両手を左右へ広げて天を仰ぐ。


「新たな力を使う」


 そして戸塚の身体が光を帯びていく。


「僕の新たな力。それは……『死者の王』」

「死者の王だと? 貴様、一体なにを……う、ぐっ……」


 ユンの表情が歪む。

 そして身体中に妙な膨らみができ始める。


「こ、これは……ぐ、ああああ……き、貴様なにをしたっ!」

「……魔人スキル『ペイン』」

「なんだと? そ、そのスキルジェイニーの……。まさかこれは……っ」

「『死者の王』によってこの身体へ魔人ジェイニーの魂を憑依させて支配した。奴のスキルでウイルスを発生させてお前の身体を蝕ませているのさ」

「そんな……馬鹿なっ! ぐおおおおおっ!!!」


 ユンが激痛に叫ぶ。


 奴のスキルでは虫以下の強さになることはできない。ゆえにウイルスが相手ではなにもすることができないのだ。


「ただの人間ならこのままウイルスに身体を内側から破壊されて死に至る。けれど魔人は破壊されても再生を繰り返すから死なない。ただ苦しみ続けるだけか」


 ユンは苦しみ叫び続けるだけで死ぬ様子は無い。


「ウイルスが増殖すれば再生の速度を上回って死ぬことができるかもしれないけど、それまでずいぶん時間がかかりそうだね」


 もしかすれば数年は苦しみが続くか、下手をすれば寿命を迎えるまで……。


「ぐ、ぐぐ……こ、このぉっ!」


 不意にユンがこちらへと襲い掛かって来て拳で戸塚の顔面を突く。

 殴られた衝撃で戸塚は仰向けに倒れ、そこへユンは馬乗りになる。


「あああああああっ!!!」


 そのままユンは戸塚の顔を殴り続ける。

 鼻や口から吹き出した血がユンの顔や身体を汚し、そして……。


「が、あ……」


 ユンは倒れ、その身体は煙のように消えていった。


「『ペイン・リベンジ』。血を浴びた相手に受けたダメージをそのまま返す」


 ユンのスキルは自分より強い者を一撃で殺すというものだ。そのスキルの効果がジェイニーのスキルでそのまま返り、自らが死に至ったわけだ。


「痛みに耐えかねて自らの死を選んだか」


 それとも一矢を報いようとしただけなのか。それはもうわからない。

 しかし政府のためなどと大きなことを言って、大勢を殺してきた男の最後にしてはなんとも惨めなものだ。人のことは言えない身ではあるが……。


 周囲にいた魔獣は主であるユンの死によって消え去った。


「さあてこれで解決だ。あとは……」


 小太郎へ振り向いたその瞬間、戸塚の身体は崩れて消えた。

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