第196話 魔人スキル『ジャイアントキリング』
首を戻したユンの額には傷があるものの、すぐに治ってしまい、やはり銃弾などでは殺せないことがわかる。
「やっぱり無理か」
ため息を吐いた戸塚は拳銃を捨てる。
「今すぐに死にたいか?」
「どんなスキルを使って殺してくれるのか、興味はあるかな」
「女ひとりを殺すのにスキルを使う必要など無い」
「ははっ、その通りだ」
こいつのスキルを知って小太郎へ伝えようと考えたが、そううまくはいかなそうであった。
「女ひとりなど、首を捻るだけで……」
「戸塚っ!」
近づいて来ようとしたユンの背後から声が。
見ると、転移ゲートから小太郎とシェンが姿を現していた。
「なんだ? 貴様ら一体どこから……」
「魔人? こいつがユンかっ!」
声を上げると同時に小太郎の手から炎が放たれ、棒立ちのユンを焼く。
これで終わり。そう思った。
「……ふはははっ! なるほど。なかなかの強者が乗っていたか」
炎は消え、中から無傷のユンが姿を現す。
「な、なに? 俺の炎が効いていないのか?」
「たいした強さだ。これほどのハンターがいるとは想定外だった」
魔人は傷を負ってもすぐに再生することは知っている。
しかしこいつは違う。そもそもダメージなど負っているようには見えなかった。小太郎の攻撃をまともに食らってダメージが無いなど、信じられない。
「ふん。しかしお前がどれほどに強かろうと、私に勝つことはできないぞ」
奴が小太郎以上に強いのか?
いや待て。なにかおかしいような……。
「次は私から攻撃しようか」
拳を固めたユンが、小太郎へ襲い掛かる。
拳による普通の攻撃。
その凡庸な攻撃に異様な不気味さを戸塚は感じる。
「その攻撃はっ!」
避けるべきだ。
そう叫ぼうとしたが、必要はなかった。
「むっ……」
小太郎も不気味に感じたのか、拳の攻撃を避ける。
「ほう。良い勘をしているな。くっくっくっ」
拳を引いたユンは余裕そうに笑う。
やはりなにかある。
なんだ? すでに奴のスキルは発動しているのか? だとしたら一体どういうスキルなのか……。
「まさか……フェイっ! 攻撃しろっ!」
「あ、はいっ!」
小太郎の背後にいるシェンが拳銃を手に持ってユンを撃つ。
「ぐ……」
そして銃弾が腹にめり込む。
瞬間、傷口を中心にユンの身体が腐敗していく。
「くそっ! スキル使いがもうひとりいたかっ!」
腐敗が上へ来る前に、ユンは右手で自分の胸から下を切り落とす。
しかし身体はすぐに再生して元へ戻る。
……シェンの攻撃は効いた。
もしかして一度受けた攻撃は通じない……いや、小太郎の攻撃を受けるのは初めてのはずだし、銃弾を受けるのは2回目だ。
違う。一度受けた攻撃が通じないんじゃない。こいつのスキルは……もしかして。
ひとつの可能性が思い浮かんだ戸塚は走り出す。
「ユンっ!」
「なに? ごっ……」
振り返ったユンの股間を戸塚は思い切り蹴り上げる。と、ユンは小さく呻いて眉をひそめた。
わずかだが効いている。
小太郎の攻撃は効かないのに、たかが金的でダメージを受けた。
「やはり……もしかして」
戸塚はユンからあとずさり、人差し指を向ける。
「お前のスキルは恐らく……自分より強い者の攻撃を受けない。じゃないか?」
「……」
戸塚の指摘にユンは答えない。
だがやがて表情をニヤリと歪ませる。
「そうだとしたら、私に敵うと思うか?」
「考えればやりようはありそうだ」
「無理だな。それは私の魔人スキル『ジャイアントキリング』を舐め過ぎだ」
「ジャイアントキリング……」
大物食い。
戸塚の指摘はズバリだった。
小太郎は強い。強いからこそ、こいつとは相性が最悪なのだ。
「私の魔人スキル『ジャイアントキリング・ディフェンダー』は自分より強い者の攻撃を受け付けない。そして……」
「シェンっ! もう一度だっ!」
「はいっ!」
シェンの拳銃がユンの胸を撃つ。
「腐れっ!」
……しかしなにも起こらない。
先ほどのようにユンの身体が腐ることはなかった。
「どういうことだ?」
ついさっきは効いたシェンの攻撃が効かないことを戸塚は疑問に思う。
「驚くことは無い。私が彼女より弱くなっただけのこと」
「弱くなっただと?」
「『ジャイアントキリング・ウィーク』。自らを弱くするスキルだ。私は自らを虫けら程度まで弱くできる。君らが虫けら以下の強さでない限り、私にダメージを与えることはできない」
「……面倒なスキルだな、けど、虫けらで俺たちに勝てるか?」
「ああ。私の魔人スキルの名をよく考えてみるがいい」
「えっ? あ……」
不意にユンがシェンに軽い蹴りを入れる。
その瞬間、糸の切れた人形のようにシェンの身体が倒れた。