表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/290

第191話 もうひとつの方法(伊馬アカネ視点)

 困惑した表情の紅葉と目が合う。


「おねえ? えっ? ここどこ?」


 なにが起こったのかわからない。


 お互いにそんな表情であった。


「なに? なんで紅葉を?」


 あの紅葉も夢の存在だろう。

 しかしなぜ紅葉を出現させたのかがわからなかった。


「あれは……まさか」

「えっ?」


 コタツ君が重々しげに声を吐く。


「あの紅葉ちゃんは本物かもしれない」

「ほ、本物って。そんなはず……」


 この夢はアカネの夢だ。

 そこに本物の紅葉が現れるなどありえないことだった。


「その竜が言っている通りですわ」


 紅葉の腕をがっしり掴んでフランソワが言う。


「『ドリーム・コントロール』。わたくしは身近に眠っている人間ならばすべての夢を操ることができるのですわ。こうして他人の夢へ引きづり込むこともね」

「本物の紅葉……」


 あの紅葉が本物だとすれば、フランソワがどう利用するかは想像できた。


「わたくしが夢でこの子を殺せば、現実のこの子は生きる人形と化しますわ。そうされたくなければおとなしくわたくしにここで殺されることですわね」


 想像通り。下衆の考えることなど皆同じである。


「ど、どうしたら……」


 このまま自分を守り続ければ紅葉の心は殺される。

 しかし守らなければ自分の心が……。


 アカネはコタツ君を見下ろし、どうしたらいいか考える。


「……こうなったらもうひとつの方法に賭けるしかないね」

「も、もうひとつの方法?」


 自分が犠牲になる以外で、紅葉を救う方法がなにかあるのか?


 じっと見下ろすアカネを、コタツ君が見上げた。


「『魔王眷属』の力を使う」

「ま、魔王眷属の力って……」


 小太朗と強い信頼関係で結ばれた者に与えられる強い力。

 確かそれはコタツ君にもあったはずだが。


「僕が『魔王眷属』で得た力は能力を増殖させて他者へ与えるものだ」

「能力の増殖?」

「そう。僕は自分の能力である攻撃の無力化を増殖させて、他人へ与えることができる。そしてこの効果は『魔王眷属』の力を得たときに君へ使用した」

「えっ? ってことはわたしも攻撃の無力化ができるってこと?」

「うん。これを僕から伝える手段が無かったから今まで知らなかっただけで、君はすでに自分を守る力を力を持っていたんだ」

「け、けど、そんなの使える感じとかまったく無いけど?」


 コタツ君が『魔王眷属』の力を得たのは何日も前のことだろう。

 そのときから自分に力が与えられているならば、それを身体に感じそうだが。


「僕の力はただ単に攻撃を防げる力じゃない。能力を発動させるには大切な人への揺るぎない強い想いが必要なんだ。それがあれば能力は自動的に発動する。僕は魔王様への想い。君も能力を発動できるとしたら、魔王様への想いだろう」

「小太朗への想い……」

「ホテルの件から君の魔王様への想いはわずかに揺らいでいる。そのわずかな揺らぎが能力の発動を妨げているんだ」


 ホテルでの件。

 確かにあのときから小太朗への想いに揺らぎがあったように思う。


「アカネちゃんは魔王様が大好きと言った。その想いを揺らぎなく強く持てば、能力は発動するよ」

「けど、それができたとしても、攻撃を無力化するだけじゃ……」


 状況はなにも変わらない。

 自分が攻撃を無力化できたところで、紅葉を救うことはできないだろう。


「いや。君は能力を所持したことで、もうひとつの力も同時に得ているはずなんだ」

「もうひとつの力?」

「『魔王眷属』だよ。悔しいけど、君はきっと……」

「なにをペラペラと話し合っていますの? 時間を稼ごうとしても無駄ですわよ。さあ、この攻撃を防いでごらんなさいっ!」

「……っ」


 ふたたび巨大な隕石が迫る。


「けれど防げばこの子を殺しますわ。さあどうするのかしら? カカカカカッ!」

「く、うう……」


 アカネはコタツ君を遠くへ放る。


「諦めましたわね。これであなたはわたくしのものですわ。カカカッ!」


 このまま小太郎を強く想えば攻撃は無力化できるはず。しかし攻撃を防いでしまえば紅葉を殺される……。


「コタロー……」


 ダメだ。小太郎への想いを無くそうと思えば思うほど、小太郎への想いが溢れて強くなっていく。


(ああ、わたしって、こんなにコタローのことが好きだったんだ)


 想いを無くそうと思えば無くそうと思うほど、それに逆らって無くしたくないという思いが溢れて大きくなってしまう。


「紅葉ごめん……」


 小太郎への想いはもう無くならない。

 自分ではどうにもできないほど、膨らみ切ってしまった。そして、


「あ……」


 巨大な隕石は自分の目前で消滅する。


「なっ!? 竜を手放しているのにどうして……? と、ともかく攻撃を防いでしまいましたわねっ! この子は殺しますわっ!」

「紅葉っ!」

「お、おねえ? えっ?」


 フランソワの手が紅葉へ向かって振り下ろされそうになる。……が、


「な……に? これは……?」

「な、なに?」


 どうしたのか?

 フランソワの姿が魔人から人間へ戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ