表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/290

第170話 大人の姿に(末松雪華視点)

  魔物になると思っていたのが、大人の身体になった。

 なにがなんだかわからず雪華は困惑する。


「なんで魔物にならねぇ? なんだ? なんでガキが成長してやがるんだ」

「知らん」


 しかしこの身体には力がみなぎっている。

 さっきまでとはまるで違う。三輪車からジェット機に乗り換えたような、それほどの違いを感じた。


「よくわからねえが、魔粒子が足りなかったか? だったらもっと魔粒子を浴びさせて魔物にしてやるぜっ!」


 魔人が消える。

 違う。素早いが、その動きは手に取るように見えていた。


「な……にっ?」


 蹴り上げを片手で掴んで受け止める。


 あまりに軽く、遅い蹴り。

 手加減しているのではと、そう思ってしまうほどだった。


「は、離せっ!」

「そう強くは掴んでおらんよ」


 パッと手を離すと、魔人はよろけながら退く。


「け、けけ、さっきよりちょっとは強くなったのか? だったらこいつはどうだ? ごぼ……おっ」


 大きく開いた魔人の口から筋肉質の人間がゴロゴロと20体ほど出てくる。


「また人造人間か?」

「ああ。だがさっきと同じじゃねぇ。この状態になった俺が作る人造人間は、さっきのやつより100倍は強力だぜ」

「そうか」


 それを聞いてもなんとも思わない。


 雪華が1歩前へ歩くと、20体の人造人間が一斉に襲い掛かって来る。

 ……が、すべて雪華へ迫る寸前で動きを止めてしまう。


「な、なんだ? なんで止まりやがる?」

「止まったのではない。もう死んでいるのじゃ」

「は? なっ!?」


 八つ裂きとなった20体の人造人間がバラバラとなって崩れ落ちる。


「な、なにを……」

「見ての通りじゃ」


 瞬間、魔人の寸前へと迫り、


「はっ!? ごぼあっ!?」


 右拳を腹部へと抉り込む。

 身体をくの字に曲げて呻いた魔人はヨロヨロと退き、


「ぼごあああっ!」


 なにかを吐き出す。

 体液塗れで吐き出されたそれは、先ほど太った魔人に食われた工作員の男だった。


「う……あ、がはっ! な、なにが……」

「ほお、生きておったか。運の良い奴じゃ」


 この魔人がどういう身体の構造をしているかは知らないが、どうやらまだ消化などはされずに中で生き残っていたようだ。


「な、なんだあんた? 誰だ?」

「邪魔だから向こうへいっとれ」


 雪華は工作員の首根っこを掴むと、柱の影にいるもうひとりのほうへと投げた。


「う……うごあああ……。ば、馬鹿なぁ……っ。な、なにも見えなかった。最強の魔人であるこの俺の目で、奴の動きを捉えられなかったなんてことが……っ。あまりえない……。こんなことあっていはずがないいいいっ!」

「わしも驚いておる。なんじゃこの力は?」


 身体中に力が満ち溢れている。

 理由がわからず不気味に思うも、しかしどこか身体に馴染んで心地良い。実に不思議な力であった。


「こ、こうなったら俺も本気だ。楽に死ねると思うんじゃねぇぞっ!」

「むっ!?」


 魔人の腰から左右に2本の腕が生え伸びる。

 そして筋肉のボリュームが2倍ほどに膨れ上がった。


「げははっ! 筋肉を倍増して攻撃力は2倍っ! さらに腕を増やしてさらに倍だぜっ!」

「……なんとも頭の悪いパワーアップじゃが、殴り合いの戦いならば合理的な戦闘強化じゃな」

「死ねっ!」


 魔人が目前へと迫り、4本の腕を使って攻撃をしてくる。

 雪華はそれを難なくかわしていく。


「なるほど。攻撃の速さと手数はたいしたものじゃ」


 冷静に敵の動きを見切って身をかわす。


「おらっ!」

「ふむ」


 拳が頬をかすり、雪華は後方へと退く。


「ひゃひゃひゃっ! どうした? 避けてばかりで攻撃ができてねーぞ?」

「そうじゃな」


 攻撃を返すことはできる。

 しかし魔人は大怪我を負ってもすぐに再生をしてしまう。殴る蹴るなどの攻撃をどんなに加えても意味は無い。殺すには、なにか強力な攻撃方法で一気に消し飛ばしてしまう必要があった。


「ふん。ならばわしもパワーアップをするか?」

「なに?」


 雪華は目を瞑り。両手を左右へ大きく開いて深呼吸をする。


「今のわしならば、受け入れることができるはずじゃ」


 そしてカッと目を開いた瞬間、周囲にある魔粒子の入った水槽のすべてが音を立てて破壊される。


「ま、まさかてめえ、ここにある魔粒子をすべて……」

「ああ。すべて身体に取り込む」


 魔粒子が雪華へと集まり、身体に取り込まれていく。

 ……膨大な魔粒子を身体へ吸収した。しかし肉体への負荷は無い。むしろ具合は良く、満ち溢れた力は完全に自分のものへとなっていた。


「……さて、次の一撃で最後にするかの」

「それはこっちのセリフだぜっ!」


 魔人は背丈と同じほどに口を開き、先ほどよりも大きな火球を吐き飛ばす。


「げひゃひゃひゃっ! 死ねっ!」


 目前へと迫る魔人の火球。しかし、


「なんじゃこんなもの。ふっ!」


 雪華は強く息を吐き出す。と、


「えっ? はっ? ぐあああっ!」


 押し返された火球が魔人の身体を焼く。


「こ、こんなことが……」

「さらばじゃ。憐れな兄弟よ。くあ……はっ!」


 大きく口を開いた雪華の喉奥から巨大な火球が吐き出される。

 避ける間も無く、魔人はその火球に飲まれ、


「ぐあああああっ!!!」


 さらに強い炎で焼かれる魔人の身体。

 ……やがてその身体は骨の一本も残さずに焼失した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ