第150話 テレビ出演の打ち合わせへ
……アカネちゃんから電話がかかってきたのは、日本へ戻ってしばらく経ってのことで、少しひさしぶりなので緊張した。
「ア、アカネちゃん、この前は……」
自宅で正座して俺は電話越しにアカネちゃんへ声をかける。
やっぱり怒っているみたいで、声音は不機嫌そうだった。
「この前のことはとりあえず置いとく。仕事の話」
「仕事?」
「テレビ局から電話があってさ。番組に出てほしいって」
「番組って……アカツキと白面が?」
「そう。別にテレビなんて興味無いし、面倒だから断ったんだけどさ、どうしてもって何度も頼んでくるから1回くらい出てもいいかなって。どうする?」
「俺はアカネちゃんがいいなら出るけど……」
テレビ出演なんて緊張するが、白面として仮面を被っているので大丈夫だと思う。
「わかった。たぶん収録前に打ち合わせとかあるだろうからさ、日取り聞いたらまた連絡するから」
「あ、うん。そ、それでアカネちゃん、この前のことなんだけど……」
「そのことは話したくない。それじゃ」
ブツっと電話を切られてしまう。
やっぱりむちゃくちゃ怒っている。
仲直りをしようと思っていたが、話すことを拒否されてしまった。……いや、仲直りもなにも、なにを言えばいいのかわからない。話せたとしても、碌なことは言えなかったと思う。
あれから無未ちゃんとも話していない。
アカネちゃんと同じように、かなり怒っているのだろう。
「どうしようかな……」
どうしようもなにも、どちらかを好きだと言うしかないだろう。
両方と仲直りなんてできない。どちらかとしか、仲良くはできないんだ。
「電話、誰からだったんじゃ?」
夕食のハンバーグをテーブルへ運びながら雪華が聞いてくる。
「アカネちゃん」
「ほう。仲直りできたかの?」
「いや、この前のことは話したく無いって。仕事の話だけ」
「仕事?」
「テレビ局の依頼でアカツキと白面がテレビに出るの」
「おおっ」
テレビと聞いて雪華は目を輝かせた。
「テレビに出るとはすごいのう。たいしたもんじゃ」
「別にそんな、たいしたことじゃないと思うけど……」
「なにを言っておる。テレビじゃぞ? 全国のお茶の間に見られるんじゃ。すごくないわけがないじゃろう」
「まあ……そうかな」
すごいと言えばすごいか。
しかし雪華は中身が古い人間なので、テレビに出るということを現代人が考える以上にすごいことだと思ってる気がする。
「一生の記念じゃ。ちゃんと録画をしておくからの。ビデオデッキはどこじゃ? ビデオテープも買わんとな。もちろん標準で録画するからの」
「いつの時代だよ……」
雪華は興奮しているようだが、俺はテレビ出演なんてどうでもいい。
アカネちゃん、無未ちゃんとの関係をどうしようか。考えるのはそのことばかりである。
……
……後日、アカネちゃんから連絡を受けた俺は、仮面を被ってダイヨーテレビの本社ビルへとやって来る。収録ではなく、事前の打ち合わせとのことだ。
「ア……アカツキちゃん」
テレビ局に着くと、すでにアカツキスタイルのアカネちゃんがいた。
声をかけるもそっぽを向かれてしまい、俺は肩を落とす。
……気まずい心地を耐えながら待っていると、やがてこちらへ誰かが歩いて来るのが見えた。
「すいません。お待たせしました」
声をかけてきたのは50代くらいの男性だ。
恐らく彼が俺たちの出る番組を担当するスタッフだろう。
「私はお2人にご出演いただく番組のプロデューサーをさせていただきます尾久と申します。こちら名刺です」
「あ、どうも」
名刺を差し出されると反射的に自分の名刺も出してしまいそうになるが、今回は白面として来ているのだ。自分の名刺は必要無い。
「アカツキです。こちらはわたしの名刺なのでどうぞ」
アカネちゃんはアカツキ用の名刺を持っているようで、それを渡していた。
「はい。本日は打ち合わせということで、ご足労いただいてありがとうございます。お部屋にご案内しますのでこちらへどうぞ」
「はい」
プロデューサーの尾久さんに案内され、俺たちはテレビ局の奥へ。
連れて来られた部屋へ入ると、すでにそこには2人の男女がいた。
「お待たせしました。こちらアカツキさんと白面さんです。それでこちらが……」
「わーっ!」
女のほうが声を上げて俺のほうへ駆け寄って来る。
「白面さんっ! わたし大ファンなんですーっ!」
「えっ? あ、あなたは……」
どこかで見たことがあるような……巨乳の若い女性であった。
「あ、こちらはグラビアアイドルの椿遊杏さんです」
「椿遊杏……」
そういえば前にテレビで見たことがあるような……。
「失礼、私は椿のマネージャーをしております羽佐間と申します」
「え、あ、はい」
インテリヤクザみたいな強面メガネの男から名刺を渡されて受け取る。
ボディガードかと思った。
身体はがっしりしており、とてもただのマネージャーには見えない。
「椿ですっ! よろしくお願いします白面さんっ!」
「あ……」
腕を取られて肘が巨乳の谷間へ挟まれる。
「はい。よろしくお願いします」
そう返すと、椿さんは意外そうな表情で俺を見上げていた。
「あ、と、すいません。腕……」
やんわりと腕を振りほどく。
俺の腕を離した椿さんは、やはり意外そうな顔……いや、少し不機嫌そうな顔で俺を見ていた。




