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第140話 魔人スキル『ペイン』

 英語で書かれているのでなにかはわからない。

 ただ、数字で表示された金額のようなものだけはわかった。


「これ、人身売買の取引記録だ」

「人身売買……って、まさか」

「子供を人身売買してるんだあの人」


 嫌な予感は的中だ。

 里親なんかんじゃない。ジェイニーは身寄りの無い子供を引き取って、人身売買を行っていたんだ。


 絶句。

 想像以上に下衆なことをしているようだった。


「とんでもない奴だな。あのシスター……」


 子供を食い物にして私腹を肥やしているカスが、世間では聖人として扱われているなんて世の中どうかしている。


「あ、これって、白面さん」

「なに?」


 これ以上ひどいものが出てくるとは考えたくないが。


「デュカスとのやり取りがメールにある。ジェイニーが言ってた慈善団体に協力してるってのは本当みたい」

「どうしてこんな悪人が慈善団体と関わっているんだ?」

「騙してお金を取ろうとでもしてるんじゃないの?」

「うん……。いや、もしかして……」


 小田原にジェイニー。下衆クズ2人が関わっている慈善団体。

 なにやらきな臭いような気がしてきた。


「――おやおや大きなネズミが2人も入り込んでるねぇ」

「!?」


 不意の声に背後を振り返ると、部屋の入り口にジェイニーが立っていた。


「ジェイニー……っ」


 初めて会ったときとはまるで違う悪辣な顔だ。

 あの善人面は仮面で、こっちが本来の顔なのだろう。


「勝手に人のものに触るなんてね、これは悪いネズミだよ。くくくっ」

「お前がやっている悪事にくらべればかわいいものだ。お前が魔人なのはわかっている。正体を現せクズめ」

「そうかい。どこで知ったかはわからないけど、そんなに早く死にたいなら望み通りにしてあげるよ、けけけけけっ!」


 老婆であったジェイニーの姿が変わっていく。

 肌は紫に。そして額と両肩に大きな角が生え伸びた。


「さあどちらから殺してほしい? あたしの魔人スキル『ペイン』で地獄の痛みを味わう病をくれてやる」

「病を与えるだと? そうかわかったぞ」


 難病を治すという奇跡。

 それがなんなのか俺は気付く。


「お前はスキルで人々を病にして、それを治すことで名声を得ていた。そして聖人と持て囃されて、この施設の運営という名目で多額の寄付金を集めていたんだ。お前自身が私腹を肥やすためにな」

「けけけ。その通りさ。あたしのスキルで与えた病はあたしにしか治せないからねぇ。金集めには便利なスキルさ」

「その上、国からの助成金や、人身売買でも私腹を肥やしている。子供を利用してどれだけの悪事を重ねれば気が済むんだ下衆めが」

「どいつもこいつも善人ぶりたいからねぇ。かわいそうなガキのためにって言えば、国や善人ぶりたい連中からいくらでも金を絞れるんだ。ガキってのは最高だよ。最高に楽して儲かる道具さ、けけけっ」


 およそ人間とは思えない醜悪な顔でジェイニーは笑う。


「この施設を作った神父は馬鹿だよ。楽して儲けることのできる道具が側にあるってのにそれを利用しないで、道具を養うだけで満足してやがった。まあ、神父がお人好しのマヌケだったおかげで、ここをいただくのも楽だったけどねぇ」

「ここの神父さんを殺したのか?」

「けけっ、ああ。病院での殺しがバレそうになって逃げてたあたしをあっさり信用して、教会のシスターにまでしてくれやがった。殺すのも楽だったよ。あいつはあたしを信用しきってたからねえっ! けけけけけっ!」


 ……真の下衆だ。こいつは。

 神父が信じていた神ならば、こんな奴にでも慈悲を与えるのかもしれないが、俺はこいつに対して微塵すら慈悲の心を持たない。


「始末する前に聞く。お前は人間か? それとも魔人が人間の姿をしていたのか?」

「冥土の土産に教えてやるよ。あたしは元人間さ。ある人物から力をもらって魔人となった」

「その人物とは誰だ?」

「土産はひとつで十分だよ。さあ、おしゃべりは終わりだ。あたしの魔人スキル『ペイン』で苦しみながら死になっ!」


 紫色に光るジェイニーの手がこちらへ向く。


「けけけけけっ! 激痛が走る腫瘍をお前の体内に作ってやったぞっ! 痛みで苦しみもがけ……ん?」


 楽しそうに笑っていたジェイニーの表情が疑問に固まる。


「なんだ? なんで平然としていられるんだ?」

「お前の魔人スキルとやらが効いていないからだろ」

「そ、そんなはず……。だったらこれはどうだいっ! 魔人スキル『ペイン・ウイルス』だっ!」


 今度はジェイニーの全身が光る。


「これはあたしの周囲にいる人間にウイルスを感染させるスキルさっ! このウイルスに感染したら、全身が赤く腫れあがって痛みにもだえ苦しみ……あれ?」


 そのウイルスとやらは実際、周囲に存在しているのだろう。アカネちゃんの抱いているコタツが光っているのがその証拠である。


「な、なぜ平気なんだい? こんなこと今までなかった……っ」

「俺に状態異常攻撃は通用しない」


 もちろん病気という状態異常も無効だ。


「な……っ。そんなはず……。か、仮にそうだとして、そっちの女にも効かないのはどういうわけだいっ!」

「冥途への土産はひとつで十分だ」


 拳を握った俺はジェイニーに一瞬で近づき、


「ぎゃっ!?」


 その醜悪な顔を殴って潰す。が。


「け、けけけ……無駄だよ」


 潰れた顔が再生する。


「魔人は不死身だ。いくら傷つけてもぐぎゃっ!?」


 さらに殴ってふたたび顔面を潰す。

 再生しては潰し、再生してはまたぐしゃりと殴り潰す。


 返り血を浴びるも、関係無く俺はジェイニーの顔を何度も殴り潰した。


「ぎゃああっ! い、痛いっ! もうやめぶぎょっ!」

「再生はしても痛みはあるだろう。それにお前ら魔人は不死身じゃない。跡形も無く粉々にすれば殺すことはできる。けどそんな簡単には殺してやらない。お前のやってきた邪悪な所業は、一瞬の苦しみで許されるものじゃない」

「ぐぎゃっ! ごぎゃっ! ぎゅがああ……」


 痛みに叫び、そして呻くジェイニー。

 その表情の大半は苦しみだが、不気味な笑みもわずかに見せていた。

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