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第137話 施設に住む子供たち

 口調はまるで別人だが、声は同じだった。


「あーんっ! いたいよーっ!」

「や、やめてくださいシスターっ! この子はお腹が空いたって言っただけじゃないですかっ! 棒で叩くなんて……」

「うるさいねっ! あんたもぶたれたいかいっ!」

「わたしをぶつのは構いませんっ! けど、この子たちにもっと食べ物をあげてくださいっ! このままでは栄養失調で死んでしまいますっ!」

「ふん。1日にパンを1つもくれてやってるんだ。それで十分だろう。死んだらそれで構わないさ。ガキなんかいくらでも仕入れられるんだからね。ひゃひゃひゃひゃひゃっ」


 不気味に笑ってジェイニーは去って行く。


 とんでもないクズババアだ。

 この場で捕まえて始末してやろうと思ったが、側には子供たちがいる。戦いに巻き込んでしまってはいけないと、ここは堪えた。


「大丈夫アンナ? ああ、血が出て……」

「ぐす……痛いよ。お腹空いた……」

「ごめんね。ここには食べ物が無くて……」


 食べ物は1日にパンひとつと言っていたか。

 そんなので足りるはずはない。


「あ……」


 アンナという女の子がこちらを凝視し、俺と目が合う。


「えっ? 白面?」


 そう言うと、その子のうしろからわらわらと子供が出てきてこちらへ目を向ける。

 子供たちは目を丸くして俺をじっと見ていた。


「ど、どうも、白面です」


 なんと言っていいかわからない俺は、アカネちゃんと一緒に子供たちの前へ出て行ってありきたりなあいさつをする。


「わーっ!」


 子供たちが嬉しそうに声を上げる。


「本物?」

「わあ、すごいっ」


 俺を白面と知った子供たちが嬉しそうに見上げてくる。


「白面? ……本物ですか?」

「まあ一応……。証明はできないけど」


 ミラ姉と呼ばれていた子から訝しげに見られて、少し戸惑う。


 このままでは顔を隠した怪しい侵入者にされてしまうかも……。


「あ、っと、それよりも……」


 アンナの前で屈んだ俺は、ジェイニーにぶたれてついた傷を治癒魔法で治す。


「あ………治ったっ! もう痛くないよっ!」

「け、怪我が一瞬で……。確か白面って傷を治すスキルを持ってるらしいし、じゃあやっぱり本物なの?」


 まだ少し疑いの目で見られ、困った俺はアカネちゃんへ視線を移す、


「本物だよー☆あたしはアカツキ……の中の人でーす☆」

「アカツキの声と一緒だー」

「でも中の人ってなに?」


 ……子供には中の人が伝わらないようだった。


「白面は本物だよっ! だって動画と一緒だもんっ!」

「うん? 動画?」


 子供のひとりがスマホを持ち上げて言う。


「そのスマホは……君の?」


 ずいぶんと古いものだ。ジェイニーの様子からして、スマホの所持なんて許してはくれそうにないが……。


「これ? これはミラ姉のだよ」

「あ、ミラ……ミランダはわたしです。そのスマホはここへ入る前から持っていたもので、シスターには黙ってます。知られたらとられるかもしれないので」


 ミランダと名乗った年長の女の子がそう答える。


「そうなんだ。ネットには繋がってないの?」

「電話はできません。けど電波があればネットには繋がるので、シスターのビジネスに付き合って外に出るとき、フリーの電波があるところでこっそり動画のダウンロードをしてきてるんです」

「シスターのビジネスって?」

「世間の同情を買うための営業ですよ。主にテレビの取材とかですけどね。こんなボロボロの施設で取材させるわけにはいかないからって、そういうときだけ綺麗な施設を借りるんですよ。普段は外に出してはもらえませんけど、取材のときだけわたしたちは綺麗な服を着せられて外出できるんです」


 完全に子供を商売の道具として扱っているということか……。


「でも取材のときだけ別の施設で生活してる振りをするわけでしょ? あとでバレたりしないの?」

「施設を管理してる人もグルなんですよ」

「なるほどね」


 もはや犯罪組織みたいなものか。


「スマホがあるならここの状況を撮影をしてSNSとか動画サイトで拡散するっていうのは?」

「それは考えました。けど、シスタージェイニーは世間的には奇病を完治させた聖人として扱われて、彼女を信奉する人は多いです。彼女を悪だと告発する動画を撮影して、それを信じてもらえるかどうか……。もしも悪質なデマだと世間に誤解されて無意味になれば、シスタージェイニーからどんな仕置きを受けるかわかりません。それを考えると……」

「そうか……。そうだね」


 しっかりしているようだが、ミランダはまだ子供だ。

 強大な悪と戦う覚悟を持つにはまだ若過ぎる。


「ねーミラ姉、お腹すいたー」

「すいたー」


 子供たちがお腹を鳴らしながらミランダの服を引っ張る。


「ごめんね。本当になんにもなくて……」


 ミランダも他の子供たちも痩せて顔色があまり良くない。栄養のあるものはなにも食べられていないようだった。


「そうだ。ねぇ白面さん、転移ゲートを開いてよ。わたしがなにか買って来るから」

「あ、うん。わかった」


 アカネちゃんの提案を聞いた俺は、虚空へ転移ゲートを開く。


「わっ! なにこれっ!」


 子供たちが興味深そうに眺める中、アカネちゃんは転移ゲートへ入る。

 ……そして10分ほどで戻って来て、


「はい。食べ物たくさん買って来たよ」


 どさどさとピザやらハンバーガーなどの食べ物、コーラなどの飲み物をテーブルへ置く。


「わあっ!」


 たくさんの食べ物を前に子供たちがテーブルへと集まって来る。


「さあどんどん食べていいよ。足りなければまた買って来てあげるから」

「やったーっ! ありがとうおねーちゃんっ!」

「わーいっ!」


 嬉しそうに声を上げた子供たちが、一斉に食べ物を手に取る。


 よっほどお腹が減っていたのだろう。子供とは思えないすごい勢いで食べていた。


「急いで食べると喉につかえるからね。ゆっくり食べなさい」

「はーい」


 アカネちゃんに言われて多少は勢いが落ち着くも、子供たちは早い速度で食べ物を平らげていた。


「さ、君も」

「あ……」


 子供たちの食べる様子を眺めるミランダへも食事を勧める。


「わ、わたしは……あ」


 ぐーとお腹を鳴らした彼女は、恥ずかしそうに俯く。


「君も満足に食べられていないんだろう? 遠慮することはないよ」


 むしろ一番に食べられていないのではないだろうか?

 そう思えるほどミランダはやつれ果てていた。


「ミラ姉」

「あっ」


 ハンバーガーを持って来たアンナが、それをミランダへ向かって掲げる。


「ミラ姉、いつもアンナたちに食べ物を分けてくれてぜんぜん食べてないから元気ないよ。いっぱい食べて元気になって」

「アンナ……うん」


 ハンバーガーを受け取ったミランダがそれを食べる。

 おいしそうに食べるミランダを、アンナは嬉しそうに見上げていた。

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