第133話 全身に魔力が溢れる魔人
女の姿をした魔人はニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「魔人か」
筋骨隆々のでかい魔人。
顔の雰囲気と声からして女とわかるが、首から下だけを見ると身体を限界まで鍛え上げた男のようであった。
見るからに力が強そうだ。
ケビン君の言っていたものすごい力の女魔人とはこいつのことか?
「そう。私は魔人ですよ、カカ」
「なんの用だ?」
「あなたを殺しに来ました」
「俺はただの旅行者だ。魔人に命を狙われる理由は無い」
不法入国だけど……。
「なら、白面を殺しに来たと言えば理解できますか?」
「……なぜ俺が白面だと知っている?」
気をつけてはいたが、仮面を外すところを見られたか?
そうとしか考えられなかった。
「カカカ、そんなことを気にしている場合ですか? あなたはこれから……死ぬんですよっ!」
魔人が剛腕を振り上げて襲い掛かってくる。
アカネちゃんを抱えて飛び退ると、さっきまで立っていた場所を魔人の剛腕が振り抜く。
「コタツっ!」
呼ぶと、ベッドの下からコタツが顔を出して俺のほうへ素早く飛んでくる。
「アカネちゃんを守れ。いいな?」
「きゅー」
コタツを抱いたアカネちゃんを背に、俺は魔人を睨む。
「いい反応です。雑魚ではないということですか」
「……白面の命を狙う理由は仲間の敵討ちか?」
海岸で殺した魔人。
魔人に命を狙われる理由があるとすれば、あの男の仇討ちだが……。
「仇討ち? それはなんの話ですか?」
「俺は以前に魔人をひとり殺した。そいつの仇を討ちに来たと思ったんだがな」
「カカ、お前が殺した魔人の角はいくつでしたか?」
「角? 2本だ」
「ならそいつは雑魚ですね。私はそいつよりずっと強いですよ。カカカ」
……確かに、こいつは海岸で倒した魔人と違って全身から魔力が溢れている。離れていても強く感じるほどに。
魔力を感じるということは、なにかしらの魔法を使っているということだ。あの筋骨隆々の肉体にはなにかしらの魔法……いや、魔人の使うスキルが使用されているのかもしれない。
「コ、コタロー……」
背後ではアカネちゃんが不安そうに俺を見上げていた。
「大丈夫。コタツを抱いていれば君に危害は及ばないから」
「コタローは大丈夫なの? あれ、なんかすごい強そうじゃない?」
「うん。勝てるとは思うけど……」
身体に満ちている魔力が気になる。
あれがなんらかのスキルならば、警戒はしたほうがいいだろう。
「お別れのあいさつをする必要はありませんよ。あなたを殺したらその娘もすぐに殺して同じところへ送ってやりますからねっ! カカカカカーっ!」
ふたたび剛腕で襲い掛かってくるが、
「ふっ」
目の前で振り抜かれた左腕を掴む。
「なにっ!?」
「たいした力だ」
まともに食らえば肉体が消し飛ぶほどのパワー。
だがしかし、それは食らうのが並みの人間だったらの話だ。
「ここじゃ狭い。外へ出て行け」
「うおあっ!?」
腕を掴んだまま、魔人の身体を振り回して割れた窓の外へと投げ飛ばす。
それから俺は白面を被った。
「あいつを仕留めてくる。アカネちゃんはここで待ってて」
「あ、うん。……配信をする余裕はありそう?」
「魔人の正体を突き止めにきたんだ。俺は仮面のカメラで奴をしっかり撮るから、アカネちゃんは配信のほうをばっちり頼むよ」
「う、うん。気をつけてね。帰って来たら……続きしてあげるから」
「つ、続き……」
さっきまでそこのベッドでアカネちゃんとしていたことを想像して、ふたたび身体が熱くなってくる。
もう少しでキスが……。
「コタロー?」
「あ、いや、コ、コタツ、アカネちゃんを頼んだぞ」
「きゅー」
コタツにアカネちゃんを頼み、俺は魔人を追って窓の外へ。
魔人はホテルの下へ落下しており、俺もそこへ飛び降りる。
「逃げずに待っててくれてよかったよ」
こいつからは魔人の正体を聞き出す必要がある。
アカツキちゃんネルを盛り上げるために逃がすわけにはいかない。
「私はあなたを殺しに来たのですよ。逃げるわけがありません」
「俺を殺したい理由をまだ聞いていなかったな」
仲間の仇討ちではないのなら一体なんなのか?
「別にたいした理由じゃありませんよ。生意気な新入りがあなたを殺したがっていましてね。代わりに殺してやったら悔しがるだろうと思っただけのことですよ。要は単なる嫌がらせですね」
「俺を殺したがっている新入りだと?」
白面はちょっとした有名人だ。
なにかの理由で俺を気に入らないと考えている輩でもいるのだろうか。
しかし新入りという言葉が引っ掛かる。
新人が入ってくるような魔人の組織が存在するということか……?
「お前たち魔人は何者だ? どこから来た?」
「黙りなさい。あなたはおとなしく私に殺されるだけでいいのですよっ!」
地面を蹴って襲い掛かってくる魔人の剛腕をかわす。
やはり凄まじいパワーだ。しかしそれだけ。
本当にそれだけならば、倒すのは容易だが……。
俺は様子を見るため、こちらからは手を出さず魔人の攻撃をかわし続ける。
「どうしました? 避けるばかりじゃないですか」
「……」
やはりこいつの身体に満ちている魔力が気になる。
肉体を強化する魔力か? 攻撃方法から考えると、その可能性は高い。
「だったら」
俺は振り下ろされる魔人の右拳を左へかわし、固めた左拳をわき腹へと抉り込む。
「……っ」
しかし魔人は平気な顔で俺を見下ろして笑う。




