第128話 海外でも大人気の白面おじさん
「白面? あの?」
「おーマジで白面だっ! 動画で見たのと一緒だっ!」
「てか今、動画配信中だぜっ!」
「本当にイギリス来てたんだっ!」
大勢が周囲に集まって人だかりができる。
一体なんなんだ?
周囲の人たちは白面白面と嬉しそうに声を上げているが、当の俺はわけがわからず戸惑っていた。
「白面さんはやっぱり外国でも人気だねー☆」
「や、やっぱりって?」
「アカツキちゃんネルは海外でも人気なんだよー☆動画に英語とか外国語のコメントもいっぱいもらってるしねー☆」
「そ、そうなんだ」
流れが速いのではっきりとは見えなかったが、確かに日本語ではない文字でもコメントがたくさんあった気がする。
ぬまっきー:白面さんはやっぱり海外でも人気なんだなー
そらー:そらあんだけ強ければね
おやつ:白面さん地球最強の生物説あるからな。世界中にファンいるよ
マジで? 俺ってそんなに人気者だったのか……。
「白面さん握手してっ!」
「サインちょーだいっ!」
「白面っ! 白面っ!」
すごい熱気だ。
街中に漂っていた暗い雰囲気はどこへやら。俺たちの周囲は大勢の活気に満ち溢れていた。
「白面さんここにサインしてーっ」
「あ、はい」
中には俺と同じ仮面を被っている者もいて、俺は指し示された仮面の頬部分に白面と漢字て書いた。
「俺も俺もっ!」
「わたしーっ!」
「は、はいー」
仮面やら俺の写真がプリントされたTシャツにサインを書いたり握手をしたり。
まるでタレントのイベントであった。
「動画とおんなじで物腰柔らかいなー」
「すげー強いのに普通の人っぽいのがギャップでおもしろいよねー」
まあ実際、中身は普通の人である。
仮面を取って中から普通のおっさんが出てきたらがっかりされるだろうなぁと思いつつ、俺はファンの声に答えていった。
人が集まり過ぎてしまったのか、やがて警察がやってきて集団を解散させる。
俺とアカネちゃんは外国のファンに別れを言いつつ、手を振った。
「はあ……。なんか大変だった」
まるで有名人になった気分……いや、だいぶ有名人か。
日本ではそこそこ有名かなくらいには思ってたけど、まさか海外で俺がここまで人気とは……。
「あ、白面さん、魔人のこと聞いてないよ」
「そうだった」
想定をしていない状況に、当初の目的はすっかり忘れてファンサービスに没頭してしまっていた。
最初に声をかけたおばあさんはもういないし、他に誰か……。
「あの……」
「うん?」
声をかけられ見下ろすと、そこには小学生くらいの男の子が……。
サインを書いてほしいのだろうか?
そう思った。
「君もサインがほしいの?」
「あ、はい。えっと、ここへお願いします」
「うん」
着ているTシャツにサインを書いてあげる。
……ずいぶんと痩せた子だ。
血色は良くないし、着ている服もボロボロであった。
生活が苦しい家庭の子なのか、もしくは魔人の被害に遭って……。
「はい。書けたよ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言う彼は痩せた顔をわずかに微笑ませた。
「あの、アカツキさんと白面さんはなぜイギリスに来たのですか?」
「えっ? あー……その」
被害に遭った彼にとって魔人はあまり思い出したくない存在かもしれないし、なんと答えたらいいか迷う。
「魔人、ですか?」
「あ……っと……まあ」
意外にも、彼の口から魔人という言葉を聞く。
「それじゃあもしかして魔人を倒しに来たのですか?」
そう言った彼の表情にわずかだが明かるさが灯った。