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第124話 嫁候補とお義母さん

 翌日は休みだったので家にいた。


「ここが良いのか?」

「あ、おー……そこいい。そこもっと刺激して」

「こうかの?」

「そーそうそう。もっと力強く……」


 ピンポーン。


 心地良い刺激に声を上げていると、そこへ訪問をしらせる音が聞こえる。


「わしが出るのじゃ。……なんじゃ無未ちゃんかの」


 どうやら来客は無未ちゃんのようだ。


「お邪魔しまーす。ってあれ? なにしてるの小太郎おにいちゃん?」


 カーペットにうつ伏せとなっている俺を見下ろして、無未ちゃんはかわいらしく首を傾げる。


「こうしてるのじゃ」


 戻って来た雪華が俺の背中に乗って、ぐりぐりと踏みつけてくる。


「あーそこ。気持ち良い……」


 ひとりでは味わえない心地良さだ。


「こ、小太郎おにいちゃんにそんな趣味が……。うん。だったらわたしも女王様としてがんばらないとねっ」

「えっ? んがあっ!?」


 こちらへ歩いて来た無未ちゃんがグギリと俺の背中を踏む。

 瞬間、変な悲鳴が俺の口から飛び出た。


「そんなとこ踏んだら痛いのじゃ」

「でも小太郎おにいちゃんは痛いのが好きなんでしょ?」

「な、なんの話ぃ……? ぐふっ」


 痛いのは嫌い。

 けど無未ちゃんに踏まれる痛みはちょっと気持ち良い不思議。


「あれ? 違うの? だって雪華ちゃんに踏まれて気持ち良いって……」

「これはマッサージじゃ」

「マ、マッサージ?」


 そうマッサージ。

 うつ伏せになった俺は、雪華に背を踏まれてマッサージを受けていたのだ。


「うむ。わしが踏んで凝り固まった筋肉をほぐしてやっていたんじゃ」

「あ、そうだったんだ……。わたしてっきり小太郎おにいちゃんは痛いのが好きな人なのかと勘違いしちゃって……。ごめんね」

「い、いや大丈夫」


 ちょっと気持ち良かったのでそんなに間違いでもないし。


「まったく親をマッサージするのではなく、親にマッサージをさせるとはなんて親不孝なんじゃ」

「いいじゃないか。背中を踏んでくれるくらい」

「だからこうして踏んでやってるのじゃ」

「おほぉ……」


 凝っているところをグリっとつま先で踏まれて、俺は声を上げた。


「はあ……あ、ごめんね無未ちゃん。せっかく来てくれたのにこんな状態でお茶も出さないで」

「あ、いいのいいのお構いなく。それよりもわたし今日は雪華ちゃん……いえ、お義母さんに用があって来たの」

「お、お義母さんって……」


 雪華は雪華であってお母さんでは無いし、お義母さんはもっと違うと思うのだが……。


「わしに用とはなんじゃ?」

「はい。わたし花嫁修業がしたいんです」

「花嫁修業? ほう」

「だからお義母さんに小太郎おにいちゃんが好きな料理の味付けとか教えてもらおうと思って、今日はお願いに来ました」

「ふむ。いいじゃろう」


 寸刻すら間を置かず雪華は無未ちゃんのお願いを快諾する。


「あ、ありがとうございますっ!」

「うむ。わしも嫁の教育はしておかんといかんと思っていたところじゃ。しかしわしは厳しいぞ。最後までついて来れるかの?」

「もちろんですっ!」


 俺の背から降りた2人は手を取り合う。


 俺の話なのに、俺は完全に置いてけぼりだ。

 というか、なんかもう無未ちゃんと結婚が決まってるみたいな流れになってるし。


「ではうちへ行きましょうっ! ここより食材とかいっぱいありますし、何日でも泊っていただいて大丈夫ですからっ!」

「ほう。それはよい。では何日か泊まってみっちり教育してやるかの」

「はいっ! じゃあ小太郎おにいちゃんっ! わたしがんばってくるからねっ!」

「しばらく留守にするからの。食事はちゃんと自分で作って摂るんじゃぞ」

「あ、はい」


 うつ伏せの俺を置いて2人は玄関から出て行く。


 あの2人が並んで歩いていたら、若い美人ママとかわいい娘ににしか見えない。

 とても義母予定と嫁候補には思われないだろう。


「あーもうちょっと背中のマッサージをしてほしかったなぁ」


 しかし出掛けてしまってはしかたない。


「勉強でもするか」


 最近はいろいろあってやっていなかったが、俺は社会人での大学進学を目指しているのだ。ちゃんと勉強はしないと……。


「けどやる気出ないなぁ」


 しばらくうつ伏せのまま、俺は勉強するか悩んでいた。


「なにしてるのコタロー?」

「えっ? あ、アカネちゃん」


 ぼーっとする俺の頭上から声が聞こえ、見上げるとそこにはコタツを抱いたアカネちゃんが立っていた。


「あれ? 雪華、鍵をかけていかなかったのかなぁ?」

「これ」


 アカネちゃんの右手に光るもの。

 それは俺の家の鍵だった。


「あ、それ……」


 あのときの合鍵……。雪華に渡そうと思って引き出しにしまって置いたのが見つからなくて、どこへいったんだろうと思っていたが。


「またアカネちゃんが持って行ってたんだ」

「いいでしょ?」

「うん」


 無未ちゃんが知ったらまたひと騒動起こりそうではあるが……。


「それよりなにしてるの?」

「あ、ああ。さっきまで雪華に背中を踏んでもらってマッサージをね」

「雪華ちゃんは……出掛けたの?」

「うん。無未ちゃんとね」


 花嫁修業云々は黙っておこう。


「そう。じゃあ続きはわたしが踏んであげるね」

「えっ? いやちょ……っ」


 無未ちゃんに踏まれたときの激痛を思い出す。

 拒否しようとするも、すでにアカネちゃんは俺の背に足を下ろし……


「おほぉ……」


 心地良い刺激を与えてきた。

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