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第118話 チビママとの生活

 仕事を終えて帰路につく。


 しかし小田原を見つけろか。


 いや、正確には殺せということだろう。

 それはいいが、さてどこを探せばいいのやら。


 あいつがなんで行方を眩ませたのか、どこへ行ったのかなど見当もつかない。せめて行方不明になった理由がわかれば、行き先の予想もできそうだけど。


 どうしたものかと考えつつ、俺は自宅へ帰って来て玄関の扉を開く。


「ん? 帰って来たのかの。おかえり」


 夕飯を作っているのか、玄関の先には台に乗ってキッチンへ向かう割烹着姿の雪華が見えた。


「ただいま。今日の晩御飯はなに?」

「ゴーヤチャンプルーじゃ」


 ゴーヤチャンプルーか。

 たぶん自分では作らない料理だ。


「帰って来たらちゃんと手を洗ってうがいをするんじゃぞ」

「うん」

「できるまでまだ時間がかかるからの。先にシャワーを浴びるとよい」

「わかった」


 手を洗ってうがいをした俺は、服を脱いでシャワーを浴びる。


 雪華と一緒に住むようになってからだいぶ生活が楽になった。

 料理掃除洗濯などの家事はすべてやってくれるので、俺の自由な時間はだいぶ増えてかなりありがたく思っている。


 母親の記憶を持つ生物兵器の幼女。

 正直、俺はこの子をどう思えばいいか迷っている。母親の記憶は持っているものの、もちろん母親ではない。しかし生物兵器などとは思わないし、なんとも難しい存在である。


 シャワーを浴び終えて浴室を出ると、雪華は作った料理をテーブルへと運んでいた。


「着替えはそこに置いておいたからの」

「あ、うん」


 それを着た俺は、テーブルの前に座る。


「うまそうだなー」


 良い匂いの料理に手を伸ばす。


「こらっ! つまみ食いなどするでないっ! 行儀が悪いのじゃっ!」

「あ、ごめん……」


 怒られた俺は手を引っ込めて俯く。


 俺はこの子をどう思っていいか迷っているが、雪華は俺を息子だと思っているらしく、母親のようにいろいろと口うるさい。しかしそれを少し嬉しく思えるので不思議だった。


 やがてすべての料理がテーブルへと揃う。


「さあさ、たくさん仕事をして腹が減っとるじゃろう。おかわりもあるからの。たくさん食べるのじゃ」


 料理を運び終えた雪華が、俺の向かいに座って茶碗にご飯をよそってくれる。


「あ、うん。いただきます」


 いっぱいにご飯がよそられた茶碗を受け取って食事を始める。


 主菜のゴーヤチャンプルーを箸で摘み、口へと運ぶ。


 ……うまい。


 自分でも料理はするが、これほどうまいものは作れない。母さんは料理上手であったと記憶しているが、それは雪華も同様であるみたいだ。


「どうじゃ? うまいかの?」

「うん。うまい」


 そう答えると、雪華は嬉しそうに笑って自分も食事を始めた。


 ……やがて食べ終わり、雪華が淹れてくれたお茶を飲む。

 目の前では落ち着いた様子で雪華がお茶をすすっていた。


 一見すると普通の幼女。

 しかし中身は優れたダンジョン研究者であり、その記憶を持つ生物兵器。


 父さんはきっと、冷徹な研究者であったらしい母さんの記憶を持つ冷徹な生物兵器の完成を見込んでいたのだろう。

 だが雪華にはその冷徹さがない。研究者としての知識はあるようだが、人格は俺の知っている子供想いの母親だ。


 この世界の母さんの記憶が雪華に移植されたのなら、俺の知る母さんの記憶は無いはず。これは一体どういうことなのか? ずっと考えているが、さっぱりわからず答えに行きつくことができていなかった。


「なんじゃ? わしの顔をじっと見おって?」

「あ、いや……」

「わしの記憶が不思議か?」

「はは、君には俺の考えが見透かされてるな」


 やっぱりこの子の中には俺の母さんがいるんだなと苦笑した。


「わしもずっと考えておったことじゃ。それで、お前は自分なりになにか答えは見つけられたかの?」

「残念ながら」


 俺は肩をすくめて首を横に振る。


「ふむ。わし自身も混乱していることじゃ。わしの頭には研究に没頭して家事や育児を一切しなかった末松冬華の記憶と、研究など知らずに家事や育児を日々こなしていた末松冬華の記憶がある」

「うん」


 これは本当に奇妙なことだ。

 俺の知っている父さんと兄さんはいない。母さんも完全に別人のはずが、雪華の記憶には俺の知る母さんが存在している。意味がわからな過ぎて俺の頭でこの疑問を解消できる気がしなかった。


「実はある程度の答えは見つけてあるんじゃ」

「えっ? そ、そうなのか?」

「うむ」


 お茶を飲み干して立ち上がった雪華は、パソコンの前へと歩いて行く。


「少しパソコンを借りたぞ」

「ん? でもパスかかってたはずだけど?」

「気の小さいお前のことじゃ。忘れたら困るからと、どこかにパスワードをメモした紙があると思っての。机の引き出しを探したらあったのじゃ」


 と、雪華はキーボードでパスワードを入力してデスクトップ画面を映す。


「さてこれから映像を見せるのじゃが、先に結論を言ってしまえば、恐らく今いるこの世界は本来の世界が変貌している姿ということじゃ」

「え……?」


 それは一体どういう意味なのか?


 これから見せられる映像、そして語られる雪華の話に俺は興味をそそられた。

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